悲惨な戦場
我々の前に立ちはだかったドリゼラは、こちらをぼーっと見つめながら、まるでこちらの次の行動を待っているように、動きを見せることはなかった。
「エレナ、気をつけろ」
ドリゼラに最も近い場所にいたのは、ショットガンを抱えたエレナだった。ジキル爺さんは一刻も早く、ドリゼラから娘を離したそうだったが、それとは裏腹にエレナはゆっくりとドリゼラへと近づいていく。
「ドリゼラさん・・・?」
「エレナ下がれ!」
「でも・・・」
その時、父親の言葉に反論しようとこちらを向いたエレナの表情が、一瞬にして驚きへと変わると、その表情は永遠に彼女の美しい顔に刻まれることになってしまった。
彼女の顔は無数の紅い飛沫に彩られ、そのまま地面へと横たわった。ジキルの悲痛の叫びが空気を震わせ、我々はそれを全身で感じるのだった。
倒れ込んだエレナの身体と入れ替わるように、手に鮮血が飛び散っても変わらず虚ろな表情で立ちすくんでいるドリゼラが現れると、今度は娘の亡骸を抱き寄せているジキルに向かって飛び出してきた。
ジキルはまだそれに気づいていない。僕はあまりに突然のことで、その事実に気がつくことしかできずにいた。
だが、凄まじい勢いでジキルへ向かっていった彼女の動きは、再び止まることになる。ここまで状況があまりにも目まぐるしく展開していくもので、僕はただ膝を小刻みに屈伸させることしかできていない気がしていた。
ドリゼラの動きを止めていたのは、カミーラだった。動きを止められている彼女は、まだジキルに襲い掛かろうとしているのか、体の力を前へ押し出そうと必死になっているように見える。
「ドリゼラ姉さん・・・?」
カミーラは弱々しく呟いた。しかし、ドリゼラから返事が来ることはない。むしろカミーラの力を押し返すように、さらなる力を彼女にかけようとしている。
「そうよね!もう姉さんは死んじゃったんだもんね。だって姉さんがこんなことをするはずがない!エレナを傷つけるわけがないもん!あんなに可愛がっていたエレナを姉さんが傷つけるわけないもの!!」
カミーラはドリゼラを上回る力を出すと、ドリゼラを地面に叩きつけた。
「もうあんたは姉さんじゃない。姉さんの体を好き勝手にさせないわ!」
カミーラはそう言うと、ドリゼラに馬乗りになった。
「ごめんなさい。姉さんにあんなことをさせてしまって・・・。エレナも可哀想に・・・」
カミーラは腕を振り上げた。
「今、楽にしてあげるね・・・」
その言葉と共に、カミーラは自らの姉の首元に彼女の鋭い爪を振り下ろした。
何百というオオカミ人間たちが再びこちらに襲いかかってくる。だが、カミーラは動きが止まったドリゼラから離れようとしない。
だからと言ってこの戦場の中で、カミーラとジキルをここから動かすことは僕にできそうもなかった。もしかしたら、彼らにはもう生きる意思はなくなってしまっているのかもしれないとさえ思えた。
すると、こちらに押し寄せてきているオオカミ人間たちの行手を阻むように、今度はドラゴンが舞い降りて、一瞬で奴らを灰に変えた。
「もうこれ以上、私の家族を死なせないわ」
カサンドラはそう言うと、美しい人間の姿に戻っていた。
「申し訳ないけど、私たちは戦線離脱するわ。これ以上戦ったら・・・」
「ああ、ここまでありがとう」
カイが優しく答えた。
「妹たちを安全な場所へと移動させる間は、私も足止めのためにここにいるから、あなたたちも私がまだ戦場にいる間に早く先へ進んだほうがいいわ!」
向こうの方で、他のオオカミ人間が、カミーラとジキルの手を引っ張ろうとしている。
「分かったわ」
ブルターがカサンドラに答えると、先へと向かった。
「すまない・・・」
カイが小さく呟いたのは、恐らく僕にしか聞こえていないだろう・・・。
彼らが見えなくなるまで離れると、さっきの場所から火柱が見えた。僕たちはその熱波を背中に感じながら、先へと進んだ。
目的地に近づけば近づくほど、周りで戦ってくれている人たちの武器が、刀になっているのが分かった。どうやらかぐや隊のメンバーのようだ。
「お主ら!」
その事実に気づいた瞬間、聞き慣れた声が鼓膜を震わせ、僕は少し嬉しい気持ちになった。
「樫太郎さん!」
僕は声のする方を見るなり、彼の存在を目で確認するよりも前には、すでに名前を発音していた。
「待ち侘びていたぞ!さぁ、早くまいるぞ!」
彼はそういうと、足早に我々を目的地まで誘った。
「侍まで味方につけるなんて、やっぱり君はすごいなぁ!」
カイはよくわからない関心の仕方をしている。まぁ悪い気もしないが、いい気も別にしなかった。
「この辺りはとりあえず、制圧しているようなものだが、いかんせん奴らは何度斬っても立ち上がってくるところが厄介だのう」
確かに、戦場の中心地に近付いている割に、目立った戦闘が行われていない。ところどころ大砲が飛んできて、大きな音と地響きが襲ってくるが、多少の距離があればなんとも思わなくなってしまった。
「それにしてもこの時代の飛び道具は厄介だのう・・・。あんなのに当たってしまったら、ひとたまりも無いぞ」
樫太郎がそうぼやいた瞬間、急に表情に鋭さが戻ってきた。
「ふせろ!」
我々もその言葉を聞いてすぐに対応すると、進行方向から、マシンガンの弾が空気を切り裂く甲高い音を立ってながら、飛んできた。
「なんだ今のは?」
樫太郎が一番驚いているようだった。相手はオオカミ人間がほとんどで、今回の戦争の飛び道具ときたら、大砲がメインだった。
「もしかして・・・さっきの女がまだ生きていたのなら・・・」
べリングキャットのメンバーの一人がそう呟くと同時に、弾が飛んできた方向から三つの人影がこちらに近付いてくるのが見えた。
評価、ブックマーク等もしていただけるとかなり嬉しいです!
よろしくお願いします。
感想も待ってます。
記念すべき第一話はこちら!https://ncode.syosetu.com/n3719ku/1




