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八百屋な少年は初恋をする9

ゴォオオオオオオオオン


無手同士のぶつかり合いとは思えない重低音が響いた。

固く握りしめたジークの右の拳と、手で剣を模したアリスの左の手刀が、弾き合う。


お互いに跳ね飛ばされることなくその場で衝撃に耐える。


一拍の静寂。

二人の視線が重なった。


連打、連撃、目ぬも止まらぬ速さでお互いの拳と手刀が入り乱れる。

ジークが繰り出す拳の連撃は、すべてアリスの手刀によってそのパワーをいなされ受け流されてしまう。


パワーはジークの圧勝だが、スピードを技量ではアリスが何手も上回っている。

だが竜の血統の目覚めは、その差をすぐに埋めていく。


闘いの中でジークの身体能力はどんどん上がっていくのだ。シルガと初めてたたかったときも同様の事が起きた。対応できなかったシルガのスピードに気が付くと対応しきれて、最終的には上回ったのだ。


あの時と違うことは殺人衝動がバルムンクのお蔭で一切ないという事と、その力を自力で引き出すことが出来るという事だ。


くりだす拳の数発をアリスは受け流しきれずに被弾し始めた。


しかし被弾はするものの致命傷にはならない。

かすった程度だ。アリス以外ならそのかすった程度でも致命傷になるだろう。


「流石ですジーク! もう私のスピードについてこられるなんて!」


「でも全然こたえてないじゃないですかっ!」


「ふふん! 私は無剣の武も極めているんです! そうそう負けて堪りますか」


「ならこういうのはどうですか?」


ジークは拳を開いてアリスの手首をガッシリと掴む。

アリスが警戒して払おうとしたが、絶対に逃げられない様に全力の握力でアリスの腕を握りしめた。


スピードが同じなら純粋にパワーでゴリ押しすることにしたのだ。


「はぁあああああ!」


ジークは、まるでアリスを人形か何かのように軽々と持ち上げてグルグルと振り回す。


そしてそのまま地面にアリスを叩きつけたのだ。


「うぐ!?」


アリスの声が漏れる。鈍い音がアリスの身体から鳴った。

骨は折れていないが確実なダメージを与えたとジークは思った。


たたみかけようとしてジークは再びアリスを軽々と振り上げた。


「もう一度!」


「甘いです!」


振り下ろしている途中でアリスが反撃に出た。

地面に叩きつけられる直前にジークの腕に絡みついたのだ。

蛇のようにスルスルと動いてジークの首を足で絞める形になった。


「ぐぇ!」


ジークは急に首を絞められて呻き声を漏らす。

そして振り下ろした勢いのままバランスを崩し、二人はゴロゴロと地面を転がった。


もう二人はドロドロに汚れようが気にしていなかった。

ジークのドレスはビリビリに破れ、アリスのアンダーは穴だらけだ。


それでも二人は攻撃の手を緩めることは無かった。


首を足で絞められながらもジークは歯を食いしばって立ち上がる。

腕にくっ付いて関節技を決めているアリスを持ち上げた。無論また叩きつける気だった。


「させませんよっ」


アリスは抵抗して脚の絞める力を強める。さらに空いているジークのもう一方の手の攻撃を先に潰しに掛った。関節を決めてしまえばいくらパワーがあっても逆らえない。これがアリスでなければ簡単に解けただろう。


「ぐぐぐぐ」


完全に封じ込められたジークは意地でも降参したくなかった。

呼吸ができなくなって苦しいし腕が痛くて仕方ないが、打開策を探す。


今日は防具なしでアリスの綺麗な顔が良く見える。ふとそんなことを思った。


そのおかげで思いついた打開策。


おでこががら空きだった。


ジークは力の限り体を海老剃りして反動をつける。

そして力いっぱい自分のおでことアリスのおでこをぶつけ合ったのだ。

いわゆるヘッドバッドである。


拳と手刀がぶつかり合った時のような重低音が二人のおでこから衝撃を与えた。


ゴォオオオオオオオオン


「いでぇええええええええ」


「あぅううううううううう」


あまりの痛さにおでこを抑えて涙を流しながらのた打ち回る。


「はぁ~ いったい何をやっているの・・・馬鹿弟子と馬鹿騎士は」


ジークの家の居候でジークの師匠のアリアナが外の騒がしくて見に来たのだ。

一部始終を見ていた。馬鹿げた戦いにあきれたため息を漏らしたのだった。


「あの聖騎士様がこんなに阿呆だったなんて。はぁ~ どうして私が馬鹿弟子と馬鹿騎士のお守なんてやらされてるんだか・・・勘弁してよ」


アリアナの苦労は絶えない。

庭園クレーター事件の時に活躍してしまった所為だった。

アリアナは唯一この国でジークとアリスの闘いを止める事の出来る人物だったのだ。


聖剣さえ使われなければアリアナはなんとか二人の闘いを止められたのだ。真剣のときも木剣のときもアリアナは被害を最小限に抑えた功績がある。


陛下やアースレイはそれを見逃さなかったのだ。聞くとアリアナはジークの師匠でもある。

なんとアリアナは城に住まう許可と一番下位だが爵位を与えられたのだ。

簡単にいいかえると二人のお守をしろという事である。


アリアナがいったいどこで人生を間違えたのか頭を抱えていると、

頭突きの痛みから回復してもいない二人がフラフラしながら立ち上がろうとする。どちらもまだ闘争心は無くなっていなかった。


「まだまだ」


「これからです!」


「いい加減にしなさいこの馬鹿共!」


ゴン! ガン!


重さの乗った隻腕のゲンコツは思った以上に大ダメージを与えた。

ジークは目を回して倒れ、アリスは白目をむいて気絶したのだ。


「ほんっと私の人生っていいことないわ」


空を仰ぎ見て黄昏るアリアナへ緊急の伝達兵が血相を変えて飛んで来た。


「アリアナ様! 緊急事態です! 至急、王族親衛隊隊長を叩き起こしてください! 陛下が御呼びです!」


血相を変えてきた割には慣れたように地面に転がるジークとアリスに目を向けていた。


「はぁ~ 了解しました。・・・ほんとこの馬鹿弟子と関わってからろくなことが無いよ」


現在進行形でアリアナの幸せは、ため息となって逃げて行っているかもしれない。






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