殺戮のフリーミアムと、スキップ不可の著作権侵害
「……無駄よ。あれは企業が誇る最新鋭の完全自律型防衛群。100機のAIが遅延ゼロで並列思考して最適解を導き出すわ。私たちに逃げ場はない」
貯水槽の泥水に浸かりながら、フィオーラは焦点の合わない瞳で夜空を見上げていた。
彼女とルーニーの頭上には、赤く光る無数のドローンの照準器が、まるで死神の目のようにびっしりと並んでいる。
「確率だの計算だの、お勉強ができるエリート様はすぐ数字に逃げやがる」
ルーニーは泥水をペッと吐き捨て、愛用の手斧を肩に担ぎ直した。
『マスター、強がりは結構ですが、事実としてあのドローン群は厄介です。……と言いたいところでしたが、奴らの通信プロトコルを解析した結果、最高に呆れる事実が判明しました』
脳内の管理AI、マリアがひんやりとした声で告げる。
『あの大企業、暗殺部隊のクラウド運用コストをケチって、なんと「広告付きの無料プラン」でAIを稼働させています。現在、月末のデータ通信制限も相まって、奴らの射撃トリガーには約0.5秒のラグが発生しています』
「ハッ! 大企業の分際で、無料アプリみてえなケチ臭ぇ殺し方してやがるのか!」
ルーニーは腹を抱えて下品に爆笑した。
「おい、お巡りのお嬢ちゃん!あんたらのスポンサー様は、定額サービスへの課金を渋って俺たちを殺そうとしてるらしいぞ! ゴミ扱いにも程があるな!」
その言葉に、フィオーラはビクッと肩を震わせた。
自分が信じていた「正義の組織」が、泥水に塗れた。何より、エリート警察官である自分の命が、企業にとって「月額980クレジットのプレミアムプラン」以下の価値しかないという事実が、彼女のプライドを粉々に打ち砕いた。
「私の命が……広告付きの無料プラン以下ですって……?」
フィオーラが、泥だらけの散弾銃を杖代わりに立ち上がる。白磁の装甲はひび割れ、アイスブルーの髪はヘドロで汚れきっているが、その瞳には警察の猟犬としての『ドス黒い怒りの炎』が宿っていた。
「おいマリア。無料プランで動いてる安物AIなら、何か致命的な『バグ』があるんじゃねえのか? 俺の斧が届くまでの隙を作れねえか」
ルーニーがニヤリと笑って脳内に問いかける。
フィオーラにも通信を共有したマリアが、ハァと小さな溜め息をつきながら答えた。
『そうですね……。企業の防衛AIは、本部へ状況をリアルタイム配信しています。そして彼らは「他社からの訴訟」を極度に恐れている……。もし視界や音声に強烈な【他社の著作権物】が入り込めば、自動コンプライアンスフィルターが働き、配信停止を防ぐために「強制的に動画広告を挟んで視覚を遮断する」という「クソ仕様」になっています。上手く使えませんか』
「ゲラゲラゲラ! 命懸けの殺し合いの最中に著作権ストライクかよ! さすがは資本主義国家だ!」
ルーニーはフィオーラの肩をバンッと叩いた。
「聞いたかお巡りさん! お前のその警察権限で、このスラムの電子看板を全部ジャックできねえか!?」
「……正気? 警察の緊急放送システムを私的乱用すれば、査問委員会送りどころじゃ済まないわよ……」
フィオーラは一瞬ためらったが、上空でチカチカとラグりながら銃口を向けてくる「無料プランのドローン群」を見上げ、深く、ひどく深いため息をついた。
「……わかったわよ。やればいいんでしょ、やれば」
フィオーラはヤケクソ気味に自身の腕の端末を操作し、警察局の【公的緊急回線】を強引にこじ開けた。
「対象エリア内の全公共ディスプレイに、緊急上書きを実行」
次の瞬間。
スラム中を照らしていた違法風俗やネオン看板の巨大モニターが、一斉に切り替わった。
映し出されたのは、某アニメ会社が権利をガチガチに独占している、国民的超特大ヒットアニメ『アイドル@コマンダー★』のライブ映像。おまけに、絶対に無断使用が許されないで有名な最強マスコットキャラクター『ぐぅかわ』が画面いっぱいに踊り狂い、爆音でポップな主題歌がスラムの夜空に鳴り響いた。
『ピ、ピピ……! 警告。致命的ナ著作権侵害ヲ検知。提携外企業のコンテンツ配信ハ、規約ニヨリ固ク禁ジラレテ――』
ドローン群のAIがパニックを起こした。
「警察官を殺すこと」よりも「他社から著作権侵害で訴えられること」を恐れたシステムは、自己検閲プロトコルを緊急作動。
結果、ドローンの視覚センサーに【スキップ不可の15秒動画広告】が強制ポップアップし、100機の殺戮兵器が「育毛剤のCM」を再生しながら空中で完全にフリーズした。
「ヒャッハー! どんな最新兵器も、スキップ不可の広告と著作権ヤクザには勝てねえってか!!」
ルーニーは歓喜の声を上げ、手斧を振りかぶった。
『マスター、広告が終わるまで残り12秒です。読者もくだらないあるある広告ネタと某有名作品のギリギリのオマージュにイライラし始めています。さっさと片付けてください』
「わかってるよ! くらえ、俺の最強の必殺技……『DMCAテイクダウン』ッッ!!」
『売れてる小説の主人公っぽくかっこいい技名を挟みたいあなたと作者の気持ちは分かりますが……ただの器物損壊に横文字の法律用語を叫んで必殺技っぽく見せるのはやめてください。そもそも、著作権より先に物理的な所有権を侵害していますよ』
(※DMCA=デジタルミレニアム著作権法)
マリアの冷静なツッコミを置き去りに、ルーニーは自分たちの真横にあった巨大な『高圧電流のネオン看板の支柱』に向けて、渾身の力でフルスイングした。
メギャアァァァンッ!!
凄まじい火花が散り、ブチ切れた極太の送電ケーブルが、二人の足元――スラムのドブ水が溜まった屋上の水溜まりへと落下する。
バチバチバチッ!! と、屋上一帯の泥水に致死量の高圧電流が奔った。
スモッグと酸性雨で満たされたこの空間において、高圧電流は強烈な『電磁パルス』を発生させる。
『髪は長〜いトモダ……』
ズドォォォォォォォォンッ!!!!!
育毛剤の広告を見せられていた100機のドローン群が夜空で一斉に連鎖爆発し、ネオン・アビスの上空に、100発の盛大な花火が散った。
黒焦げになった残骸がパラパラと降り注ぐ中、ルーニーは手斧を肩に担ぎ直す。
その横で、フィオーラは顔についたススを拭いながら、自身の端末を睨みつけていた。
「……本庁からの応答、なし。私の権限へのアクセスブロックを確認。やはり上層部は完全に大企業に買われているわね」
「だろ? あんたの飼い主はもう完全に腐り切ってる。……で? どうするんだお巡りさん」
フィオーラは泥だらけのショットガンをカチャリと構え直した。その目には、気弱な迷いは微塵もない。
「馬鹿言わないで。組織が腐っていようが、私は現役のポリス・エンフォーサーよ。彼らが法と治安を蹂躙した証拠は掴んだ。なら、私個人の権限で企業役員たちに『逮捕状』を執行するまで」
「ハッハァ!泥水すすってもまだお巡りさんの面を被るか! その意地っ張りなドM顔も……最高にそそるぜ!」
「……ただし」
フィオーラは周囲の残骸を見渡した。
「あれはただの外部警戒網よ。本社のセキュリティはこの比じゃない。今の丸腰の私たちじゃ、玄関を三歩進む前にハチの巣にされるわ。不本意だけど、あなたにも協力してもらう。作戦が必要だわ」
彼女がそう呟いた瞬間、ルーニーはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて距離を詰めた。
「おっと、エリート様が俺に泣きつくのか? なら、ちょうどいい『隠れ家』があるぜ。俺のねぐらだ」
ルーニーはフィオーラの耳元で、わざとらしく卑猥な声を出した。
「防音バッチリで、広くて軋むベッドもある。今夜は朝まで、肌と肌を密着させて、濃厚でネットリとした『作戦会議』としゃれ込もうじゃねえか。俺の極太ケーブルで、お前のシステムを深部までデバッグしてやるよ……」
ガシャコンッ!!
「っ、このっ……! どこまで最低なのよ、この歩く公然わいせつ物は!!」
フィオーラの端正な顔が、羞恥と激怒で瞬時にゆでダコのように染まった。
だが、顔を真っ赤にしてワナワナと震えながらも、彼女は即座に散弾銃の銃口をルーニーの股間に全力で押し付けていた。
「ちょっ……優しくして……!」
「……隠れ家は使わせてもらうわ。でも、もし少しでも変な真似をしたら……」
耳まで真っ赤にしながらも、フィオーラは鋭い目でルーニーを睨み上げた。
「あなたのその自慢の―――――、二度と使い物にならないように物理的に切断して、燃えるゴミに出すから」
「……おっかねえ猟犬だぜ」
ルーニーは両手を挙げて降参のポーズをとりつつ、最高に楽しそうに嗤った。
「泥水すすって腹括った『現役バリバリ』のお巡り様と一緒に、極上のツケの回収の準備と行こうぜ!」
『マスター。見事なまでに因果応報です。そして前話から思っていましたが「――――」というワードを使えばBANを回避できるとタカを括るその浅ましさは作者も同罪ですね。シンプルに軽蔑します』
最悪の相性の二人は、ひとまずの共闘を約束し、スラムの奥深くにあるルーニーの隠れ家へと姿を消した。
読者諸君!いい流れだ……次回は俺の熱いbedtimeを期待していいぞ……作者も書きたくてたまらないらしい。
「作戦会議」という名のアジトラブコメイベントに期待する奴は、今すぐ下にある【♡(応援ボタン)】を優しくブチ込んでくれ!
トップページの【★評価】や【フォロー】も忘れんじゃねえぞ。俺の―――――が切断される前に応援頼むぜ!
『……マスター。あとがきでまでBANのチキンレースをするのは本当にやめてください、この世界では運営が最強ですよ』




