ガラスの菜園
翌日、ノヴァはローガンと一緒に収穫へ出かけた。
丘から続く階段を下っている途中で、下から登ってくる小さな影が見えた。
羽を大きく広げて、バタバタとバランスをとりながら、一段一段登ってくる。
階段を上がるたび、斜めにかけた緑の鞄から、顔を出したクマのぬいぐるみが揺れている。
「やあ、キリ」
その声を聞いて、驚いたようにキリは顔を上げる。
「キュー!」
どうして、ここにいるの。キリの声は、そう問いかけているようだった。
「毎朝、ここを登ってくるのか。大したものだな」
少し後から追いついたローガンも、そう言って足を止めた。
「これから菜園へ行くんだ。キリもついておいで」
キリは少しの間、ローガンに挨拶をしていたが、ノヴァがそう言って歩き出すと、そのあとを追いかけるようにパタパタと歩きはじめた。
水面からそびえ立つ木は、落ちてくる雨を少し和らげてくれていた。
ーーー
菜園に着くと、足元には木箱やカゴが並び、すでに様々な野菜や果実が詰められている。
キリは、木材や石などで綺麗に区画整理された菜園の通路を自由気ままにペタペタ進んでいく。
小さいキリの体は植物に隠れたり、現れたり、と忙しない。
ノヴァはそんなキリの楽しそうな姿をみてクスクスと笑っていた。
ーーーガコン。
何かが外れる音と、カラカラと滑車の動く音とともに頭上に広がるたくさんのガラス屋根が閉じ始めた。
音の方ではローガンが柱のレバーを回している。閉じられたガラス屋根によって先程まで辺りに打ち付けていた雨は遮られた。
「さあ、これでいい。収穫を始めるとしよう」
ローガンは被っていたフードを脱ぎながら言った。
足元の慌しかった水溜まりも、静まり返り、サカサマになったもう一つの世界を映す。
ガラス屋根に当たる雨音は曇ったように響き、菜園の通路には水路を流れる水の音がしていた。
ノヴァは空を見上げながら海の底いるような気分だった。




