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第63話 神門の裁定


 僕の我が儘(わがまま)な願いを受けて、それでも頭を悩ませてくれるラビエラには感謝の言葉しかない。

 都合の良い願いだ。

 身の程知らずな望みだ。

 でも僕には下げられない望みでもある。

 これから先、少しでもより良い選択を掴んでいくためには、グレイス帝国の問題も出来る限りの好材を得て行きたい。

「……!……」

 ん?

 何か、ラビエラに動きが見えた気がしたんだけど。

「何か思いついた事でもあるのかい? ラビエラ」

「っ! いえ、別に」

「……ラビエラ?」

 明らかに誤魔化(ごまか)したよなぁ。

 なんだろう?

 僕には言い難い事でもあるのだろうか……いや、そりゃまぁ何かしらは有るんだろうけれど……

「もし差し支えない様なら聞かせて欲しいものだけれど、君が嫌な思いをするのであれば無理強いはしないよ」

「いえっ! わたくしはそれほど! ですがその、ダーウェス様が……」

「僕?」

「……」

 う~ん……僕には思い当たるものが無いのだけれど……

「僕の事なら気にしないで欲しい。今は取り合えずより多くの意見が聞きたいんだ。良かったら君の思った事を聞かせてくれないかな?」

「……」

「頼むよ、ラビエラ」

「そこまでおっしゃられるのでしたら……畏まりました」

 意を決して。という言葉がまさに当て嵌まる様に姿勢を正したラビエラが真っ直ぐ僕を見据えて一息付いた。

 彼女は一体、何を思い付いたのだろうか。


「わたくし共キリハの里がグランゼスト大陸の辺境に存在する事はご承知の事と思いますが」

「あぁ、そう聞いたね」

「はい。我が里は隠れ里では御座いましたが、だからと言って外界との接触の一切を禁じていた訳ではありません。それほど多くではありませんが、多少なりともの外界との関わりというものも御座いました」

「なるほど」

 そういうものか。

 その内、キリハの里には行ってみたいものだとは思っているんだよね。

「わたくしが思いましたのはグランゼスト大陸の各国で使用されている神門の裁定を利用できないかというものです」

「神門の裁定?」

「はい」


 神門の裁定。

 ラビエラが教えてくれたのはグランゼスト大陸の全域にある都市や街において使われている入国監査システムの様なものらしい。

 城壁や市壁をくぐる際に、兵士によって検問の様なものが執り行われるという。

 それが神門の裁定。

 することは簡単で魔道具に触れ、その際に発せられる光を見ると云うだけの事らしい。

 青く光れば侵入が許され、赤く光れば拒まれる。


「なるほど。つまりこの人物が有害か無害かを判別する魔道具という事か」

「はい。例えばその効果を増幅し皆の視覚に共有出来れば、と」

「ふむ……生殺与奪の種々選択もあり……か」

 万全とはいかない迄も限られた時間で敵を判別するには使えるか。

 視覚への共有や増幅に関しては術式を考察すれば不可能では無いだろう。簡単では無いだろうけれど、リーヴァスあたりは何とかしそうだ。必要な魔力に関しては僕が提供すればいい。

 だがラビエラの先の態度も気になるんだが――

「君が戸惑っていた理由を聞かせて貰えないかい?」

「……はい」

 若干言い難そうなラビエラは、それでも顔を上げて僕を見た。

「その裁定に使用する魔道具という物が、その………」

「なんだい?」

 言い難そう、というよりは、なんだか苦々しい(にがにがしい)感じで彼女は言う。


「ゼクシナの加護を受けし水晶なのです」

「……ゼクシナ?」

「はい」


 あぁ、なるほど。だからラビエラは渋ったのか。

 至高神ゼクシナ、か。

 僕……ではなく、ダーウェスの記憶に確かにある。

 ダーウェスが討たれた八千年前の最終決戦、その最中で最後まで敵対し立ちはだかったのが至高神ゼクシナだった。

 ダーウェスを崇拝するラビエラからすると、怨敵であるところのゼクシナの力など使うのは業腹という事だろう。

 だけど、ナンセンスだ。

 使える物は何でも使う。

 それが今の僕等のスタンスで良い筈だ。時間的余裕も手段も限られているんだからね。

 僕の仇の力を僕に使わせる事への躊躇い(ためらい)も有るのだろうけれど……


「神ゼクシナ、か。確かに、至高神として在るゼクシナは審判と正義も司っていると聞く。人々の裁定には持って来いという事か」

「ダーウェス様がゼクシナに神などと呼称を付ける必要など」

「僕は趣旨替えをしたと始めに言ったよ? 神ゼクシナの力を借りるに些かも思う事は無いよ。寧ろ都合が良いと思っている」

「ですが……いえ、畏まりました。しかし何も問題が無いとも言えません」

「ほう?」

 感情論だけで悩んでいる訳でも無いか。

「問題は二つ御座います」

「聞こう」

「はい」

 言って、彼女は僕に告げた。


「まず一つ、それは神門の裁定の基準で御座います」

「ん? つまり可否の基準という事かい?」

「はい、実の所その基準が、今一つ明確にはされていないのです」


 誰が善くて誰が悪しか。

 その基準が曖昧だという。

「一番分かり易いのは殺人を犯した者は赤き光を放つ事ではありますが」

「うん。それは分かり易いね」

「はい。ですがすべての殺人が等しく赤くは光らないのです」

 例えば盗賊を殺したとか、海賊と戦って殺したとか、およそ正当防衛であれば水晶は罪とは捉えない。

 でも中には人を殺した賊であろうとも許される場合があるという。

「例えば誰かに脅されたり、止むを得ず罪を犯さねばならない状況で犯した罪は水晶は見逃すのです」

「あぁ、つまりは戦争の最中の兵士も含まれる怖れがあるか」

 そして手を汚さなくても指示をしたり見て見ぬ振りをした者が水晶に咎められる場合もある様で、それは本人が自覚していない様な場合もあるほどだとか。

 殺した、殺せなかった、奪った、奪えなかった、何もしなかった、何もしようとしなかった――なるほど確かにその判断基準が明確には計りかねる。


「我々の法にも情理にも添わぬ場合も多く、要するにこの裁定はあくまでもゼクシナの基準に依る裁定という事なのです」

「神の視点の罪過、か」

 確かにそれは下界には些か合わない気もしないではないなぁ。

「大陸においてはゼクシナを崇める崇輝教はその信仰を全土に敷いています。ゼクシナを信じる素地があるグランゼスト大陸においてはゼクシナの審判を絶対視する事に人々の抵抗が無いのです。しかしこのワグナスでは」

「裁定の結果に信憑性を置けないという事か」

「無論、ダーウェス様が従えと仰るに異論を申すものなど居りません。ですがグレイス帝国の民は? となると些か……或いは理不尽と捉え後の治世に影響が残る可能性も。更に申せば相手はゼクシナ。ダーウェス様とは相いれない者でありますれば」

「僕に従うを悪しとして、敵対する全てを是とするかも知れないなぁ」

「はい」

 まぁ、魔王なんだから神から目線ではそれもアリなんだろうけれど。

 でもこのまま騎士団皆殺しで準騎士団全残りっていう大雑把な括りよりは使える気もする。

 なにせ貴族や商人まで効果を及ぼせるのは嬉しい。

 流石にそこの精査までは此方では厳しいものが有るからね。完全では無いにせよある程度の間引きはしたいんだよ。

 それなりの悪党が蔓延っているからこその今のグレイス帝国なのだろう。

 王族の問題だけが国の在り様とも思えない。

 僕に対する効果に関しては取り合えず試すだけ試せばいい。

 僕全否定の結果が出る様なら使わなければ良いだけだ。あくまで選択肢が一つ消えたに過ぎない。

 うん……試さない要素な無いかな。


「様々な立場や視点がある以上、完全で公正な裁きなど存在しないからね。ある一定の基準としてならば僕は至高神ゼクシナの基準を取り入れても良いと思う。僕を否定するかは実験してみればすぐに分かる事だし、使用の可否はそれからでも判断出来る」

「ダーウェス様がお決めになられたのでしたらわたくしに異論は御座いません」

 うん。ラビエラも納得してくれたのならば心強い。

「で? もう一つの懸念事項はなんだい?」

 二つある内の一つはクリア、というか受け入れる事にする。

 残る一つもクリア出来ればグレイス帝国との争いにも一定の方向性が見えるんだけれど。

 そんな僕にラビエラが付き付けた二つ目の問題点は、至極単純なモノだった。


「二つ目の問題点ですが、崇輝教の布教も教会も存在しないこのワグナスにおいて、ゼクシナの加護を受けた水晶が手に入るかどうかという事なのです。確か教会で司祭が祈りを捧げゼクシナから加護を受けた物のみとなっておりますので、教会が無い以上は、その……この島にあるのかどうか、と」


「…………え?」



 あ、これ詰んだ?



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