第30話 人。ドワーフとの共栄圏
ヴァイスはモンスターから槍を、僕は落とした盾を回収する。
「終わっただろう、ほどけ!」
マネージャーがわめくが冒険者依頼人全員で首を横に振る。
「歩けるだろ、このままで良い」
縛った当人のマーティンが吐き捨てる。
「お前たち自分の立場が分かっているのか!?」
「分かりますよ。国から指定された勇者候補生は代えが効かない。貴方こそただの目付け役で代わりがいくらでもいる。死んでも新しい人が国から派遣されて来ますよ」
僕の答えにアランが驚いた。
「そう言われるとそうか」
「ファイアボール撃つ?」
「やめろ!評価を下げるぞ!」
「いくら評価が下がっても勇者候補生を辞めさせてもらえません」
プリムラの怒りとトリルの悲しみに少し考え微笑む。
「死んだら『貴方から』の評価は下がりませんね」
「待て!分かった!このまま歩く」
こうして東へ進み始めた僕達。
僕達がモンスターの遺体を置き去りに離れた所でデスティンが後ろを向く。
それにつられて僕はその方向を見て、さらにエミールが僕の視線を追う。
「今になって狼煙か」
「モンスターが倒されることが報告条件だったんだね」
「どうする?」
「兵士に追いつかれる前に目的地に皆を送りたい、かな」
「その目的地からの迎えが来たんじゃないのか?」
僕とエミールの会話にマーティンが駆け寄ってくる。
「迎え?」
「かなり固そうな鎧の戦士達だ。しかし何か小さい?」
デスティンがその場で前を見て頷いた。
「ドワーフだな」
その言葉を受けて僕が発言。
「ドワーフの自警戦士達かな?彼らもモンスターを気にしていたのかな?」
そんな話をしてるうちに重厚な鎧の集団が姿を現した。
「狼煙が上がったと思ったら『ベースリング』だと?」
プリムラより少し背が低い男達が訝しむ。
「役人が縛られてる?お前たちはなんだ?」
「僕達は冒険者です。ドワーフとの共栄圏に移り住みたい人を守ってここまで来ました」
ドワーフ達の視線はリッキーさん達に集まった。
「子供ばっかりだな」
「何がやりたくて来た?山は渡さんぞ」
「私は文字と計算を教えている者です」
リッキーさんの答えに首をかしげるドワーフ達。
「文字?計算?なんだそれは?」
ドワーフ達も文盲だったらしい。
「飯は作れないのか?」
「俺は畑耕したことあるよ」
養子の男児達の言葉にやっと態度が軟化した。
「それなら来い。ベースリングは山の外で働くもんだ」
ドワーフ達に護送されて東へ進む。
―――
「おい、モンスターは死んだ。後また厄介者が来たぞ」
集落の大衆食堂と思われるところに連れてこられた。
「また?どんな奴?」
そんな返事をする食堂の女将に皆の目が釘付けになる。
特に女性陣。
背が男性より低いのは分る。
けど不釣り合いなサイズの。
「おっぱい、すごい」
プリムラが自分と見比べる。
トリルはしょぼんとしてる。
「ん?あぁ、はいはい。横見てみなよ」
食堂のドワーフ女将は隣のテーブルを指す。
ドワーフ男達がものすごい大きさの丼を食べている。
「ドワーフは皆ベースリングの三、四倍は食べる。種族が大食いだから赤ん坊もそうさ。女は赤ん坊に飲ますため皆こうだよ」
女性陣が納得いったようないかないような表情を浮かべる。
「良いな。その丼で俺も食いたい」
アランが席に着く。
「お?行くかいドワーフ盛り?」
女将の問いに周りの男がはやし立てる。
「ベースリングがドワーフ盛りだとよ」
「いや、かなりでかくないか?あのベースリング」
ブラスが笑う。
「お前しか食えねぇよ。俺達の飯は?」
「ベースリング盛りだね。えーと何人だい?」
数がとっさに出てこないのは女将もらしい。
「彼にドワーフ盛り一杯。他はベースリング盛りが男八杯。女二杯。子供六杯」
リッキーさんが話すと女将が僕を見た。
「レディース盛りじゃないの?」
「違いますよ」
「ふぅん。ところで厄介者はどれ?」
「これだ」
縛られたままのマネージャーがドワーフ戦士とマーティンに指される。
「役人。間違いなく厄介者だね」
「あの、またと言ってましたね?他にも役人が居るんですか?」
「別口さ。耳が良いからすぐ来るだろうさ」
奥に女将が戻るとドワーフ、ベースリング二種族の女給仕が丼を運んでくる。
ドワーフ女性の運ぶ量がかなり多い。
「早いね。皆同じ料理だね」
プリムラの指摘通り全員同じメニューだった。
「ドワーフの量を考えると一食一種類を大量生産しかないのよ」
女給仕が笑う。
なるほど、メニューを読む必要がない。
「支払いはどうしてるんですか?」
「仕事が認められたらタダ。だけど皆は今来たばかりだしね。一杯2クロス?」
女将が大雑把に答える。
「一人2クロスだってよ。金払え」
財布だけ独占しているマネージャーの縄を解くヤオ。
「ふん。我々七人だけだ」
僕は財布からリッキーさん宅の20クロスを支払う。
「数えるの早くないかい?」
「こちらのリッキーさんが字と計算を教えています」
「字と計算?へぇ?」
ピンと来てない女将。
各々食事を終える。
アランはドワーフ盛りを完食してすっかり人気者だ。
―――
「モンスターを倒したって?今ここにそいつらは居るかい?」
そんな事を聞きながら扉を押して入る客が来た。
異相の男だった。
袖のない服からあるべき腕がなく代わりに翼が生えている。
アランと背が並ぶくらいの長身、しかしやたらと細い。
胡散臭さが漂う顔つきの男性だった。
「来たよ。厄介者その一さ」
女将が男を指す。
男はアランの正面の席に着きへらへら笑う。
「アンタらで間違いないね。あ、飯まだだからベースリング盛りね」
「なになに?羽人間だ」
異様過ぎて胡散臭いにもかかわらず子供達が彼の周りに集まる。
「まず、アンタらは何者だい?」
「冒険者だ。依頼人たちを守ってここを目指して来た」
アランが答える間に男の丼が来る。
「アタシは翼だから飯食うのも大変なんだよ。食わせてくれない?後バッグの財布から2クロス出してくれ。あ、奢りなら歓迎するよ」
「ね、厄介だろ?」
女将の言葉に悩む皆に人の良いトリルがスプーンで彼の丼を口に運ぶ。
「いや、悪いね。お嬢ちゃんも新顔だね」
一口を飲み込み、上機嫌で話す男。
「貴方はいったい何者ですか?」
トリルが尋ねると男はへらへら笑う。
「アタシはハーピーのディル。大陸ジャーナルの取材さ」
「大陸ジャーナルか。余計な事は言うなよ」
マネージャーが吐き捨てる。
「大陸ジャーナルって何?」
僕も知らない、訊きたかった事をプリムラが訊く。
「カレギアではやっぱりマイナーか。大陸全国に展開する情報屋なんだけどな」
「外国出身ですか」
「そうさ。というよりガレカ山脈のドワーフ以外はベースリングばっかりなんだなこの国」
「この国は他種から見限られて、ドワーフも山のためにいやいや暮らしていると聞いたことはあります」
「間違いないよ。個人付き合いはともかくカレギアという国は印象最悪さ」
女将が頷き、ドワーフの男達は役人のマネージャーを睨む。
「カレギアとはどんな国ですか?」
一応は国民の僕が外国人のディルに問う。
「お前達が知る必要はない。余計なことは言うな、聞くな」
マネージャーが僕に念押しする。
「アンタらが『ベース』リングと呼ばれる理由。それは人の他種と交わると絶対にベースリングが生まれるからさ。カレギア教王国は二百年前、他種の男を殺し、女と無理やり交わって民族浄化で建国されたベースリング国家なんだなこれが」
「は?」
国の成り立ちまでは知らなかったマネージャーがぽかんとした。
第一章を書きあがりました
一話三千文字程度で三八話になります
ただいま第二章の肉付け中です
皆様にお願いがあります
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