第1話 霊媒士の勇者パーティー解雇
カレギア教王国ファンドル教王宮から冒険者寮に帰った勇者候補生ハーバンズは現状に納得していなかった。
勇者候補生は四人、ハーバンズは今回も評価二位に終わった。
冒険者寮でパーティーメンバーの魔術士オクタヴィアの姿を見つけるなりハーバンズは不平をぶちまける。
「なんで俺がアランより下なんだ!?俺は君主、あいつは戦士だぞ!?」
いきなり怒鳴られたオクタヴィアは少し引きながら答える。
「冒険者は招かれないと王宮に入れないし私に聞かれても分からないわよ」
実際、オクタヴィア他パーティーメンバーが招かれたことはなく勇者候補生の招集はハーバンズ一人が招かれている。
選ばれた人間だ、という自尊心を微かに満たしたハーバンズは今より戦力を上げる方法を考える。
「装備を今以上に強く。カネはあるか?」
「全員の総額は把握してないけど大きく跳ね上げるとなると足りないかも」
「俺とバリーは特にカネかかるからな」
「メンバーの誰にお金使うの?」
ハーバンズのパーティーは彼自身を入れて六名。
君主のハーバンズ、侍のバリー、斥候のゲイル、僧侶のラヴィーナ、魔術士のオクタヴィア、そして霊媒師のクーラン。
「むしろメンバー自体を見直すか?斥候より忍者だろ」
ゲイルはトラップ解除の技量はそれなりだが戦闘では潜伏と不意打ちに失敗が目立ってることが気になっていた。
「そんなエリートクラスなんてすぐ見つかると思えないけど」
自分に飛び火しないように考えたオクタヴィアは一人を差し出した。
「クーラン。珍しさで霊媒士を誘ったけど要らなくない?」
ハーバンズは僅かに考え頷いた。
「闇属性はスパルトイやインプに効かないと言い、毒属性はクリーピングコインすら倒せないと言う」
「属性が悪すぎる上に装備は魔術士並みの撃たれ弱さ。霊媒士は廃れるべくして廃れたのよ」
あいつはそこらの爺より色素のない白髪に金色の瞳、体つきも痩せぎすで弱そうな見た目だった。
「クーランは外してしまおう、外して誰を入れるか?」
「エリートが欲しいなら司祭じゃない?ラヴィーナなら伝手もありそうだし」
「決まりだ。クーランに気付かれないように動くぞ」
―――
ハーバンズ達と別の格安寮に住む霊媒師クーランは冒険中に集めた魔導書の断片を復元しようと机に向かっていた。
王都ファンドルにはクーランが扱う死霊術の師はおらず、運頼りの断片集めでしか魔法を習得できない。
オクタヴィアとラヴィーナより魔法習得が遅れている状態だった。
ハーバンズが王宮に招集されて三日後、ラヴィーナが寮を訪ねてきた。
「今夜、冒険者ギルドに集合ですって」
法衣ではお洒落ができない、とこぼす彼女は日に日に化粧っ気が強くなっている。
「新しい仕事かな?」
「伝えたからね?ちゃんと来なさい。ランチに遅れちゃう。私オクタヴィア達と待ち合わせしてるからもう行くわ」
「はい。また冒険者ギルドでね」
彼女の言葉で昼が近いことに気付き、僕は一度食事をとることにした。
ピクルスとレンズ豆、そして街にいる間しか食べられない柔らかいパン。
食事を手っ取り早く済ませ机に向き直る。
しかし何の成果もないまま赤くなった太陽光を頼りに荷物をまとめる。
机に広げた断片もいつかは揃う時が来るかもしれない。
冒険者ギルドに向かうことになった。
ギルドの広間にはパーティーの前衛担当の男性陣が揃っていた。
女性二人はまだ着いていない。
「こんばんは。集合って新しい仕事が見つかったの?」
「詳しくは女が揃ってからだが、とりあえずは装備新調のための集金だ」
リーダーのハーバンズが答えた。
「ハーバンズに集めろ。……宝石じゃねぇな。お前なんでガラスと石ころなんて集めてるんだ?」
ゲイルが言いながら僕のバッグから小さな袋を勝手に取り出していた。
僕は微笑みながら懐から財布を出し、ハーバンズに渡す。
ハーバンズは何も言わず財布の中を全て抜き取り、その間にゲイルは小袋をバッグに返していた。
程なくして女性陣が扉を開け僕たちを見つけて歩いてくる。
今夜は女性が一人増えている。
「お待たせ。皆揃ったわね」
なんだか服が派手になったオクタヴィアが悪びれもせず笑いかける。
見知らぬ女性はラヴィーナより少し華美な法衣を着て、やはり化粧っ気が強い。
「ようこそ、ファリナ……だったな。全員一度、俺にカネを集めろ」
ハーバンズが初対面のファリナという女性に確認するように話した後、全員のお金が集まった。
「それじゃ、皆に紹介。彼女がファリナ。私と同じ神殿の司祭よ」
ラヴィーナが自分のことのように自慢げに話す。
そしてハーバンズが続ける。
「ファリナにはパーティーに入ってもらう。そして冒険者ギルド規定、パーティー人数六人制限のため、クーランにはこのパーティーから抜けてもらう」
パーティー人数制限。
モンスターによる被害が小規模だが頻繁に起こる、この大陸での防衛策として冒険者ギルドが打ち出した物の一つだ。
「規定は知ってる……けど僕を外す理由は何故?」
「死霊術の属性が悪いな。魔術の方が安定して敵を倒せるんだ」
魔術士魔法の使い手にもなっているバリーが答える。
バリーは筋力、体力が高くて魔力自体は僕より低いけど。
「魔術士と僧侶の魔法が使えて僧侶と同程度に頑強だ。エリートクラス、司祭のファリナはお前より将来性がある」
ハーバンズは君主としてのエリート意識からかご満悦でサゲてくる。
話題の中心ファリナが鼻息を荒げる。
「ええとクーラン?ですね。あなたも有用な情報を下さいましたわ。女性の魅力は魔力になる。だから男のあなたが女性と同じように魔力を高めることは出来る訳がありません」
彼女もどこか男の魔法職を見下している様にも聞こえる。
魅力は人だけでなく精霊、魔、そして神をも引き付ける魔力になる。
これは僕の御師様の受け売りでパーティー結成時にちょっと話したことだけど……皆がお洒落に傾倒して装備に無駄な装飾をつけて散財してたのはこれが原因?
ゲイルなんて飾りっ気のせいで斥候なのに悪目立ちしてたし。
「アンタの女っぽい顔が嫌い。媚びてるような陰気な笑いが大嫌い」
「その詐欺みたいな女顔してなかったらそもそもパーティーに誘わなかったぜ」
ラヴィーナとゲイルが続いて悪態をつく。
そしてバリーが諭すように、でもからかうように話す。
「まぁ、俺たちと過ごした時間も無駄じゃない。覚えることも出来ないらしいが第3階位魔法まで使えるようになったんだろ?」
「ここ冒険者ギルドなんだから、他を探せば良いじゃない」
オクタヴィアが話をしめ、今夜初めてファリナと会った全員が納得した。
嫌われてることは自覚した。
食い下がっても良いことはなさそう。
「分かったよ。今までありがとう。ファリナさん頑張ってね」
「だから、その笑い方やめろ」
悪態で返されさらに霊媒師をサゲていた話から、これを聞いていた他を探すことも無理だろう。
これからは個人冒険者としてやっていくことになる。
そのまま外に出たらお金が全て取られたことを思い出した。
バッグにはゲイルが一度取り出して宝ではない、と返されたシャードが残っている。
これがあれば働くことは出来る。
でもこれを使える施設は……王都ファンドルの工房を一通り使ってみたがいまいちだと思えた。
一度、御師様のところに戻ろう。
今夜だけ野宿して明日の朝に王都を出ることに決めた。




