9
気がつけば、他とは雰囲気の違う大きな扉の前に着いていた。
「……ここは?」
『武器庫ですね。でも茜も凪も普段使いしてるものはほぼ持ち歩いているので、中にあるのは予備ばっかりです。覗いてみても構いませんよ』
重い扉を、ゆっくり押し開ける。
その部屋はかなり広く、思ったよりも明るかった。俺の身長と同じくらいの棚がどこまでも並んでいる。
「武器……って、これが?」
棚の中をパッと見て、部屋が明るい理由に気がついた。無造作に積まれた銃火器類が、全て真っ白いのだ。
色が違うというだけなのに、それらの銃たちはまるで玩具のように見える。
『そんなに気になるなら、手に取って見ても構いませんよ』
俺が純白の銃から目が離せないでいるのを察してか、ジュリーが苦笑交じりに言った。
「いや――でもこれ、武器だろ? それはまずいんじゃ」
『ダメなら最初からこの部屋に入れたりしません』
扉のロック等の権限は彼女にある、ということだろうか。流石AIだと感心しながら、それでもと口を開く。
「だって暴発とかあったら――」
『大丈夫ですよ。普通の人にはどう足掻いても撃てないので』
「……え?」
銃で〝撃てない〟とは、どういうことだろう。当たるかどうかは別として、誰だって引き金を引けば弾が出るのが銃というものじゃないんだろうか。
俺が首を傾げていると、ジュリーは少し考えこんでから『そういえば』と口を開いた。
『一昨日見ませんでした? 茜が撃ってるところ』
「えっと……あの赤い光線?」
最初に肩を撃たれたときと、その後にもう1回。実弾ではなく、光線のように見えたのだが。
『そう、それです。一般には知られていない、っていうか政府が秘匿してるんですけど……今から5年くらい前に開発された〝光学兵器〟ってやつなんですよ。うちの部隊は、それを扱う人たちの集まりなんです』
光学兵器。海外映画などによく出てくるイメージのその単語は、酷く遠いものに思えた。しかし、そう言っていては何も話が進まない。
「で……撃てない、っていうのは?」
『光学兵器――星彩って言うんですけど。第一次世界大戦以降の「誰が持ってもある程度の威力を発揮できる」兵器とはかなり違うんですよね。一番近いのは……うーん……』
しばらく悩んで、彼女はその言葉を絞り出した。
『魔法少女』
「魔法少女」
あまりにも斜め上すぎて、ただ復唱することしかできない。
『魔法少女です』
「どういうことですか」
思考速度が低下して、思わず俺も敬語で聞き返していた。
『……こほん。つまり、武器もある程度は特殊なんですが、光線自体は使う人の能力なんです。それが……魔法少女と魔法の杖の関係に一番近くてですね……』
探り探りといった様子の説明は、「それでいいのか」と思うところはあるものの確かにわかりやすい。
「それで、魔法の杖は一般人には使えないと」
ジュリーはこくり、と画面の中で頷いた。
『もちろん、茜や凪が本物の魔法少女ってわけじゃないです。そこは科学の力なので。科学の力です』
「……2回言うことかな、それ」
『大事なことなので。痛い勘違いをされたら困ります』
「お気遣いはありがたいんだけど俺はそこまで脳内お花畑じゃない……と思う。要するに異能者の部隊ってことだよな。大体AIと魔法少女って共存するものじゃないだろ、普通に考えて」
魔法AIかもしれないじゃないですか! と騒ぐジュリーを横目に、棚の中から適当な拳銃を1つ手に取ってみる。
「わ、」
十分慎重にしたつもりだったのだが、それは想像していたよりもずっと軽かった。思わず取り落としかけて、何とかキャッチする。
「――軽すぎだろ、これ」
光沢のないその色以外は普通の銃にしか見えないのに、中身や材質まで普通の銃とは違うんだろうか。
そう思ってジュリーに尋ねると、彼女は『あれ』と首を傾げた。
『「普通のと違う」って、氷雅さんは銃について詳しいんでしょうか?』
「あー……〝今の俺〟は本物は見たことないけど、モデルガン集めたりとかしてるから何となくなら」
今思えば、銃に興味があるのも記憶を失う以前の影響なのかもしれない。何とも言えない微妙な気分になりながら、それを振り払うように掌の中の拳銃をじっと観察した。
スライドも、トリガーも、ハンマーも、セーフティも。普通の拳銃にあるパーツは全て、外見上はほとんど同じように揃っている。本当にこんなもので光線が撃てるんだろうか。
「なあ、ジュリー? これでどう光線が出るんだか全然わからないんだけど、さっき言ってた『使う人の能力』っていうのが関係あるのか?」
『そうですよ。曰く生まれつきの素質が必要、らしいです。でも素質があるだけじゃダメで、体中に色々機械を入れて調整するみたいですね。さっき氷雅さんが「異能者の部隊」って言ったのは確かに合ってますが、異能は異能でも人造で後天的な異能者だって聞きました』
てっきりジュリーが茜や凪の所属する〝特殊部隊〟の頭脳なんだと思っていた俺は、まるで彼女自身の言葉ではないようなその言い方に違和感を覚える。
「〝らしい〟って、変な言い方だな」
『私はあくまでオペレーション担当ですから、技術担当は他にいます。有能AIのジュリーさんでも全部はできませんからね。多分、近いうちに会うことになると思いますよ』
そのときは、茜や凪のときと違って穏やかにお願いしたいものだ。
「で、その『調整』って?」
『マイクロチップなどの助けを借りて星彩に関連する処理速度を上げたりとか、実戦レベルまで引き上げるための調整ですね。さっきの魔法少女の例えで言えば、マスコットっぽい謎生物と契約して変身できるようにする、みたいな』
「……変身、するのか?」
まさかと思いつつ恐る恐る尋ねると、ジュリーは画面の中でにやりと笑った。
『服が変わったりはしませんけど、右目の色が変わって、運動能力と感覚が大幅に強化されます』
「……右目の、色が」
自然と意識が向くのは、自らの青い右目。
「ジュリー。その、資質って言うのは――」
『そういう人が見つかるのは、ごくごく稀ですね。そのうえ調整用の機械類の制作費・維持費が他の兵器とは比較にならないので、現在星彩は6人しかいないんです。それでも現時点で日本どころか世界中での最高戦力なんですよ。そう考えると、中々すごいですよね』
彼女の言葉で、考え直す。自分の過去が既にそうそうあるものではないのに、これ以上だなんて自意識過剰ではないだろうか。
それにしても、茜や凪が凄まじい力を持つ兵器である……と言われても、2人の華奢な見た目からは全く想像ができない。
「なんか……『人は見かけによらない』って言うには極端な気もするけど」
『そうですね。その辺は実際に見た方が早いと思います。他にも色々と細かいとこあるんですけど、実物を見ないままこれ以上説明するのも、面倒でわかりにくくなってしまいそうなので』
「そっか、ありがとう。手間を取らせて悪かったな、ジュリー」
話のキリも良さそうだし、と武器庫を出る。
『いえいえ、大丈夫ですよ。……氷雅さんにも無関係な話では、ないですから』




