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後編

 その日の午後。


 恐縮しながらギー・クロードの不在をアリアが告げると、聖騎士団長は『やっと、腰を上げたか』と苦笑した。


「アリアちゃんが悪いんじゃない。まあ、四、五日と言うのならそうなのだろうな。待っていてやれ。陛下には私から話を通しておく」


 よろしくお願いしますと頭を下げたが、何がそうなのかアリアには分からない。




 二日目。


 離宮でお暮らしのはずの太后さまが王城にお出ましになった。

 呼ばれたアリアが御前に伺候すると、太后さまはとてもご機嫌麗しく、『よく決心してくれました』とアリアを労った。


「これからもギーをよろしく頼みますね」


 もうすぐここを辞めますと言うわけにも行かず、アリアに言える言葉は、『はい、恐れ入ります』だけだった。




 三日目。


 婚約していたはずの相手から、アリアに手紙が届いた。


――この度は大層なご出世、おめでとうございます。また、当家へ過分な補償を賜わりました事に感謝申し上げます。私との婚約は、そちら様のご慶事に伴い、もとよりなかったものと思し召し下さい。献上いたしました指輪はいずれかに寄付していただければ幸いです。


 なんだろう、この商い感あふれる手紙は。

 どうやら体よく婚約破棄された事だけは分かったアリアだった。




 四日目。


 アリアは、女官長から身の回りの荷物をまとめるように言い渡された。

 これからどこに住めばいいのだろう。殿下との約束であと数日は実家に帰るわけにもいかない。

 『もう少しいさせて下さい』と女官長に頼み込むと、『いい加減に観念しなさい』と叱られた。

 よくよく話を聞くと、部屋を移れという事だった。

 新しい部屋はギー・クロード殿下の部屋の隣だ。

 どうして、ここ?

 そして、無駄に豪華だ。




 五日目。


 久々にアリアはギー・クロードと顔を合わせた。

 色々と報告したい事があったのに、さらわれるようにして国王陛下の前に連れて行かれ、婚約の許可を受けた。


 婚約? 誰と誰が?


「私とアリアが、だ」


 どうしてそうなりましたの? と、アリアが首を傾げると、『お前の父親からも許可をもらった』と、サイン入りの書類を見せられた。


「あの……殿下?」

「心を通わせて寄り添える相手であれば、親の決めた相手と結婚して構わないと言っていただろう?」

「そう言いましたが……」

「と言うことは、条件が揃えば私でもよいという事だろう?」


 理論上はそうです。


「まずはお前の心から別の男を追い出さねばな。心に空いた場所がなければ付け入る――いや、寄り添うこともできまい?」

「殿下?」


 でも、私が思う方は殿下なのです。


 そう告げる前に、アリアの唇は塞がれた。

 

「話は後で聞く」


 そう言って微笑む琥珀の瞳には、やはり剣呑な光が宿っていて。

 これは逆らっても無駄だと、アリアは早々に説得を諦めた。






 

「ギーの婚約が決まったぞ」


 にんまりとした笑みを浮かべて団長が入ってくると、聖騎士団の詰所に歓声が沸き起こった。


 長かった。

 よくやった、俺たち。


 聖騎士たちはお互いの健闘を称えあった。


 一時はだめかと絶望しかけたが、もうこれで安心だ。 


 ここ数年、アリアは地獄のような鍛錬(しごき)から聖騎士たちを救ってきた守護天使である。

 ギー・クロードはアリアがそばにいれば機嫌が良かった。それはもう、兄である国王陛下が引くほどに。

 アリアもギー・クロードを慕っているようだった。

 傍目には、子猫とそれを可愛がる飼い主にしか見えなかったが、聖騎士たちは思った。二人がくっつけば、万事解決――と。

 


 どうか、これからもよろしく



 陰ながらアリアに手を合わせる騎士たちであった。





― fin ―







 


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