びの、王子様にステータスを見せる
「びの君、びの君」
揺さぶられて起こされる。
「あれ? 覧、どうしたの?」
「良かったー」
「あれ? 僕……」
また寝てた?
もしかして、異世界に来ていたのは夢だった?
「やっと起きたか、びの」
声の方に視線を向けると、王子様の姿。
夢じゃなかった……
「ふー、危ない、危ない。あやうく勇者を殺すところだった。そんなことしたら、母に怒られてしまう」
僕、異世界で王子様に殺されるところだったの?
「びの君は、異世界に来て、王子様に殴られて、3分くらい気絶していたんだよ」
「よし、びの、お前のステータスも見せてみろ」
僕はスクロールを受け取り、念じる。
すごいステータスよ、出ろ。
今朝の夢のように、俺TUEEEE―のステータス出ろ。
真っ白のスクロールから、少しずつ文字が浮き上がってくる。
えーと……僕のステータスは……っと。
え? このステータスって?
あれ? このスクロール、不良品なのかな?
紙に書かれた文字をすかしたり、もう一度持ち直してみる。
んー、壊れてはなさそう……
「どうしたの、びの君?」
僕の行動に疑念を抱いたのだろう。覧がステータス紙を覗き込んできた。
「不良品じゃないよね? この紙?」
念のために、覧に確認をとる。
「多分」
「えっと、確認なんですけど、子どものステータスの平均って……」
「なんだ? もう忘れたのか? 子どもの平均は、10だよ。10!!」
ダウゴ王は、掌で10という数字を作って、怒声を浴びせてくる。
「あー……ですよねー」
僕のステータス、なんでこんなにもファンタスティックな数字なんだろう?
「どうした、お前? 次期王様にも、ステータス、見せろよ」
「いやー、すごいステータスなんですよー」
「そりゃ、勇者はすごいステータスなんだよ。どれくらいすごいのか、この次期王様に見せて見ろよ」
「見ない方が……いいと思うんですけど」
「また、痛い目にあいたいのか!!」
嫌です。
でも、見せたら、見せたで、トラブルに巻き込まれそう……
『あまりにもすごいステータスは、トラブルのもとになるのです』
今朝の夢の女神の言葉を思い出される。
ええい、後は野となれ、山となれだ!!
ステータス紙を王子様に渡す。
「おい、これはどういうことだ?」
目を猿……いや、皿のように丸くする王子様。
「どういうことでしょう??」
なんとか、言葉を絞って、オウム返しした。
旅乃 びの(たびの びの)LV1 身長:172cm 体重:59kg
HP:1
MP:1
天職:特になし
筋力:1
体力:1
耐性:1
敏捷:1
魔力:1
魔耐:1
運 :-1
技能等:言語理解【日常会話・超簡単な読み】レア度:なし
「この次期王様の見間違いか、大臣。ステータスが1ばかりじゃないか?」
「びの様もですか……」
なんなのだ、この大臣。自分一人だけで納得して。
「なんか言ったか大臣?」
「いいえ、何も」
「俺は、俺の見間違いかって訊いたんだよ」
「いいえ、見間違いではございません。生まれてこの方、こんなステータスは見たことございません」
「なんかレアな技能とかないのかよ??」
「いや、僕は、普通の中学生だし、技能って言われても……」
「そうか、お前は、普通なのか」
「違う。普通じゃない」
覧が、僕の前に出て、かばって……
「びの君は、中学生の底辺」
くれてない。覧、そこは訂正しなくていいから。
「確かに、底辺だよな。ほとんどのステータスが1。運に至っては、-1だぞ? 勇者は、すごいんじゃないのか? どういうことだ、大臣?」
「ワタクシにも、到底理解に及びません。勇者は、もしステータスが低かったとしても、貴重な技能やレアスキルがあるという風に聞き及んでおります。どういうことですか、びの様?」
こっちが訊きたいよ。
「さっきは、よくも、次期王様のステータスを笑ってくれたな」
両手でばきばきと指の骨を鳴らしながら、王子様は、拳の準備体操をする。
「暴力反対!!」
僕の目の前に飛び出し、かばってくれる覧。
「俺は、女・子どもでも容赦しないぞ」
「……さすが、ガキ大将」
僕がつぶやくと同時に、意識はなくなった。