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おしどり夫婦のお料理事件簿〜小さな謎とダイニング・メッセージ〜  作者: 地野千塩


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生焼けの復讐劇(5)

 今朝の朝食は、フレンチトーストの濃いめのコーヒーだった。


 昨日は赤尾の一件があり、あの後、富川と飯田での見直した。少し飲みすぎたようで、頭が痛い。濃いめのコーヒーで頭をスッキリさせた方が良さそうだ。


 あの後、赤尾を一人で返してしまった事は、今思うと甘すぎて気もしたが、土下座して泣いている彼を見ていたら、もう犯罪行為に手を染める気はしない。


 甘いだろうが、少しぐらいは人間の中にある良心を信じてみたくなった。現状、赤尾が傑作を書ける可能性はかなり低いだろうが、せっかく小説家になる夢がある。実際に書いてもいる。このまま犯罪者にしてしまうのは、勿体ない。富沢の言う通りかもしれない。


 それに誹謗中傷しているSNSも消え、塩瀬は大満足な顔をしていた。彼女を悩ませる問題も消えたので、これで変な自己啓発に向かう事もないだろう。これだけは、ハッピーエンドといっても良い結末に思えた。


「今日の朝ご飯は、フレンチトーストか。卵と砂糖の良い香りだな」

「はちみつかけましょう。もっと甘くして、脳内にガンガン糖分入れていきましょう!」


 美玖は朝から妙に元気だった。その理由を知りたくて、このフレンチトーストを一口齧る。


 普通のフレンチトーストではなかった。中身はパンではなく、ケーキっぽい。


 頭の中でキッチンに立つ美玖の映像が浮かんできた。昨日失敗したパウンドケーキをスライスし、卵液のつけて、フレンチトーストを作っていた。こうすれば生焼けのパウンドケーキも立派なフレンチトーストに化けるようだ。


『昨日はパウンドケーキ作りに失敗したけど、ただでは起きないからね! 失敗も美味しいものに変えてしまうんだから。次こそはパウンドケーキも成功させるわ。型が大き過ぎたのが問題だった。さっそく型を買い替えるわよ! リベンジ! 一回失敗したぐらいで、私は負けない』


 フレンチトーストを噛み締める度に、美玖の強くて生命力がある想いが伝わってきた。ちょっと食べるだけでも、元気になれそうな味だ。黄色い生地も、キラキラして見えてしまうのだが。


「これ、パウンドケーキのリメイク?」

「ええ。失敗したものだって、絶対良いものに変えられるから。うん。赤尾さんだってちょっと失敗しただけよ。絶対未来ではリベンジできるわ」


 美玖の笑顔を見ていたら、彼の心配をするのも馬鹿馬鹿しくなってきた。きっと赤尾も立ち直れるだろう。少しの失敗ぐらいは擦り傷だ。赤尾もこの失敗を次に活かせると信じよう。生焼けのパウンドケーキだって、こんな風にフレンチトーストに変わるのだ。赤尾もきっとそうだと願う。


 甘く優しい味のフレンチトーストを食べながら、朔太郎の心も希望に溢れていた。

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