エピローグ
「本当に、ほんっとうに! 心配したんだから……っ!!」
「怜、落ち着いて。あと大声は止めてほしい、周りの迷惑だし傷に響く」
病院の一室で。彼女の背後にいる2人に視線だけで助けを求めても、彼らは「諦めろ」と言うように笑った。
「俺も恭介もすっげー心配したんだ、ちょっと困るくらいしても別にいーだろ」
「全く、本当だよ――」
恭介はそこで躊躇うように言葉を止めた。次に何を言われるか、なんとなくわかる。
「氷雅。聞きにくいんだけどさ……何が、あったのかな。俺たちに、それを知る権利はないかな」
心配を掛けたのはわかるし、申し訳なく思う。そんな3人を相手に、適当に誤魔化すのは忍びないような気もするが……それでも、俺の普通とは言い難い事情に、彼らを巻き込むことはできない。
だってこいつらは、『〝涼崎氷雅〟が戻ってくるための』日常なのだから。
だから、それを聞かれたときどう答えるかは最初から決めていた。
「……ごめん。よく覚えてない、かな」
曖昧に笑うと、3人は一瞬虚を突かれたような顔をしてから「仕方ないなあ」と笑った。
「本当かどうかは知らねーけど〝今は〟そーいうことにしといてやるよ」
〝今は〟か。もし叶うのならば、この〝今〟がずっと続けばいいんだけど。
「……話が違いませんか」
「ん~、そうかしら? 私は『こっちでやっていける環境を用意する』って言ったわよ。未成年が保護者もなく学校にも行かないでやっていけるような国じゃないの、日本は」
黒髪の少年と金髪の美女が、机を挟んで向かい合っていた。
「ほら、これとあとこっちも。いっぱいあるんだからちゃきちゃき書く!」
机の上には大量の書類。涼崎氷雅という少年と瓜二つの彼は、うんざりした顔でため息を吐いた。
「署名って、名前はどうするんですか。……オレ、名前ありませんけど」
「そうだったの!? まあ、うん――戸籍はこっちで用意するしってことで名前は今から決めようと思ってたから、別にそれは構わないんだけど……名前、なかったのね」
それなら張り切って決めないとねと笑う女性から、少年は困ったように目をそらした。
今まで人々が少年に求めてきたのはあくまでその頭脳だけだった。しかし彼女は、個人としての彼を見ている。それが、少年にとっては死んだ〝彼〟を連想させて、どうにも接しにくかった。
「双子なんだしやっぱり涼崎姓よねえ……くっそー、氷雅も含めて私が保護者になるべきだったわ」
少年は眩しそうに、そしてどこか愁うように、弟とは違って生まれつき左右共に黒い目を細める。
「オレは、〝普通〟になってしまってもいいんでしょうか……あんなことを、しておいて」
その言葉に彼女は目をぱちくりさせたが、直後花が咲くように笑った。
「いいじゃない。むしろ彼だってそれを望んでたんじゃないの? 君がちゃんと幸せにならないと、浮かばれないわよ」
それでも少年は「そうでしょうか」と困ったように眉根を寄せる。
考え込むようにその顔をじっと見つめていた女性は、不意にぱんと手を叩いた。
「うん、決めた。愁雅。涼崎愁雅。……名前としてあまりポジティブなイメージがある字じゃ、ないけれど。彼のこと、忘れたくないんでしょ? たまに思い出して愁いに沈んでも、いいんじゃないか――っていう意味で、『愁』よ」
「前を向いて歩くことは、過去を捨てることじゃないんだから」と彼女は笑う。〝彼〟のものとは色合いの違う薄い金髪が、きらきらと揺れた。
「涼崎、愁雅」
少年は確認するように、小さく呟く。
「そ。今日から、君の名前」
「はい――ありがとう、ございます」
その感謝の言葉は、目の前の彼女と、もういない〝彼〟へ。
スターライト・バレット第一部(仮)、以上で全て終わりになります。ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました。
この作品は電撃大賞落選作品ですので、元々商業作品を意識して書いています。つまりこれは「一巻」に当たる部分の物語です。
ですから当然氷雅たちは「今後」も冒険を繰り広げるでしょうし、第二部以降の構想もあります。しかし今回ここまで投稿して、やはり私の遅筆では書きながら投稿するというのは無理だと痛感しました。
また、このジャンルは非常にマイナーであり、見てくれる人もファンタジージャンルに比べると少ないようです。ですので、次回はスターライト・バレットの第二部を書くか、すでにプロットがある程度できているもっとこのサイト向きな他のファンタジー作品を書くか迷っています。
いずれにせよ、全て書き上げてからの投稿になるかと思いますので、スターライト・バレットの更新はしばらくお休みです。そういうわけで、この作品は一度「完結済み」とさせていただきます。
また投稿を再開することがあれば、そのときはまたぜひよろしくお願いします。
そしてもしこの作品が気に入っていただけたのなら、よりたくさんの人に見ていただけるようにぜひ評価をお願いします。ブックマークもしてくれるとなお嬉しいです。
あなたの中の氷雅たちが、どうかこれからも笑っていますように。




