#37宴
衛兵の皆さんがここら一体の片付けをしてくれる事になった。俺と銀音は風剣の皆さんと街へ戻る馬車に乗り込む。別のBランク冒険者パーティーももう1台の馬車へと乗り込んでいた。
「ダゼルさん、街に着くまでもう1つのBランクパーティーについて教えて貰えませんか?多分この後宴になりますよね?なんか絡まれそうな気がして…」
「あぁーウィリアムは言葉が足りないんだよな。会議の時は不快な思いをしたかもしれないが、あいつなりに心配しての発言だったんだ。俺たちはウィリアムの人間性を知ってるから、言いたいことはすぐわかったが、初見だと馬鹿にされてるように感じるよな。俺からも謝罪させてくれ」
「いえ、会議後すれ違いざまに謝罪してくれたので気にしてないですよ。誤解されやすい人なんですね」
「そうなんだよ。だから口調や態度を改めろって言ってるんだが、本人には馬鹿にしてる気が無いから変える気がないんだよ」
ウィリアムさんのパーティー名はアングリフ。攻撃力がずば抜けているパーティーで、所謂攻撃は最大の防御、とにかく攻めて攻めて攻めまくるパーティーなんだとか。
パーティー構成も回復役が2人いるが、この人達も前衛近くで魔法攻撃にて参加するスタイルらしい。
「この後の宴で俺が仲介するから話して貰えないか?あいつもコウダさんに改めて謝罪したいだろうし」
「構いませんよ。私もギクシャクするのは嫌ですしね」
その後馬車ではたわいない話をして、東門へと到着した。意外だったのは銀音が皆と結構喋っていたことだな。クールな見た目に反しておしゃべり好きの様だ。
東門といえば俺の家へと向かう門であり、一番馴染みのある人達が居る場所だ。
「タクミ!ミノタウロスを討伐してくれたみたいだな!ありがとよ!こっちまで戦闘音が聞こえてたぞ。相当手強い相手だったみたいだな」
「なんか特殊個体だったみたいで、かなり手こずりましたよ…皆で協力したから何とか倒せました」
「タクミさんの武器は凄まじいものでしたよ!私達がどれだけ切りつけようとも、魔法を放とうとかすり傷程度だったのに対して、その武器が一度振り上げられたら最後、一刀両断にされていました。起動にも複雑な工程が必要なようですし、タクミさん以外には使いこなせないでしょうね」
多分起動が複雑って言うのは、オーバーフローした時の整備手順を見てそう感じたのだろう。本来は手順さえ踏めば簡単に起動することが出来、使い方も簡単だ。
「魔法を燃料にしているのか、小さな穴の中へ風魔法を送り込み、人差し指ほどの鉄と石で出来た杖には火の魔法を込めていました。あの程度の魔法であれだけの力が出せるとは…全く恐ろしい武器です」
「ダゼルさん、それは勘違いですよ。シリンダー無いに入ってしまった余分なガソリン…ボラタイルオイルを乾かすために風魔法でーーーとっ取り敢えず!難しいことはしてませんし、皆さんでも扱うことは出来ます!」
勘違いが行き過ぎて神話級位の武器に持ち上げられている。本当に誰でも扱えるんだけどな。とりあえず大量生産出来たら皆も納得するだろう。
エドさん達に明日にでも伺うことを告げ、中央へと向かう。宿はアルフォンス様が手配してくれている様で、馬車でそのまま役所へ直行だ。
到着した役所は三方の大きな扉が開け放たれており、中には様々な人、物が忙しなく行き交っていた。テーブルには飲み物や食べ物が並べられており、中央カウンターの天井にはミノタウロス討伐の宴と横断幕が下げられていた。
そして中央カウンターには人は居らずその代わりに天板が設置されていて、小舞台のようになっていた。成程、何か催しがあるときはこんな感じで1階フロアは使用されるのか。よく考えられてるな。
「ミノタウロス討伐お疲れ様でした。今から2時間半後の15時から討伐記念パーティーが開催されますので、まずは昼食をお取りください。中央舞台に準備されている食事や飲み物は自由に食べてくださって大丈夫です。また、怪我をされた方や小休憩をお取りになりたい方は私にお声掛けください」
食事か。無我夢中で戦ってたので空腹を忘れていたがあの料理を見たらお腹がすいてきた。他の冒険者達も一緒だったようで、各々で食べたいものを皿に盛る。
「お?向こうの討伐隊も戻ってきたみたいだな」
「はい。かなり苦戦したようですね。装備があちこち壊れています。しかし、彼らの顔は達成感に満ちていますね」
彼らの顔を見て、“あー!絶対今日の酒は格別だ!”って言葉が浮かんでくる。社会人になって難しい修理や仕事、大きな案件の契約を決めた時なんかは、達成感を肴にした酒がマジで美味い。
俺も今日初めて命の危機を経験し、その後ミノタウロスを撃破出来ているから、格別に美味しいだろう。
昼食を手早く済ませ、先程案内してくれた係の人にお願いして仮眠を取らせてもらうことにした。銀音はまだまだ食べ足りない、というより種類が豊富だから全部食べてみたい様で俺とは別行動だ。
仮眠から覚め、時計を確認すると14時40分を過ぎた位だった。思いの外熟睡してしまったな。俺は軽く身だしなみを整えて仮眠室を出る。1階フロアへ行くと先程とは比べ物にならないくらい食べ物と人で溢れかえっており、ライブ会場のような喧騒に包まれていた。
俺は人の合間を縫って中央舞台へと向かう。
「やっと主役のお出ましだ!皆!コウダさんが来たぞ!」
ダゼルさんがそう声をかけると、俺に向かって人が押し寄せてきた。なんかそれぞれ質問やら自己紹介やらしてくるが、一度に言われても困る。
「みっ皆さん!落ち着いて!順番…順番に、話を聞きますから!」
俺が声を上げ見かねたダゼルさんが助け舟を出してくれたおかげで、取り敢えずその場は収まった。この調子じゃ体が持たないぜ。
「今回の英雄は間違いなくコウダさんになるから皆顔見知りになりたいんだろう。悪い奴も居るから誰と付き合うかは慎重にな」
「こうなることが分かってるなら俺が来たこと大声で言わないでくださいよ…」
「はっはっはすまない。実は少し酔っていてな、あの戦闘を思い出してつい興奮してしまった。早速だがこいつを紹介させてくれ」
そう言ってダゼルさんの後ろから出てきたのは会議でいちゃもんをつけてきたアングリフのウィリアムさんだった。
「アングリフのウィリアムだ。その…救援に感謝する」
「ウィリアムそれだけか?もっと言うべきことがあるだろ?」
「うっ…会議ではすまなかった。実力の分からない顔も見た事ねー新米冒険者だったから信用出来なくてな。この辺じゃ出ないミノタウロスを討伐したってのに疑問を持って、ついあんな口調になっちまった。申し訳ない…」
「いえいえ!まぁちょっとキツかったですけど、ごもっともな疑問ですし、ちゃんと謝罪してくれてるので今後はお互い仲良くしましょう。改めてコウダ・タクミです。コウダがファミリーネームです。呼びやすい方でよろしくお願いします」
互いに水に流し、ダゼルさんが持ってきてくれたジョッキで乾杯した。味からしてエールだろうか?ちょっとぬるいのが残念だが味は美味い。今度冷やして飲んでみることにしよう。
「あーっと、コウダは最近この街に来たのか?俺は昔からこの街で冒険者をしているが初めて見る」
「それは俺も気になってたんだよ。あれだけの戦闘力があって無名なのはおかしいからな。しかも、銀音さんもかなりの実力だしどっか遠くから来たのか?」
「そうですね。まだこの街に住み着いてさほど経ってないです。ここから遙か東から来ました。知り合いに住居を譲って頂いたので、農家としてのんびり暮らそうかと」
俺がそう話すと2人ともぽかんとした顔をする。何か変なことを言ったんだろうか?
「農家ってのは何かの隠語か?魔物を収穫するとか…?まぁーコウダ位の強さがあれば作物を収穫するのと変わりないかもしれないが」
「東の国では冒険者の事を農家と言うのかもしれないな。成程、確かに農家と言えなくも無いかもな。魔物を倒し肉や素材をギルドへ下ろす」
「いやいや!隠語でもなんでもなく、本当に農家として働こうと思ってるんです!今回は偶然に偶然が重なってミノタウロス討伐に参加しましたが、本来進んで戦闘に参加したりしませんよ…」
元は農機整備士で所謂工具を武器に戦う企業戦士ではあったが、異世界ではのんびり暮らしたい。今回の討伐で結構大金が手に入るし、ゆったりと暮らしても良いだろう。
「色んな考えや生き方があるからな。コウダさんの場合は実力のある冒険者ではなく作物を育てる農家を選んだってだけの話か。勿体ないではあるが」
「冒険者としては登録するんだろう?だったら今後も同じクエストをするかもしれないな」
「その時が来ればよろしくお願いします」
農作業の合間に気分転換がてら薬草採取とか、迷子の猫探しとか簡単なクエストを受けるのもいいかもな。明日メビウスさんを訪ねながら冒険者ギルドに行ってみよう。