応対
15の続きです
ありがとうとお話が終わった後送信して、愛おしさを伝えたかったからハートの絵文字を送ることにした。
普通の赤とかピンクじゃ、安直すぎるし味気がないから月さんのことを思い浮かべて何色のイメージがあるか考えてみた。
その時に月さんがよく白い絵文字を使うことを思い出して僕も真似して白いハートにすることにした。
ハートを送ることにすごく緊張したし送った後もどう受け取られるのか気が気でなかった。
想いがバレてしまえとどこかで願う。
意外にもハートには触れてこなかった。
気づいていないわけがない。
意図に気づいてあえて触れてこないのかやっぱり迷惑だったのか。
心配して、もう返ってこないんじゃないかと思いながら祈っていた。
悪い想像とは裏腹に割とすぐ返信してくれた。
お礼の言葉と癒されたということが記されていた。
「癒された」という言葉にとてもうれしくなった。
こんな僕でも人を癒すことができるのだなとしかも月さんに言われたことが感情を倍増させる。
嬉しい気持ちがしばらく続いたまま
またすぐにでも叶うなら今日またおはなししたいという気持ちでメッセージを返した。
そしてまた僕の気持ちを添えるように「らぶです」と付け加えた。
今日はバイト先でシフトが被っていくうちによく話すようになり仲良くなった玲奈
と遊ぶことになっている。妹と母親以外で久しぶりにしっかりと話す女の子だった。
玲奈は僕と同い年で通っている大学は違うけど、学生生活での悩みや年相応のお互いの恋愛観などを会話するうちに打ち解けた。
Itoも交換して連絡もするようになったとき僕が美術館に行きたいと言ったことを覚えていてくれたようで
この前陽美術館行きたいって言ってたよね?
これ一緒に行かない?
と美術館の企画展ポスターと一緒に送られてきていた。
もちろん行きたかったからいいよと快諾した。
場所は六本木にある森美術館だ。
お互いの住んでいる場所は近かったから高田馬場駅の改札前の柱で待ち合わせをして
ついた。と連絡が来たと同時に手を振ってこちらへ向かってくる女の子が見えた。
玲奈の私服姿を見るのはこれが初めてでなんだか変な感覚だった。
いかにも今どきの女の子のような服装をしている。
山手線から都営大江戸線を乗り継ぎ六本木駅に着いた。
電車に揺られている間講義の話や好きなアニメの話とかをしながら傍らぼんやりとつり革をつかみながら
(もしやこれはデートなんじゃないか?!)
いまさらながらそうなのではないかと気づくとつり革をつかんでいる手には汗がにじむ。
玲奈の過去の言葉もフラッシュバックしてきて信憑性の高さを押し上げていく。
女子大だから出会いがないとか、好きな髪形、過去の恋愛。。
思い返すとそういう意図だったのではないかと心当たりがあるように思えてきた。
仲良くなったから軽い気持ちで誘いを受けたけど間違っていたのではないか。
自意識過剰と言われるとそれまでだが六本木駅に着く頃には、玲奈をエスコートする体制に入っていた。
1C出口を出てすぐのエスカレーター。
玲奈は調べものをしていたので僕の少し後ろを歩いていたが、エスカレーターを視認した瞬間レディーファーストのジェントルマンが僕に憑依して玲奈を先行させる。
玲奈は「ありがとう。」と言ってエスカレーターに乗った。
その後ろを背後は任せろと言わんばかりに一段下にピッタリと追従する。
登りきるとお次は隣を同じペースで歩き話すときは目元しか見ないようにした。
いつもつけているカラコンとは違うことにようやくその時気が付いた。
言葉にしたらキモイかと思って飲み込んだが、いつもより気合が入っているのが見受けられた。
そういえばバイト先で話しているときも玲奈からバイト先の女性陣から僕が目を見て話すのが好評だという噂を聞いたことを思い出した。
ルイーズ・ブルジョワの巨大蜘蛛のオブジェの横を通り過ぎて、森美術館へとつながる階段を上り渡り廊下を経て到着した。
チケットは当日券を券売機で購入した。土日のわりに観覧する人は少ないようだ。
52階までエレベーター高速で駆け上がっていくことに驚いたし、初めての経験だった。
係員の指示に従いながら右に曲がり53階の展示場へと向かう途中で
玲奈に
「トイレ平気?」
と尋ねた。
行っとこうかな、というので僕たちはトイレに向かった。
無論二手に分かれて各々の「用を足す」
僕は洗面所の鏡の前に立ち、見た目に不備がないか今一度確かめる。
髪形は平気か、目やにはついてないか、鼻毛は出てないか。
今さらかも知れないが、トイレ平気?と聞いたのは身だしなみが気になっていただけで玲奈に気を使ったわけではなかった。
(ジェントルマンは既にどこか行ってしまったようだ。)
男子トイレから出て出口付近で待っている間もスマホの画面を鏡にしながら最終チェックをしていた。
玲奈も出てくると少し小走りで小ぶりの体を動かしてこちらに向かってくる。
ごめん、お待たせ。と謝りながら前髪を触っている。
さっきよりも唇が少し艶めいているように見える。
前より茶色が落ちてきて赤っぽく髪色がなり始めたのだなとふと思った。
53階に上り現代美術を初めて見た。正直美術館に行くことすら初めてである。
こんな空気感なのかと圧倒された。
色々なアーティストの作品が壁や空間毎中央あたりに置かれているものもある。
楽しみ方がわからない。
お互いに初めてだからぎこちなく展示品を見つめていく。
彫刻の展示で位置によって見え方が異なるものがあった。
「見る位置によって見え方違くなるのすごいね」
ほんとだね。とお互いに薄い品評をしていく。
特に会話も生まれることなくフロアを転々とした。
その合間何度かスマホを取り出し「連絡」が来ていないか確認する。
男の性か作品を遠巻きで鑑賞して、近づいて目を凝らして見るフリをすることでツウな見方ができるとアピールする。
恐らくこんな嘘はすぐに見破られているだろう。
展示品を一時間足らずで見終わってしまった。
「この後どうする?」
聞かれて、びっくりした。
どうしようね。と聞き返してみる。
夜ご飯を食べるにしても少し早い時間だ。
52階の展望台から東京の街並みを見渡しぼんやり二人で見渡してすごいね、きれいだね。なんてこれまた薄い反応をしながらお土産屋さんへと足を運んだ。
手ぬぐいとかキーホルダー、扇子色々見ながら吟味していると玲奈が妹と家族にお土産を買いたいと宇宙食が置いてある棚を見ながら何味が良いか聞いてきた。
いろんな味があって最近の科学は発展しているのだなと感じた。
「宇宙食ってさ、不味いってよく聞くよね。」
なんていらない余計な言葉を言ってしまった。
よく聞くよね、なんて言ってくれたけど本心はわからない。
結局、いちごアイス味とチョコレートケーキ味の宇宙食を購入していた。
僕は帽子とか折り畳み傘とかを見たけど何も買わなかった。
森タワーを後にして、六本木ヒルズを時間つぶしにウィンドウショッピングして見て回った。
途中夜ご飯を検索して探しながら椅子に座っていた。
帰る途中で探すか、六本木で探すか話し合ったりして六本木周辺で探すことになった。
探すのはいいものの価格帯が高くてなかなか良さそうなところが見つからなかった。
どういうの食べたい?って聞いたら、なんでもいいって返ってきて。
僕も特になかったから難航していく。
やっとの思いで投げやりになりながら見つけたお店を玲奈に見せた。
いいんじゃない?と言われたのでそこにしようと決めた。
そこは徒歩5分くらいの距離にあるハンバーグ屋さんでビルの中にあった。
2階に上がるとあり、二人席に通された。
テーブルは細長く向かい合って座ることになった。
疲れたね、とねぎらいながらメニュー表を二人で見る。
おいしそうだ。
ハンバーグがメインなのでそれを注文した。玲奈も同様だった。
ハンバーグが来るまで恋愛についての会話になった。
「そういえば、この前付き合ったことないって言ってたよね?」
「うん、付き合ったことないよ。」
「じゃあお互いに恋愛経験ないんだね。」
笑いながら僕は言う。
「お互い経験ないよね」
と向こうも笑う。
「けど私は惜しいところまで行った人はいるから先輩かな」
「どこがだよ、その人とも結局連絡めんどくさくなっちゃったんでしょ?」
「そうなんだよねー。すぐめんどくさくなっちゃう。好きっていう感情がわからない。」
「そうなんだ、僕もわからないけどいつか分かる時が来るのかな。」
「来なくてもいいと思う。」
「そうなんだ、少し悲しくない?」
「え、そうかな。キスとかもスキンシップも好きじゃないんだよね。」
「まじ、そうなんだ。」
(ほんとにそういう子いるんだ。ってことはこれもデートではないのかな。)
どこか気が抜けた僕がいた。同時に残念に思う僕もどこかにはいたと思う。
冷めた恋愛観とは裏腹に熱々の鉄板に乗せられた玲奈の顔よりもでかいハンバーグが運ばれてきた。
すかさず玲奈はスマホを取り出す。
ハンバーグの写真を撮っているようだ。
なんのために撮るのか僕にはよくわからない。
僕は玲奈が写真を撮り終わるまで一部始終を眺めていた。
ひとしきり撮影会が終わると、お待たせ食べよう、とフォークとナイフを手に取りながら言う。
ようやくかと思いながらいただきますと言って手を付けた。
肉汁が四方八方に飛び散りながらダクダクと鉄板へと放流されていく。
まずは一切れ何も付けずにいただく。
とてもおいしい、玲奈とも目配せしながら同情し合う。
そこからは正直ハンバーグの美味しさに取りつかれて玲奈と何を話したかあまり覚えていない。
食べた後は満腹すぎて暫く動けなかった。
都営大江戸線六本木駅
土曜の喝采から引き上げる者でいっぱいとなった車両の中で玲奈の話を聞き続ける。
大学の友達と講義以外で会うことがないから遊んでみるにはどうしたらいいとか。
女の子特有のあの子とあの子は仲が悪くて気まずいなんて言う愚痴を聞きながら
山手線高田馬場駅
改札を出てから少し立ち話。
「今日はありがとう、僕の行きたいところに行かせてくれて。」
「こちらこそ私も楽しかったよ、またどこか行こうよ」
正直また次があるとは思っていなかった。(社交辞令かもだけど。。)
「もちろん!行きたい場所とかあったら教えてよ。」
「わかった、探しとくね。その前にバイトで被ったらよろしく」
うんと頷いて、お互い乗るバスが違うから先にバスの来る玲奈を見送るために一緒にそのバス停へと並ぶ。
3分くらいでバスは来たのでそこまで話すことはなかった。
「お、来たね。じゃあね。」
「うん、またね」
玲奈を見送った後、僕も他のバス停並びへと並び直す。
バスに揺られながら車内で月さんとのトーク画面を開く。
新着のメッセージは来ていないようだ。
「今日暇?」
と送ろうとしたが消去した。
(月さん忙しいかもだし、月さんが言ってくるときにすればいいよね)
スマホの電源を一旦落とし伏せると同時にスマホが振動した。
もしやと思ったけどそれは玲奈だった。
「今日ありがとうね!今度気になってるアニメ映画があるんだけど」
(アニメ映画どんなやつだろう面白そう)
いいね面白そう、と返信した。
二日後の夜唐突に月さんから
お酒飲むぞ
とメッセージが来た。
何事かと思い?!と驚いた返信をした。
(もしかして、テレビ電話で一緒に飲むってこと?!僕まだ飲める歳じゃないんだけどな)
とか淡い幻想を抱いていたが、そこから返信が返ってくることなかった。
少し寝る時間を遅らせてもみたけど無駄だったようだ。
そこから日付を変えても返ってこないもんだから夕方家に帰ったときに
なにか暗示してあったけど気づけなかったせいで怒っているのかもと思って
必死に隠されている意図を考える。
オンライン飲みだったのであればそのまま返信すればよいわけであって不正解に近い。
だとしたら、何なのだろう。
一緒にどこかで介して飲むわけでもなかろうに。
結局分からずじまいで、なにか誘いたかったのかなと思って
次はかならず
と追いメッセージしてしまった。
そしたらすぐに返信してくるものだから予想が的中したかと思った。
へろへろになっちゃった。
月さんは酔ったことをへろへろって言うんだな。
(なんかかわいいと思った。)
そんなに飲んだの?と聞くと
たった7秒間のボイスメモが送られてきた。
何を録音したのだろうとドキドキしたまま再生してみる。
「お風呂のお湯があふれそうです。。・・やばいです。」
また全然違う話題を振ってくるので月さんらしいなと思いつつ、終始ニヤニヤしてしまっている自分に気づいた。
お風呂のお湯があふれることあるか?と冷静にツッコミも入れたくなった。
やっぱりおはなししたいそう思った。
僕もボイスメモを送る。
「良かったらおはなしませんか?」




