86 ギルドマスターは樹海でトリになります
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確か臨時メンテナンスが終わって再度ログインして、すぐぐらいにナゴヤドーム内で不破さんとは会ったはず。
ローズに喧嘩をふっかけられている最中にね。
そのあとローズは、ノーキーさんに地下闘技場に誘われているっていう不破さんに連れて行かれたはずなんだけれど、そのローズの姿は見当たらない。
そもそも地下闘技場に行ったはずのノーキーさんと不破さんが、どうしてここにいるわけ?
まさかPKの噂を聞いて乗り込んできたとか?
「まさか。
そんなことをしたら、蝶々夫人にどんな目に遭わされるかわかりませんよ」
わたしの質問に苦笑いを浮かべる不破さんだけれど、もちろん今の樹海の状態は知っているし、知っていて足を踏み入れている。
むしろ知っているからノーキーさんや蝶々夫人と一緒に行動しているらしいんだけれど……
「実は地下闘技場にも噂が流れてきて、このクズがローズを焚きつけちゃったんです」
もちろん不破さんが言う 「クズ」 っていうのはノーキーさんのことね。
相変わらず酷い扱われ方。
一応蝶々夫人に注意はされてたんだけれど
「不破、こんなのでも一応主催者なんだから」
「すいません、ではクズマスで」
蝶々夫人にしても不破さんにして、酷い扱いね。
噂を聞きつけたノーキーさんに焚きつけられたローズが、一人でこの状態の樹海に来ちゃって、以来音信不通。
心配になるのは当然なんだけれど、でもローズの火力でこの状態の樹海に入るなんて無謀すぎない?
しかも一人でなんて、PKしてくださいって言ってるようなものじゃない。
今頃どこかで死亡状態になってるんじゃないの?
「そういえばグレイさんたちはどうしてここに?」
まぁうちも似たような事情ね。
銃士三人の救助に来たことを簡単に話すと、蝶々夫人と不破さんは顔を見合わせる。
そして蝶々夫人が言う。
「じゃあこうしない?
【素敵なお茶会】 の銃士三人を見つけたら回収するから、グレイちゃんたちも 【特許庁】 の鉄砲玉を見つけたら回収してくれない?」
わたしとローズの不仲を知っている蝶々夫人と不破さんは苦笑交じりなんだけれど、今は仕方ないわよね。
でもここは今、PKが出来る環境だから、ローズが斬りかかってきたらどうなるかわからないけど?
「ああ、その時は斬るなり溶かすなり、グレイさんのお好きに」
「そのまま放置しておいていいわよ」
一応大人しくするよういってはくれるんだろうけれど、あとでどんなお仕置きが待っていようときくローズじゃないもの。
わたしはクロウや柴さんもいるから平気だし、今は非常時だもんね。
うん、斬ってもいいなら別にいっか。
一応クロウの意見も伺ってみたけれど、特に反応はなし。
つまりOKってことよね?
「じゃあそういうことでよろしくお願いします」
「ほら、行くわよ!」
剣を構えて柴さんと向き合っていたノーキーさんは、蝶々夫人の杖で後頭部を強打される。
すぐさま言い返していたノーキーさんだったけれど、そもそもローズがこの状態の樹海に入り込んだのは誰のせいだと思ってるんだか。
「誰のせいでこうなったと思ってるのよ?
このクズ!」
「クズマスだよ、蝶々夫人」
ノーキーさんのお尻あたりに蹴りを入れながら歩き出す蝶々夫人に、続く不破さんはわたしたちに一礼を残してゆく。
わたしもカニやんたちにローズのことを話して、くるくるたちの捜索を再開させる。
案の定というか、クロエには悪態を吐かれちゃったけどね。
「ねぇベリンダ、マメはなにか言ってない?」
わたしの呼び掛けに、少し間があってベリンダが答える。
トール君を通してギルドルームのマメに呼びかけるから、どうしても時差が出るのよね。
『公式サイトには特になにも。
でも掲示板は結構大変なことになってるみたい』
噂が噂を呼んで一人歩きしてるならまだしも、大暴走しているらしい。
調査のために樹海に入ったプレイヤーが誰も戻ってこないんじゃ、確かに炎上するわよね。
運営が掲示板の監視をしてないとは思えないけれど、事象の確認にずいぶん時間が掛かっているような気もする。
『だから運営には期待しないほうがいいって言ったじゃない』
すでにカニやんたちと合流を果たしたクロエは、運営の早期対応には期待せず、さっさとぽぽとくるくるを回収して樹海を出たほうがいいという。
カニやんも同意見みたいだから、決定ね。
ようやくのことでくるくると合流出来たのは……ちょっと場所が悪いかな、こんなに富士・火口の近くだなんて。
ベリンダが言っていたスザク挑戦を目指すプレイヤーも多く、かなりの人数と遭遇。
わたしたちの目的がPKではないと話すとわかってくれるプレイヤーもいたけれど、中には問答無用で斬りかかってくるプレイヤーもいて、もちろんそういうのはクロウや柴さんに、それこそ問答無用で斬られる。
おかげでわたしは、魔法使いが多いのはもちろんだけれど、この二人の強さを改めて確認させてもらえた。
そのくらいみんながあっけなく落とされるものだから、わたしはひたすら走り続けるだけ。
ちょっとでも足を止めたら置いていかれそうなくらい二人とも足が速くて、ぜ……全力疾走が、続かない……。
「こんなところで、よく無事だったわね」
「ギリギリ、落ちる寸前です」
油断がならない状況に、やっとの事で見つけたくるくるは太めの木を背に銃を構えたまま。
肩を上下させて息を切らせながらもヒールを掛けようとしたら、なぜかクロウに止められた。
もちろんくるくるがわたしたちにPKを挑んでくるわけないし、クロウだってそれを疑ったわけじゃないんだけれど、とりあえずベリンダ、トール君経由でハルさんからHPポーションを多めに送ってもらう。
くるくるを回復させつつ近くにいると思われるぽぽに呼びかけたんだけど…………なに? ねぇ今、なにか聞こえなかった?
クロウも柴さんもくるくるも、なにも聞こえなかったっていうんだけれど……わたしの空耳ならそれでいいんだけれど、柴さんってば
「歳か?」
その突っ込みいらないし!
溶かしていいっ?
「……グレイさん、気持ちはわかるけれど顔が怖いです」
詠唱が喉まで出かかるわたしに、歳が変わらないと思われるくるくるが同情してくれる。
もちろんそんな言葉じゃ誤魔化されないわよ、くるくる。
だって気持ちはわかるとか言いながら顔が怖いとか言ってるじゃない!
ここは二人まとめて業火?
よし、詠唱
「グレイ」
口を起動の 「き」 の形にしたところでクロウに止められる。
ここで頭を撫でるとか卑怯じゃないっ?
まさかの驚異的フェイントを食らっちゃって、「起動」 の 「き」 の形だった口からは思いもせず 「きゅぅ……」 とか変な声が出た。
恥ずかしい……
もう、久々に穴に埋まりたくなった。
ここ樹海だし、ちょっとくらい深い穴を掘っても怒られないわよね。
わたしが入ったあと埋め戻しておいてくれたら運営にもバレないと思う。
だからお願い、誰かわたしを埋めて。
とりあえず嬉しい……嗚呼ぁぁぁぁぁこんな状況でなければずっと撫でていてもらいたいのにーっ!!
もったいないやら悲しいやら恥ずかしいやら……もうこれ、どうしたらいいのよっ?
『……とりあえずくるくる、そこは美人が台無しの間違いだから』
頭に乗せられたクロウの手を、このままにしておくかしておかざるべきかを苦悩するわたしをよそに、カニやんの冷ややかな教育的指導がくるくるに入る。
残念で残念で凄く残念すぎるんだけれど、クロウの頭なでなでを諦めてぽぽの捜索を続けることにするわ。
ちょっと顔が熱い……
「ぽぽ、ひょっとして火口に近いところにいる?」
『……結構近いかも。
俺、火口には来たことがないんだけど、プレイヤーが集まってるから……ひょっとしたらここが火口?』
なるほど、確かに行ったことがなければわからないかもね、火口は。
とりあえずわたしたちも火口に向かいましょう。
プレイヤーも集まっているっていうから気をつけて進んでいたんだけれど、単独もパーティを含めて結構なプレイヤーと出くわし、結構な数のPKを仕掛けられつつ火口に向かったわたしたちは、火口近くにある開けた場所でそれ以上のプレイヤーたちと遭遇した。
「なに、この数?」
「女王、下がって」
すぐ近くにダンジョン富士・火口入り口を前にたむろするプレイヤーたちの視線が、木立のあいだから現われたわたしたちに注がれる。
それがどういう意味合いの視線かはすぐにはわからなかったけれど、後衛職のわたしとくるくるが前に出るのは危ない。
すぐさまクロウと柴さんが、わたしとくるくるの前に出る。
もちろん背に庇われつつ周囲の様子を探ったわたしの目に入ったのは……あらやだ、ローズじゃない、もう!
予想通りというかなんというか、たむろするプレイヤーたちとは少し離れた場所でローズが死亡状態になっている。
向こうもすぐにわたしに気づき、地面に置いていた剣を手にとって立ち上がる。
うん、でもそこからは動けないんだけどね。
ちょっと面倒臭いからローズの復活は後回し。
確か、斬りかかってきたら落としてもいいって蝶々夫人も言っていたわよね。
「ぽぽ、いる?」
『くるくるのすぐ左』
わたしの少し後ろに立つくるくるを振り返り、そこから彼の左側を、ゆっくりと視線を動かす。
…………いた!
一見わかりにくい、茂みの陰に身を隠すようにぽぽは座り込んでいた。
少し疲れたようなぽぽは、わたしと目が合うと苦笑いを浮かべる。
遅くなっちゃってごめんね。
ギルドチャットで話を聞いたくるくるが 「俺が」 と、わたしたちを注視するプレイヤーたちを刺激しないようひっそりと動き、【復活の灰】 を使ってぽぽを救出する。
これでわたしたちの目的は全て達成。
このまま樹海をあとにすれば終了……なんだけど、帰してもらえなさそうな雰囲気よね、これ。
わたしたちにこの状況をどうしろっていうのよ?
これはもうゲーム的な不具合なんだから、どうにか出来るのは運営だけじゃない。
いちプレイヤーにどうにか出来るわけないんだけれど……
「一体どうなってるの?」
仕方がない、乗りかかった舟よね。
そう思って諦めるわたしに、インカムから何人かの溜息が聞こえてくる。
カニやんとか、クロエあたりよね。
『俺らもそっち行くわ』
『ほんと、お人好しなんだから』
待って待って、ちょっと待ってよみんな。
わたしの我が儘に付き合わなくていいから、こっちに来るならくるくるとぽぽを回収して、先に樹海を出て。
ついでにトール君とベリンダの回収もよろしく。
『は? なんでそうなるの?』
『ちょっとグレイさん、一人で楽しもうとか狡くない?』
いやいやいや、全然狡くないし。
っていうか、どうしてそうなるのよ?
『どうしてって……あのさ、いつも俺、言ってるよね?
俺たちは主催者に従うって』
…………そうだったわね。
ごめん、忘れてた。
『うっわ、あんだけ何回も言ってるのに未だ覚えてないとか。
酷すぎね?』
『グレイさん、結構記憶力トリだから』
ん? クロエ、トリってなに?
『知らない?
トリって三歩歩いたら全てを忘れるって』
なによ、それ?
わたしの記憶力、柴さん、ムーさん以下ってことっ?
ちょっとーっ!!
「理由はわからないが、誰も入っていないのに富士・火口に入れない」
たむろするプレイヤーの一人が、クロエの暴言に怒り心頭のわたしが先程した問い掛けに、ようやくのことで応える。
装備を見れば同じ魔法使いだし、見た感じ、周囲にいるプレイヤーたちは連れっていうわけでもなさそうな感じ。
スザク攻略に来た魔法使いってところかしら?
でも富士・火口に入れないっていうのは?
茂る木々の向こうに見える擬似富士山、その頂から煙は上がっていない。
誰かが攻略を始めた合図として狼煙が上がるんだけれど、その狼煙が消えるまで、次の攻略者は挑戦出来ない。
今、見上げる富士の頂に狼煙は上がっていない。
つまり誰も挑戦していないはずなんだけれど、入れないらしい。
じゃあ試しにわたしが入ってみようかしら? …………って思ったんだけれど、クロウの目が怖いからやめておく。
うぇ~ん、そんな目で睨まないでよ!
泣きそう
…………? ねぇ、やっぱり何か聞こえない?
ほら、ちょっと嫌な感じの……これ、なんの音?
「おいおい女王、まさか富士が噴火するってわけじゃないだろうな?」
「誰かが攻略に成功したら噴火するわよ。
でも今は誰も挑戦してないんだから噴火するわけないんだけど……」
それにこの音、そういう音じゃないと思う。
どこから聞こえてくるのかもわからないんだけれど……周囲を見回すわたしに、クロエがインカムから呼びかけてくる。
『何か空にあるよ。
ぽぽ、くるくる、そっちからは見えない?』
声を掛けられた銃士二人は担いでいた銃を下ろし、すぐさま身構える。
けれど撃つわけじゃなくて、その照準器をのぞき込むだけ。
「……確かに、何か黒い点が見えるかな?」
「ごめん、俺はこの距離、無理」
これはもう、三人のレベルとステータスの差ね。
レベル40台のクロエ、30前のくるくる、そして20台半ばのぽぽ。
くるくるには動く黒い点にしか見えないらしいんだけれど、クロエにはもう少しはっきり見えている。
それでも何かまでは判別出来ないって。
『逆光だから、よく見えないな。
でもあれ……急降下!』
不意にクロエの声が大きくなる。
すぐさま近くなる距離に、ぽぽやくるくるもその姿をはっきりと捉える。
「あれ、鳥!」
「デカい!」
うん、もちろんわたしの頭や記憶力のことをいってるんじゃないんだけど、こう……腹が立つのはわたしの心が狭いから?
わたしが気にしすぎっ?




