ここではない何処か
小舟が揺れるたび、ノヴァの足元を波が通りすぎる。キリは魚を捕まえるたび、船に飛び乗っては船底に集めていた。
中腰で貝をとっていたノヴァは、起き上がり一度のびをすると濡れた手で陽の光を遮りながら空を見上げた。
指の隙間から見える真っ白な太陽を見つめていると、色鮮やかに咲き誇る花の群生に、白銀にそびえ立つ雪山、暖かな暖炉のある部屋、雲の中を進む大小様々なたくさんの飛行艇、ここではないどこかの風景や知らない人の顔がノヴァの脳裏にチカチカと浮かんでは霞んで消えた。
「、、、これは、誰の記憶だ」
ノヴァは遮っていた手をどけて、もう一度、今度はしっかりと太陽を見つめた。
森の中を走る少女の後ろ姿が見えた。
金色の長い髪を忙しくなびかせるその少女の背には傷ついた羽根。透き通る大きな羽は蝶にも似ている。
やがて少女は大きな滝の前に立ち、岩と流れ落ちる水の隙間から滝の中へと消えた。
ノヴァは下を向き、しばらくの間、ぐっと力を入れて目を閉じていた。
腰を屈めて足元に流れる水で勢いよく顔を洗った。
「あの滝は、前にも見たことがある。」
ノヴァは膝に両手をつき、中腰のまま水面に移る残像を見つめていた。
髪からは水が滴り落ち、水は光を反射して、俯くノヴァの表情は一層輝いて見えた。
キリは、魚取りに飽きたのか小舟の上で毛繕いを初めていた。
ノヴァの心は、周りの音も聞こえなくなるほど大きく脈打っていた。




