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八百屋な少年は初恋をする10

伝達兵の案内でアリアナとジークは国王アキレウスが待つ一室へとやってきた。

三人が部屋に入ると、白髪のオールバックで威圧感と威厳の塊のようなアキレウスと男装しているアースレイがなにやら険しい表情で話し合っていた。


表だって話せることなのではないとジークとアリアナはすぐに理解した。


「来たか。では、アースレイ・・・たのんだぞ」


「承知しました」


アキレウスはジーク達が部屋に入ってくるとすぐに退出してしまった。

横を通り過ぎていく国王にジーク達は道を譲り頭を下げる。


すれ違い際にアキレウスがアリアナの隻腕をチラリと一瞥したことにはアースレイ以外誰も気が付いていなかった。


「私まで呼ぶなんて、何かあったんですか?」


「そうだね。少しまずいことになっているんだ。それに君が大きくかかわっている。いや巻き込まれているんだよ」


「師匠が? なんか悪さしたんですか?」


「何もしていないぞ馬鹿弟子」


「ジークにも係わることだからというより、君たち二人を嵌めようとする動きがあってね。キリオスという男に聞き覚えはないかな?」


「どっかであるような~ ないような~」


「・・・ギルドの職員だよ」


アリアナは心底嫌そうな顔と口調だ。


「あぁ! あの気持ち悪い奴ですか! 何かしてきそうだって思ってたんですけど、なにやらかそうとしてるんですか?」


ジークはやっと思い出した。キングアナコンダを討伐して帰って来たときに、意味の分からないことを言っていたギルド職員である。アリアナに馴れ馴れしく接して突き放された男だ。

去り際に目が合ってジークはその気持ち悪さに寒気がしたことを思い出したのだ。


「そのギルド職員だ。かなりの執着心でね。常に君をどうやって自分の物にしようかと考えていたようだ。そこまでは個人の気持ちの問題だから放置していたけれど、それが昨日からより明確な計画に変わったんだ」


「申し訳ないのですが、殿下。話が呑み込めません。あいつが私に執着しているのは私も既知のことですが、計画とは一体どういうことですか?」


「簡単に言うと、君を狙っている。過去に何があったのか検索しないけれど、どんな手を使ってでも君を手に入れたくて仕方ないようだ。この国を目茶苦茶にして巻き込もうとしている。キリオスに最悪の協力者が現れたようだ。・・・もうすでに先手が打たれてしまったかもしれない」






シルバリオン郊外のとある廃屋―――


「どう入国したのかは知りませんが、手筈通りにして欲しいものだ。本当に君のような獣風情を彼等が寄越したのか些か疑問だね。もしも支障がでたらどうするつもりだったんだか」


発言者はキリオスだった。過去にキリオスはとある組織と繋がりを得たのだ。

アリアナを我が物にするためにその組織を渡りをつけて協力関係となった。


「・・・計画に支障は無い範囲では? ifの話は余計だ」


協力者の言葉はまるで機械のようで感情を感じない。


「ふんっ ならさっさと取引を済ませようじゃいか」


キリオスは書類を、協力者は袋を互いに投げ渡す。

協力者はすぐに踵を返してこの場を立ち去ろうとしたが、キリオスに止められた。


「待て。本物かどうか確かめてからだ」


「・・・いいだろう」


協力者はその場で立ち止まる。

キリオスは渡された袋から小瓶を取り出した。中には禍禍し色をした薬がギッシリと詰まっていた。


「これが狂暴薬か」


キリオスは狂暴薬を一粒取り出してまじまじと観察する。

そしてその薬の効果を確かめるために、モンスターテイマーであるキリオスは一匹のモンスターを召喚した。

予め用意していたのだろう魔法陣から蛇のモンスターが這い出てくる。大きさは人と変わらないサイズだがコブラとアナコンダと足した姿をしていた。


協力者が警戒して構えるが、キリオスは笑みを浮かべた。


「ああ、これは僕が養殖しているキングアナコンダの幼体だ。まあ少し違うモンスターを混血させているけどね、すごいだろう」


「・・・」


「薬の効果はコイツで試す」


キリオスはキングアナコンダの幼体の口へと狂暴薬を放り込んだ。


狂暴薬を口にしたキングアナコンダの幼体の異変はすぐに表れた。

バタバタと廃屋の床の上でもがき苦しむ。


しばらくすると、ピタリとその動きを止めた。死んだように動かなくなる。


「どういうことだ! やはり偽物だったのか!」


「・・・見ろ」


キリオスは協力者に怒り詰め寄ると、協力者はキングアナコンダを指差した。


キングアナコンダは生きていた。ゆらゆらとその体を起こす。

体中の血管が浮き上がり瞳は充血して赤く光っていた。


「偽物では無かったようだな」


「一度死に、生き返って肉だけを求め喰らう。気を付けろ」


「な!? いう事を聞かない」


「そう言う薬だからだ」


キングアナコンダはモンスターテイマーであるキリオスの制御をとっくに受け付けていなかった。

毒を滴る牙が大きく開いた口から覗いていた。


キングアナコンダは協力者へ襲い掛かった。

しかし、次の瞬間には協力者の武器の錆びとなっていた。首が跳ね飛び毒と鮮血をまき散らす。毒が床をジュワジュワと溶かす。


協力者は無機質な瞳を、キリオスは面白そうにキングアナコンダの死体を見下ろす。


「狂暴薬。本物のようだね。それ切れ味よさそうには見えないけれど、凄いものだな。僕に譲る気はないか?」


キリオスは興味深そうに協力者の錆びついて鈍らな刃物を見る。


「・・・断る。それにコレに準ずるものはその中に入っているだろう」


協力者はキリオスが手にしている袋に視線を向けた。


「同じようなものなんだ、へぇ。じゃあ君はそう言う事なんだ・・・獣風情で彼等に気にいられる理由が分かったよ」


「・・・試さなくていいのか?」


「コッチは試したら死ぬかもしれないってことだろう。できれば使うつもりはないさ、念には念を入れて用意しただけだ」


そう言ってキリオスは袋を大事そうに抱える。


「まあいいや。しかし君等もなんでリスクしかない聖剣持ちなんかを狙うんだ? シルバリオンを落とすなら国王を狙えばいいだろうに」


「・・・貴様には関係のないことだ。国を落とすことが目的ではない」


「へえ。僕が彼女を手に入れて、君がアイツを手に入れる。この件が終わったら僕を君らの組織に歓迎してほしいけど、どうだい?」


「・・・私では決められない」


「まあ打診ぐらいはしておいてよ。じゃあ明日は手筈通りに頼むよ」


キリオスは機嫌がよくなったのか歪んだ笑みを浮かべて廃屋を出て行った。


「・・・分かっている」


協力者は廃屋に一人残って交渉で手に入れた書類に目を通した。

その書類には一枚の写真が挟まっていた。協力者の組織が狙っている人物だ。


写真には八百屋の仕事を手伝う、前髪をくるくると退屈そうに弄っている女の子のような少年がうつっていた。








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