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87 ギルドマスターは樹海で切り刻まれます

pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!

 トリ頭、つまりわたしの記憶力が悪いってクロエに言われた直後だったものだからついつい取り乱しちゃったんだけれど……そのトリ頭説も、カニやんの話によれば 「嘘」 だそうです。

 それどころかわたしの耳は凄くよかったってことじゃない。

 ずっと何か聞こえるって言ってたのに、柴さんなんて 「歳か?」 とか言うんだもの。


 ムカつく


 あのね、老化すると耳は遠くなるのよ!

「歳か?」 はそっくりそのまま柴さんに返します!!

 といっても、今は返してる余裕はないんだけどね。

【素敵なお茶会】 に所属する三人の銃士(ガンナー)

 その中でも一番レベルが高く、一番長い射程を持つクロエが照準器(サイト)に捉えた影は鳥。

 私が聴いたのはその鳥の鳴き声だったらしい。

 遥か上空から奇声を発しながら急降下してきた鳥に、三人の銃士(ガンナー)が、それぞれの射程に捉えた瞬間狙撃を開始。

 わたしたちとは少し離れたところから聞こえた銃声はクロエのものだったのかもしれない。

 一呼吸ほど置いて、少し離れた木立のあいだからJB、ムーさん、恭平さんが駆け出してきて、カニやん、クロエと続く。


「撃ち方やめ!

 あれ、跳弾してる」


 この状況で、すぐにでも身を隠せる木と茂みのそばに位置取りするクロエは、二人の銃士(なかま)に無駄弾だと叫ぶ。

 とっさのことにその場で銃撃を始めたくるくるも、引き金から指を外して銃口を上に向けると、すぐさま木の幹に背を預けて立つ。

 片膝をついた状態で狙撃を始めたぽぽだけが、ホッとしたように銃口を下に向ける。

 う~ん、ぽぽ、その位置取りはダメだと思う。

 でもわたしもそれを指摘している余裕はなかった。


「鳥?」


 わたしが持っている鳥のイメージはインコからオウムくらいの、せいぜい手乗りサイズ。

 でも大空から奇声を発しながら急降下してきたのは、わたしのイメージにある 「鳥」 とはかけ離れたサイズで、わたしに言わせれば 「鳥」 と言えるものじゃない。

 しかもその怪物……この場合は怪鳥っていうべき?

 怪鳥はわたしたちの頭上高い位置で止まり、その巨大な翼を羽ばたかせる。

 ひと(あお)ぎで巻き起こる強風に、嫌な予感がする。

 怪鳥はさらに扇ぎ続け、次々に強い風を巻き起こす。

 それらの風が地表近くで乱れてぶつかり合い、互いにぶつかり合ったところで何かがキラリと光る。


「伏せて!」


 風を避けるように身を低くして叫んだわたしも、うしろからクロウに押さえつけられ、そのまま地面に押し倒される。

 すぐに重いとかそんなことをいっている状態ではなくなり、息をするのも苦しいほどの嵐が起こる。


「なに、これ?」

「動くな」

「ん」


 吹き荒れる強風の中、何かを切り裂くような沢山の音と、沢山のプレイヤーたちの悲鳴や叫び声がない混ざる複雑な騒音。

 形容しがたいそれはゆうに30秒は続いたと思う。

 ようやく静かになったと思って顔を上げたら、先に上体を起こしたクロウが手を貸してその場にすわらせてくれる。

 ホッと息を吐く間もなく見れば、クロウの背中からHPが流れ出てるじゃない。

 ちょっとーっ!!


「回復、回復」

「俺はいい。

 お前は?」


 そうじゃない、そうじゃないから!

 早く回復して!

 でも回復魔法を掛けようとしたらいきなり口を押さえ込まれ、わたしが窒息しそうになりながらモゴモゴいっているあいだに、クロウは自分のインベントリからHPポーションを取り出して回復…………ん? ……んん?

 ちょっとー! わたしのHPが回復してるじゃない!

 違うでしょ!!

 クロウよ、クロウの回復!


「あとでな」


 それ、どんな余裕?

 ねぇお願いだから自分を回復してよ、早く、早く!


「少し落ち着け」


 クロウは落ち着きすぎ。

 わたしの回復を終えてようやく自分の回復を始めたんだけれど、その視線が周囲を巡る。

 釣られるようにわたしも周りの様子を見たら…………なに、この阿鼻叫喚地獄。

 さっきまでぴんぴんしていたプレイヤーたちのほとんどが死亡状態になって、そこらの草っ原に横たわっていたり座り込んでいたり。

 あの荒れ狂うような大風の中、風と風がぶつかり合うことによって生み出された無数の(やいば)が、クロウの背を切り裂き、多くのプレイヤーを切り刻み、あっという間に死体が累々とする原っぱに変えた。


「あれ、あの鳥の(スキル)

 かまいたちみたいな感じだったけど」


 危うく落ちるところだったというカニやんは冴えない表情。

 そのすぐ後ろには、おそらく彼のカバーをしてくれたと思われるムーさんが、HPポーションの瓶を砕きながら同じように周囲に首を巡らせている。

 JBたちがぽぽを復活させ、それぞれに急いでHPの回復をする。

 生き残ったプレイヤーたちも同じような感じかな。

 クロエとくるくるは? ……と思ったら二人とも構えた銃口を空に向け、照準器(サイト)をのぞき込んで監視態勢を維持していた。


「あの鳥は?」


 わたしの問い掛けに、クロエは顎で大空を指し示す。

 わたしの目じゃ点にすら見えないほど遥か上空に飛び上がった鳥は、クロエの射程を超える遥か上空にいるらしい。


「あれ、音速を弾く速さで降下してくるから、下降を始めたらあっという間だと思う。

 撤退を指示するなら今だけど?」


 でも敵もなかなかやるもので、わたしがその決断をする間を与えず急降下してくる。

 ここにいる全員を落とすつもり?

 そんないらない意気込みを感じさせる勢いで降下してきた怪鳥は、わたしたちの遥か上空で滞空し、その大きな翼を何度も何度も羽ばたかせ、荒れ狂う風でわたしたちプレイヤーを切り刻む。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛たたたた……なによ、これっ?

 風の唸りに混じって、インカムからメンバーたちの歯を食いしばるような、声にならない音が聞こえてくる。

 木の陰でクロウに庇われるわたしは、抱きしめてくれる腕の隙間から次々にプレイヤーが落ちるのを見る。

 切り刻まれるクロウの全身からもHPが流出し、キラキラとした粒子はすぐに風に撒き散らされる。


「落ちないでよ」

「心配するな」

「ねぇ、アラートを見た?」


 気を紛らわせるように、わたしはクロウに話し続ける。

 怪鳥はずっとわたしたちの上空にいたのかもしれない。

 いつからいたのかはわからないけれど……少なくともくるくるを回収した時には上空を飛んでいたってことよね。

 たぶんあの時にわたしが聴いた音のようなものは怪鳥の鳴き声。

 空耳なんかじゃなかったのよ。

 柴さんはあとで溶かすとして……どうする?

 死亡状態じゃ移動は出来ないから、ここから移動するには復活させなきゃならないけれど、この人数のプレイヤーを回復させている時間はない。

 とてもじゃないけれど間に合わないわ。

 もちろんぽぽ一人だけなら間に合うけれど……。


 じゃあどうする?


 あれを落とすには……火力は十分にある。

 けれどあの高さじゃ剣士(アタッカー)の攻撃は届かない。

 まして羽ばたきを始めたら誰も怪鳥には近づけなくなる。

 でも怪鳥のあの羽ばたきは、たぶんあの低さまで下りてこないと地上には届かない。

 そして羽ばたきを始めるまでの数秒のあいだ、銃士(クロエたち)が撃ち込んだ数発はダメージが通った。

 つまり音速を弾いたのはたぶんそういう(スキル)で、物理攻撃が通らないわけじゃない。

 かすかだったけれど、それこそ本当にかすかではあったけれど、銃撃にHPの流出も確認出来た。

 間違いなくプレイヤーの攻撃は通る。

 じゃあ攻める方法はあるかもしれない。

 ようやくのことで怪鳥は上空へと飛び去り、再び、さっき以上にプレイヤーたちの死体が原っぱを埋める。

 一度目は耐えられても、回復が間に合わず落ちたプレイヤーがいたのかもしれない。

 クロウはクロウで、またわたしの回復から始めるし……文句をいおうとその胸ぐらを掴もうとしたら誰かに背を突き飛ばされ、自分からクロウの胸に飛び込んでしまうとか……なんで?

 易々と抱き留めてくれたクロウはわたしを庇うように身をかわし、手にしていた砂鉄を振るう。

 直後に響く剣戟に驚いたわたしが振り返ってみれば、砂鉄に払われた剣を構える見知らぬプレイヤーと、片手を手首あたりで失った不破さんが立っていた。


 どういうこと?


 目を白黒させて驚くわたしの前で、それこそどこからともなく現われたノーキーさんが、見知らぬプレイヤーを袈裟懸けに斬って落とす。


「な、に?」

「油断大敵ですよ、グレイさん」

「甘いぜクロウ~。

 こんな阿呆は容赦なく落としちまえ」


 ……えっとつまり、わたしを狙った剣士(アタッカー)からわたしを庇って不破さんが片手を落とされて、その剣をクロウが払ったところをノーキーさん登場ってことでいい?

 …………まさかの事態に頭が良く回らないんだけれど、とりあえずそんなところで合ってるみたい。


「グレイを落として名を上げようなんざ、百年早ぇ~んだよぉ~」


 死亡状態になって動けない見知らぬ剣士(アタッカー)は、ノーキーさんに剣を刺されてグリグリといびられている。

 こ、この忙しい時に……じゃなくて不破さん、不破さん!

 ああ、HPが出てる出てる、早く止めなきゃ!

 ちゃんと利き手を残しているところがさすが不破さんだけれど、同じギルドってわけでもないんだから、そこまでしてわたしを庇う必要なんてないじゃない。

 慌てるわたしが部位欠損の回復魔法を掛けようとしたら、樹海内で一番映える美女、真っ赤なチャイナドレスを着た蝶々夫人の厳しい声が飛んできた。


「回復はあたしの仕事!

 あんたは火力を選んだんでしょ。

 自分の仕事をしなさい」


 さっき会った時もそうだったけれど、いつものように悩殺ポーズを決めていないのは、樹海は足場が悪いから。

 ハイヒールを脱ぐか、悩殺ポーズを諦めるかの選択で、悩殺を諦めたらしい。

 まぁここでは見てくれる人はほとんどいないわけだし、それが正しい選択……なの?


「不破も不破よ、あんな簡単に斬られてるんじゃないわよ」

「申し訳ありません」


 罵りながらも回復を始める蝶々夫人に不破さんを任せたわたしに、ノーキーさんが声を掛けてくる。


「でぇ~?

 どうするよぉ、グレェ~イ?」


 カニやんから連絡を受け、ローズの回収に来たという 【特許庁】 のトップパーティ。

 どうやら彼らもあの怪鳥退治に手を貸してくれるらしい。

 だったら借りましょ、その火力。


「あの鳥、叩き落としてやる」


 そんでもって焼き鳥にしてやるわ。


「焼き鳥って、また……」


 呆れるカニやんだけでなく、他のメンバーたちも指示を仰ぎに集まってくる。

 行動を起こす前にベリンダ経由でマメに確認したけれど、公式サイトは変わらず、運営に動きはない。

 ただハルさんからは、少しHPポーションの在庫が心許なくなってきたって。

 いいわよ、次で勝負をつけましょ。

 だって機会(チャンス)はあるもの。

 怪鳥のあの攻撃は、あの低さまで下りてこないと地上には届かない。

 そして下りてきた鳥はあの高さに滞空するために体勢を取り直し、大きく羽ばたき始める。

 つまり攻撃開始ね。

 わたしが狙うのはこの、(スキル)が発動するまでのわずかな隙。

 アラートが出ないから怪鳥の種族はわからないけれど、【幻獣】 ではなさそう。

 このいつの間にか現われていた感は、琵琶湖を思い出すわ。

 嫌な感じ。


「グレイさん、来るよ!」


 監視していたクロエの合図に、わたしは原っぱの中程まで進み出る。

 死亡状態で動けないプレイヤーを避けて立つわたしの正面に怪鳥が下りてきたのは偶然だと思う。

 その目と目が合ったような気がしたのもわたしの気のせいだと思う。

 うしろから銃士(クロエたち)たちの銃撃が続く中、わたしは詠唱する。


「起動……クロノスハンマー」

「落とすって、そういう意味かよ……」


 発動する(スキル)を見てカニやんが呟く。

 怪鳥のすぐ上に現われた何本ものハンマーが、怪鳥を殴りつけ地面へと抑え付ける。

 打ち付けられた最初の一番強い衝撃で怪鳥の高度がぐっと下がるも、まだ地面には落ちない。

 血気にはやる剣士(アタッカー)が何人か怪鳥の真下に飛び出し、飛び上がって剣を振り回しているけれど滑稽なくらい届かない。


「起動…………モルゲンステイン」


 クロノスハンマーの圧力に奇声を上げて暴れ藻掻く怪鳥に、カニやんのモルゲンステインが発動。

 叩きつけるように落ちてくる無数の岩に、さらに高度を落とす。

 でもまだ……あと少し……。


「起動……モルゲンステイン」


 わたしも同じ(スキル)を重ねるけれど、まだ足りない。

 じゃ、予告どおり焼き鳥にしてあげる。


「起動……避雷針」


 ふん! これで黒焦げよ。

 ザマァミロ!!

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