815 ギルドマスターは秋にギンナンを供えます
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この香ばしい匂い、どうも嫌な予感がするのよね。
というか凄く嫌な予感がするの。
脳筋コンビにはわたしが香ばしいとか言われるし、カニやんはルゥが匂うんじゃないかとかバカなことを言って、しかも実際にルゥの後ろ頭を嗅ごうとして鼻をバックン。
派手に悲鳴を上げながらのたうち回っています。
うっかりが過ぎるんじゃない?
そんなカニやんの回復はカニやんが大好きな脳筋コンビにお任せするとして、クロウもきな臭いと言って周囲を警戒中。
わたしよりもずっと背が高いからね、見える景色も全然違うのよ。
腹が立つ!
でも今はそんな個人的な感情は脇に置いとくとして、主催者としての務めを果たします。
脳筋コンビやカニやんにはわたしの気のせいじゃないかってからかわれたけれど、クロウも臭うって言ってるから間違いないと思う。
わたしも周囲を警戒するように見回しながら呼びかけてみる。
「ベリンダ、聞こえる?」
『聞こえるわよー』
わたしの呼び掛けに応えるベリンダの声はインカムを通して聞こえてくる。
機能としてはエリアチャットだけど、普通の会話で聞こえる距離にはいないから。
でも姿は見えているから、学生組とほんの少し離れたところに、恭平さんと一緒に立っているベリンダがこちらに向かって手を振ってくる。
今、秋時間を迎えたAD【ミドースジ】 には、わたしたちの他にもギンナンを拾いに来たプレイヤーがいる。
だいたいのプレイヤーは大丈夫だけど、たまに周囲とトラブルを起こす人がいるからね。
わたしたちも大勢で押し掛けているから迷惑を掛けないとも限らないし、それで二人は少し離れて周囲の様子を伺ってくれているんだと思う。
「ちょっと香ばしいというか、きな臭くない?」
『え? そう?』
『わからない……こともないな』
ベリンダと一緒にいる恭平さんが会話に入ってくる。
もちろんこの会話は脳筋コンビやカニやんはもちろんだけど、学生組や、一緒にギンナン拾いに興じているの~りんにも聞こえている。
JBやアキヒトさんにもね。
だからみんなが一斉にわたしのほうを見る。
それこそ合図もなしに一斉に見るからわたしの方が少しビビってしまったわ。
回復だけは忘れないでね
「匂うわよね?」
『する』
改めて問い掛けるわたしに恭平さんが答えると、どうやらベリンダも気づいたみたい。
それにの~りんも。
新たに会話に参加してくる。
『これって、ひょっとして悪魔の儀式?
正直、やり方とかあんまり覚えてないけど……』
まず普通の人はしないから、の~りんがやり方を覚えていなくても普通です。
だって悪魔の儀式よ。
普通の感覚を持っているプレイヤーなら、そうそうしないから。
もちろん絶対ではないけれど……。
『OK!
みんなはこのままギンナン拾いを続けて。
あたしがちょっと周回してくる』
見ればベリンダが身振りで 「任せて」 と合図をしている。
隣に立つ恭平さんもそれでOK……というか、二人で相談した感じ?
ちょっと見ないあいだ……というか、思い返せば前のイベント 【ヤシマの眩惑】 最中もよく一緒にいたような?
………………
うん、気づかなかったことにするわ。
だってほら、馬に蹴られたら痛そうじゃない?
というか○ぬわよね?
だったら君子危うきに近寄らずが正解だと思うの。
危機管理よ
カニやんには脳筋コンビの二人が着いているんだもの。
恭平さんだって一人くらい相棒が欲しいわよね。
『ちょっと集まったほうがいいかも。
ばらけすぎない距離で拾おう。
まだ周囲には知らせなくてもいいと思う』
恭平さんの配慮は悪戯に騒ぎを起こさないため。
なにもないに越したことはないもの、当然ね。
小心も……げふげふ……えっと、危機管理能力が高い? の~りんははじめからわたしたちとつかず離れずの距離だけど、うん、これもきっと、近すぎるとルゥになにかされると思ってのことだと思う。
の~りんは本当に危機管理能力が高いからね。
でも学生組は、油断をするとどんどん離れていってしまう。
下ばかり見ているから、自分の現在位置を把握していないというか、わたしたちとどんどん離れていっていることに全然気づいていないっていうか。
ベリンダが哨戒に出ると、一人になった恭平さんはそんな、油断をするとどんどんばらけていってしまう学生組に声を掛けながらこちらに向かってくる。
もちろんブチブチとギンナンを踏み潰しながらね。
「そうね、わかったわ。
ベリンダ、移動中も回復を忘れないでね」
『OK、任せて』
「あと、儀式はもちろんだけど、あれを見つけたらすぐに戻ってね」
『わかってるって。
わたし一人じゃ倒せな……』
不自然に途切れるベリンダの声。
なにかあった? ……なんて聞くまでもないわよね。
状況を整理すると、わたしたちは安全地帯でありギルドルームがある 【ナゴヤドーム】 から来た。
つまり 【中部東海エリア】 から来たわけだけど、仮想現実は東西が逆転している。
だからAD【ミドースジ】 がある 【関西エリア】 は 【中部東海エリア】 の東側にある。
ややこしいわよね、ほんと……
で、AD【ミドースジ】 には西側から入ったわけだけど、【ミドースジ】 自体は南北に伸びる細長いエリア。
これは大阪に住んでいる人ならわかる話らしいんだけど、南北に伸びる道は筋、東西に伸びる道は通りと呼ぶ決まりのようなものがあるらしい。
AD【ミドースジ】 のモデルは現実の御堂筋なので、南北に細長いエリアになっている。
南側と北側、どちらの方がギンナンの実りがいいかとか、良質のギンナンが採れるかについては、攻略wikiでも 【要検証】 となっている。
だからわたしたちも気にしなかったの。
学生組やアキヒトさんがフラフラ歩くから、それについていく感じで 【ミドースジ】 に到着。
そのままギンナン拾いを始めたわけだけど、改めてウィンドウで確かめてみると現在地は結構北側。
で、ベリンダが走り去ったというか飛び去った方向は南側ね、なんて考えていたら……
来たー!!
速さが命の短剣使いベリンダ。
速さの維持と引き替えた軽い剣に一撃必殺の重さはないけれど、とにかく速い。
わたしとの会話途中でそれに遭遇したベリンダは迷わず離脱。
うん、その速さを維持し、かつ最も有効に使うためには即断即決よね。
迷いは禁物です
そのへんの適性があったベリンダに短剣使いはベストマッチしたけれど、よりによってNPCともマッチしないで欲しかった。
運が悪いにもほどがあるというくらい運悪く標的にされたらしく、それを引き連れて戻ってくるっていうね。
alert オオイチョウ / 種族・幻獣
はい、アラートが出ました!!
ということで、わたしたちもオオイチョウの攻撃対象エリアに入りました。
「ちょ、ギルマス、あれなにっ?」
「え……えと……wikiになにか書いてあったような気がする」
すっかり取り乱した美沙さんのうわずった声と、冷静に努めようと頑張っているトール君。
でも冷静になりきれていないところがトール君です。
二人の手元にもアラートのウィンドウが開いているから、がっつり交戦圏に入りました。
わっさわっさと金色の葉を撒き散らしながらベリンダを追ってくるオオイチョウは、根を足代わりにして移動している。
しかもなかなかベリンダが攻撃対象エリアから出られない。
エリアから出たら標的が外れるからね。
外れないってことは攻撃対象エリアから出ていないということ。
このゲームで一番の速さを持つ短剣使いが振り切れないって……
どんな速さよっ?
オオイチョウは根を足代わりにしているといっても、二本足で歩いているわけでも走っているわけでもない。
蛸みたいに、何本もの根を足代わりにウニョウニョさせながら移動してくる感じ。
しかもそれが無茶苦茶速くて、あっという間にわたしたちはもちろん、トール君たちも攻撃対象エリアに捉える。
「トールたちは離れてろ!」
「こいつ、めっちゃ硬いねん!」
大分類では剣士に分類される短剣使いだけど、ステータスポイントをAGIに全振りしているといってもいい。
つまりVITは滅茶苦茶低いのよ。
そんなベリンダからオオイチョウを引き離すべく、剣を抜いた脳筋コンビがベリンダとオオイチョウのあいだに割り込む。
「ヒール」
「ヒール」
戦闘に入ると二人は自力回復が出来なくなる。
その二人を援護するわたしとカニやんの 【ヒール】 が重なる。
さぁ対 【幻獣】 戦よ。
このゲーム最凶の種族 【幻獣】。
ちょっとやそっとのことじゃ落ちてくれないステータス非公開を相手に、デスマーチが聞こえてきそう……と思ったら、なぜか陽気なリズムで笛の音が聞こえてくる。
えーっと、この陽気なリズムはひょっとして……
サンバっ?!
おかしい・・・そろそろ今回のスペシャルゲストが登場する予定だったはず。
それなのに全然出てきませんね。
というわけで、もうオオイチョウをスペシャルゲストにします!!
・・・嘘です、ごめんなさい。
たぶん次話こそ登場します、あの人がw




