第1話
もう少し、ダークな感じになるハズだったのに、主人公が色々と麻痺してるため、あまりなりませんでした。
血生臭いので苦手な方は注意お願いいたします。
主人公が人の命を奪います。
あと、女の子です。
見慣れない大きすぎる月の下、僕が手を軽く振ると、飛び出していった白刃が目の前にいた相手を貫き、鉄錆びた臭いが広がる。
「ミヤ、終わりましたか?」
気配なく現れた声の主に、僕は無言で頷き、事切れた相手から、仕込みナイフを回収する。
「……」
命を失った虚ろな瞳が、恨めしげに僕を見上げている。
そこには、黒目黒髪の見慣れた自分の顔が映り、無表情で見つめ返してくる。
「帰りますよ、ミヤ」
呼びかけられ、僕は何の感慨もなく、自分が奪った命へ背を向け、見慣れない大きすぎる月の下を駆けていく――。
僕の名前は、未夜。
ろくでなしな親に育てられ、栄養が足りなかったのか、同年代に比べて小さいし、発育も悪い。つり気味の目だけ、悪目立ちしている。
愛想もないので、無表情だとか、気味悪いだとか、陰口を叩かれていた。男子とは、取っ組み合いの喧嘩になったが、いつも勝っていた。
普通ならいじめに発展しそうだが、僕には唯一の味方がいた。
「もう、みーちゃんったら、また喧嘩したの? 駄目だよ、話し合えばわかるんだから」
ふわふわと可愛らしい見た目で、プリプリと怒るのは、僕と全てが正反対の幼馴染みの百合だ。
話し合えばわかる。
百合の口癖だ。
僕には理解出来ないけれど。
百合は人気者で、百合が庇ってくれたから、陰口を叩かれるぐらいで済んでいて、百合がいてくれたから、僕は生きてこれた。
親にもいらないと言われた僕を、百合は大好きだと、大切な友人だと言ってくれた。
そんな百合はセイジョ様っていう存在らしい。
僕は穴に落ちた百合を助けようとして、百合を召喚とかしやがった異世界に、百合と一緒に来た。
キラキラした神経質そうな王子サマから説明を受ける百合は、少しの間混乱してたみたいだけど、頼られるのが好きだから、嫌ではなさそうだ。僕は安心した。
百合が嫌がるなら、僕は百合をさらってでも逃げようかと思っていたから。
そんな事を表情変えずに考えていると、慣れ親しんだ視線が向けられている事に僕は気付く。
嫌悪。蔑視。まるでゴミを見るような、そんな視線。
あぁ、ここでも僕は邪魔者らしい。
グルリと周囲を見渡すと、僕と百合を囲んだ人垣の中、少し離れて――いや、避けられている一団を見つける。
中心にいるのは、百合に話しかけている王子サマに少し似たワイルドな長身の男。すぐ傍らには、美人って感じの細身の男。右目が刀傷か何かで塞がれている。
その二人を囲むのは、独特の雰囲気を持つ数人の男女。
ほとんどの人間が、僕をゴミのように見ている中、彼らはただ僕と百合を観察しているだけのように見えた。
何だろう、と僕が表情に出さず悩んでいると、人垣の方からコソコソとした話し声が聞こえた。
「あいつら、何でこんな明るい場所に出て来てやがるんだ?」
「聖女様に血の臭いを嗅がせる気かよ」
「あの人殺し集団が……っ」
ザワザワと、僕へ向けられたような眼差しを受けても、彼らは全く意に介さず、そこにいた。
「いくら、聖女様を守るためとはいえ……」
耳に入った言葉は、僕にとって天啓だった。
「えぇと、君がミヤですね? 今回は、巻き込んでしまい、すみません。本当は帰してあげたいのですが……。もちろん、こちらの手違いですから、衣食住は……」
瞳の奥に、明らかな疎ましさを宿し、にこやかに話しかけてくる王子サマの話を聞き流しながら、僕はある方向を指差す。
百合はすでに連れていかれていて、僕へ集まる視線は、さらに悪意を増している。
そんな中、僕が指差したのは、あの独特の雰囲気を持つ集団だ。
「何ですか?」
猫が剥がれた王子サマは、嫌悪感を隠さず、そう訊いてくる。
「……あそこ、入りたい」
「何を!? あれがどんな集団か――」
「わかってて言ってんだよな、チビ」
キンキン喚かれ、僕が反射的に耳を塞いでいると、割けた人垣から、あのワイルドな長身の男がやって来て、そう話しかけてくる。
「ディーゼ、お前は黙っていてください」
僕へ向けていたのより、さらにあからさまな嫌悪を覗かせ、王子サマがワイルドへキツイ声音で言う。仲が悪いのか。
「そっちこそ、黙ってろ。で、どうする? お前の望み、叶えてやるぞ」
王子サマを気にせず、ワイルドは僕を真っ直ぐに見て、問いかける。
「よろしく。僕は未夜」
「見た目だけじゃなくて、名前も猫っぽいな。じゃあ、チビ猫だな。俺は、ディーゼ。一応、第二王子だ」
ディーゼ、四文字、長い。結論、
「ディ」
「……ずいぶん省略したな」
「長い」
「そうか……様とかつけないか、普通」
「いる?」
「いや、まあ、別にいいか。公式の場に出る事はないからな、お互いに」
かなり不敬だろう僕の台詞を気にしないので、神経質な王子サマよりは、ディは好感が持てる。
ディは睨んでいる王子サマを無視し、僕の頭をグリグリと撫でてから、
「ほら、来いよ」
と、相変わらず割けたままの人垣を通って、独特の雰囲気を持つ集団の元へと僕を連れ戻る。
「よし、とりあえず帰るぞ」
周囲の視線を気にせず、ディは僕を引きずりながら、待っていた集団へそう声をかけて歩き出す。
バイバイ。
僕はディに引きずられながら、見えなくなった百合に別れの挨拶をする。
この世界でもいらないと言われたも当然な僕だけど、百合のために生きようと思うから。
少し危なっかしい百合のため、同じ真っ白な道は歩めないけど、僕は僕の出来る事を。
百合が笑っていてくれれば、僕はどんなクソッタレな運命でもきっと生きていける。
そういえば僕は、ディに拾われ……拾われた扱いらしい。
あの後、刀傷のある美人に、
「やたらと拾わないでください」
って、ディが怒られてた。
そして、僕の新しい生活は始まった。
僕は、運動神経には自信があったけど。
「ヤバい、ミヤ、ちょー才能あるって!」
手先は器用だと思ってたけど。
「ディーゼ様も、なかなか良い人材を拾いましたわ」
頭だって、悪くはないはず……。
「魔法は、もう少し頑張りましょう、ですね」
「ミヤ、一緒に頑張ろうな!」
「あたしも頑張りますから!」
あの血生臭い雰囲気を忘れるくらい、皆あたたかい。
ちなみに、最初の軽いにーちゃんが、ノアって名前で。赤い髪で、ツンツンしてる。
次のお嬢様みたいなのは、ヴェロニカ……ニカって呼んだら、
「仕方がないから、そう呼ばせてあげますわ」
って、なった。
三番目が、傷の美人さん。名前は確かアルフレッド……長すぎ。アルと呼ばせてもらう事になった。
フォローしてくれたのは、僕より少し年下の双子の兄妹。ユラとユマ。覚えやすい。身長は負けてる。
他にも何人かいるけど、僕の教育をしてくれてるのは、基本この三人だけ。
まぁ、仕事もあるから、当然。
仕事というのは、諜報というのが建前で、主な仕事は暗殺。
それぞれ、得意技を用いて、対象を始末する。
召喚とか魔法があるファンタジーな世界でも、仲が悪い国との争いはあるらしい。
百合は、この国……名前忘れたけど、この国の影響力を上げるために、呼ばれたらしい。
だから、セイジョ様を狙う輩は多いそうだ。で、僕らの出番だ。
一日でも早く、一人前になって百合の役に立ちたい。その想いに迷いはない、ハズだったのに……。
百合の敵なら、殺しても、僕なら平気だと……。
魔物って呼ばれている生き物で、たくさん練習していたし。
「……あ」
けど、初めての実戦。
ハジメテ人を殺した。
人間って、魔物よりあっさり死んでしまうんだと、そう思った。
「おい、良くやったな、チビ猫」
いつの間にか、僕らの根城に帰ってきていて、返り血にまみれた僕を、ディが不敵に笑って見ている。
ディが何かを言っているけど、聞こえない。耳鳴りがする。寒い。
百合に会いたい……――会える訳がないけど。
「おい! しっかりしろ!」
肩を掴まれ、ディにゆさゆさと揺さぶられている、気がする。その感覚も遠い。
「ミヤ、俺を見ろ!」
名前を呼ばれ、赤茶の瞳が間近になったと同時に、唇を柔らかなもので塞がれ、僕は呼吸を奪われる。
「ん……っ」
苦しさから呻いた僕に、ディはゆっくりと離れていき、呼吸が楽になる。
「わかるか、ミヤ」
「……ディ」
「そうだ、俺だ」
いい子だと言わんばかりに、グリグリと力強く頭を撫でられ、瞳を覗き込まれ、僕はゆっくりと瞬きをする。
「落ち着いたか?」
「……たぶん」
「初めて殺したんだ。怖くなったって仕方ない。もう止めとくか?」
苦笑いで話しかけてくるディの言葉を聞いて、僕はやっと自分の抱いた感情に気付く。
「そっか」
納得して、僕は血に濡れた自分の手を見下ろす。
「こわい」
久しぶりに感じたから、忘れてかけていた感情の名前を、僕は確認するように小さく呟く。
「気付いてなかったのか?」
僕が無言で頷くと、ディは何とも言い難い表情になり、また頭をグリグリと撫でられる。
「で、どうする? 今からでも、普通の女らしい生活に……」
「平気」
「無理はしなくていいぞ?」
「ここがいい。ディは、僕がいない方がいい?」
ジィーと身長差から上目遣いでディを窺うと、伸びてきた腕にギュッと抱き締められる。
正直、他人の温もりはあまり好きじゃないけど、状況のせいか、ディの温もりは落ち着く。
「……ミヤは、俺が拾ったチビ猫だろ」
「そっか」
いつもより熱を感じる声だけど、いていいって意味だと解釈した僕は、安堵から少しだけ口元を緩める。
まだ、百合の役に立てる。
「……清々しいぐらいに、キスはスルーされたな」
顔を手で覆ったディが、ブツブツ何かを言ってる。まぁ、気にしない。
「目指すは、趣味、暗殺」
僕が決意を込めて宣言したら、寄り添ったディから、ゴフッと妙な音がした。
「……ほどほどにな」
諦めたような声と同時に、ディは僕の頭を顔を埋めた。縮みそうだから、止めて欲しい。
「ディ」
「寒いなら、一緒に寝るか」
僕は離せという意味で名前を呼んだのに、ディからはズレた答えが来た。
「一晩中、あたためて……」
「ディーゼ様、ミヤを返してくださいませんか? 返り血まみれでは、体に障りますわ」
「ニカ」
突然現れたニカのおかげで、僕は無事にディの腕から抜け出し、ニカへと駆け寄る。
「さあ、湯あみをいたしましょう?」
「わかった」
ディより優しい手つきで、ニカは僕の頭を撫で、浴室へ向かうよう促される。
ニカに続いて歩き出した僕は、ふと思い出して、ディーゼを振り返る。
「どうした?」
「落ち着いた。ありがと」
唇に指で触れながら、ディへの感謝を言葉にし、僕は満足してニカの後を早足で追う。無意識に少しだけ笑って。
僕のいなくなった後、ディが泣き笑いのような顔をしていたなんて、知る事もなく――。
未だに、趣味は暗殺って言えるほど、慣れたりはしてない。
命を奪うのは、やっぱりこわい。
帰ると、ほぼ毎回ディがいて、初めての時と同じように、呼吸を奪われ、落ち着かせられてたけど……。
最近は、ニカとかアルさんとかに、止められてる。
僕が、落ち着くからしたい、って言ったら、皆の視線は何ともいえない感じでディを見る。
「あははっ、ディーゼ様、落ち着くって……」
一人大笑いしたノアは、ディに蹴り飛ばされ、それを見た皆も笑い出す。
何だか僕も楽しくなる。
以前は百合のためだけに生きてた。
でも、ここでなら、僕は百合のためだけじゃなく、生きていけそうかもしれない。
まだ、確信は持てないけれど。
ここにいていい。
そう言って、もらえたから。
R15つけましたが、18にしようか悩んでます。
その場合、もう少しピンクな感じも追加したりしたい……。
一応、連載です。
次は百合側から。
真っ白い人って、逆に怖いよね。って感じを目指します。
息抜き連載なので、さらにマイペースな更新となります。




