第18話 オーガという種族
エルフの少年を戦士団に渡し、一同に同行させる事になった。
ラクエルの里のユリとメイサと仲良く話をしているようだが、だいぶ打ち解けているみたいだな。
「子供は子供同士、ってことか」
「みな良い子達の様ですね」
微笑みながら眺めるラビエラに思わず見惚れてしまいそうになる。
普段は温厚な女性なのに、時々ブッ飛ぶんだよなぁ。まぁ僕がらみの時ってのは分かるんだけどね。
「そうだね」
それにしても、と溜息が出る。
頭を巡るのは洞窟でのリーヴァスの話だ。
「先ほどのリーヴァス様の話を、お気にしているのですか?」
「……あぁ」
そりゃあ気にするさ。
◇ ◇ ◇
時間を少し遡り、僕達があの子を連れて洞窟の外に向かう途中で、僕はリーヴァスから話を聞いていた。
「オーガの狙いが、あの子供だというのかい?」
「さよう」
チラリと後ろを伺うと、エルフの子供はラビエラと手を繋いでついてくる。
少し、ペースを落として彼に合わせた。
「理由を教えてもらっても良いかな?」
「カカカ、それ程難しい話でも無いのだがの」
彼は僕に教えてくれた。
「オーガにはゴブリンと似た特性が御座いましてな」
「ゴブリンと? ……それは、繁殖という意味ですか?」
「カカ。まさにそれよ」
「しかし彼は男だけど」
「いやなに、オーガには女も居りますのでな。ま、欲しいのはあの小僧の種、ということかの、カカカ」
「種って」
しかしわからん。
「オーガに男と女が居るのなら、なにもエルフを浚わなくても……というよりあの子を見るまで分からないって事は、人間ではオーガの相手は勤まらないという事?」
「それは無いですの」
聞けば、オーガの相手は厳密には種族は問わないらしい。
そこがゴブリンと似ている点。
エルフだろうと、人間だろうと、もちろんオーガが相手でも、オーガの女の腹からはオーガが産まれる。
そして同じくどんな種族の女の腹からも、オーガの男に孕まされた者は皆オーガを産む。
だが決定的に違う点もある。
「ゴブリンが数を増やす為に人間を襲うに対し、オーガは質を高める為に人間には見向きもしないのですよ」
「つまりそれは、人間とオーガの間に生まれる子供は質が、力が弱いという事だね」
「あやつらは戦闘種族ですからの」
戦う事を喜びとし生活とし伝統とする。
そんな戦闘行為に特化した種族がオーガだった。
ガランが相手のオーガの事を名付きと呼んで警戒していたのだが、それはオーガの伝統を知っていたからだ。
オーガは仲間の中で強さを認められた者のみ名前を与えられるとの事だ。
彼等の中では強さが絶対で、名を得る事は一つの名誉だという。
だからこそ、オーガは弱いオーガを認めない。
オーガは基本的にはオーガ同士で子供を作るそうだ。
人間相手に生まれた子はオーガ同士の子に比べて格段に力が劣るらしい。
そしてエルフだ。
「ではエルフとオーガの間に生まれた者は力が強い、と?」
「カカ。力というよりは魔力が非常に高いオーガが産まれるのだよ。まぁエルフは生まれつき高い魔力を有しておるからの」
特にエルフの男は非常に貴重らしい。
なにしろ女と違って乱用が利く。
集落に一人でもエルフの男を捉えておけば、定期的に魔力の高いオーガが供給される事になるのだから。
「それではエルフは常にオーガに狙われているというのが現状なのですか?」
「まぁの。だが基本的には大事には至らぬな」
「なぜ? エルフは強いのですか? その、オーガよりも」
オーガに捕まるのは怪我をして動きが悪い者や、あの子の様に幼くしてうっかり森に迷い出た者位なのだとか。
数匹のオーガで必死に追い回し捉えるケースもあるにはあるらしいのだけど。
「森はエルフの庭よ。あやつ等はどちらかというと精霊や妖精に近い種でもあるし、それだけ恩恵も受けておる。草原や平原ならばいざ知らず、この大森林の中にあって逃げるエルフを捉える事など誰にも出来はせん」
それだけに、あの子をどうしても手に入れたかったのだろう。
「何らかの偶然でゴブリンがエルフを手に入れ、それを嗅ぎ付けたオーガが奪いに来た。という線も有るって事かな」
「さて? それにしてはオーガに殺された様なゴブリンが見当たらぬでな。そのところは我にも分からぬの」
さして利用価値もないゴブリンをどうする? ……そも名付きが出るほどかの? ……とリーヴァスは一人でぶつぶつ言いながら歩き僕等を置いて一人で洞窟の暗闇に消えていったのだった。
◇ ◇ ◇
翌日、俺達は戦士団の真ん中で、助けた女性達と一緒に彼等の荷馬車に揺られていた。
朝になってガランが――
「結論が出た。あんた達をラクエルの里に連れて行く。ただし」
「下手な真似はしないと誓うよ」
「……そうしてくれ」
そうして、僕等はラクエルの里へと向かう手筈になったという訳だ。
リーヴァスの馬車で行ってもよかったのだけれど、さすがにあの馬は人目を引くし、普通の馬では無いからな。下手に警戒心を煽る必要はない。
ラビエラは里の二人やエルフの子達と談笑しているのだけれど、偶に――
「あ、」
「ふふ」
女性の一人と不意に視線があって互いになんとなく笑ってしまうと「ひっ!」その女性の真横で横顔をガン見しているラビエラが居た。
う~ん……目が怖い。
「……ラビエラ」
「……はい」
「隣へ」
「はいっ!」
いや、いいんだけどね。
間違っても攻撃だけはしない様にそのうち折りをみてしっかりと話し合おう。
「見えたっ!」
「着いたーっ!」
ユリとメイサが前方を指差して声を弾ませた。
行く先に視線を移してみると、丸太を組んだ外壁が見えてきた。
見張りの数人が外壁の上で手を振っている。
「あれがラクエルの里、か」




