表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/806

76 ギルドマスターは上れません

pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!


・・・また遅刻です、申し訳ございません・・・(涙

 こんなところにダンジョンがあるなんて聞いてない! ……なんてだだをこねても今更よね。

 みんなが止めるのを無視してダンジョンに入っちゃったし、交戦も始めちゃったし。

 うん、でも交戦は不可抗力よ。

 だってここに入ったら始まっちゃったんだもん。

 巨人のほうから仕掛けてきたのよ。

 それも容赦無しの特大フェイントで、いきなり顔面を狙ってくるとか。


『それ、グレイさんの背が低いから顔面になっただけじゃない?』


 これはあとでクロエに言われたこと。

 つまり、もう少し背の高いプレイヤーなら顔面にならないってことよね。

 うん、そうかもね。

 わたしの背が低いって言いたいのよね。


 ムカつく


 しかもこの火焔魔人スルトは火属性の魔法反射、火・水・氷系以外は無効。

 効果のある水や氷系でもダメージが微量だから、結構高い魔法耐性があるんだと思う。

 対魔法戦じゃ埒が明かないと思ったわたしは、握っていた杖を大鎌に切り替える。

 物理攻撃に切り替えてみようと思ったの。

 魔法耐性があるのなら物理攻撃には弱いんじゃないかと考えたんだけれど、まず魔法使いのわたしが巨人に近づくのが難しい。

 物理攻撃を持たないと思われる……少なくとも今のところ魔法でしか攻撃を仕掛けてこないんだけれど、撃ってくる数も半端ないし、いくらわたしが魔法吸収でも間隙を縫うのが難しいくらい魔法の発動が速い。

 魔法効果(エフェクト)や衝撃で近づくのに苦労……うん? ひょっとしてこの巨人、わたしを近づけさせたくなくてこの連続攻撃?

 まさかね。

 ようやくのことで近づけた巨人に、やっとの事で大鎌を振るってみたらスカッと抜けた。


 手応え無し!


 何よこれ?

 まるで実体のない焔を斬っている感じ。

 ううん、多分そうなんだと思う。

 実際、巨人のHPゲージに変化はまるで無し。

 つまり物理攻撃も無効なんだ。


「え~! もうこれ、どうしたらいいのよっ!」


 思わず声に出して嘆いたら、インカムからは凄い溜息が聞こえてきた。

 一人じゃなく、大勢のメンバーが一斉に溜息を吐いた感じ。


『全然削れない?』

「物理も無効だった」


 溜息の中でも同じ魔法使いのカニやんに答えたら、他人事だと思っていたらしい脳筋コンビが嘆き出す。


『マジか!』

『魔法耐性で物理無効って、なにそれ?』


 だから攻めあぐねてるのよ。

 もちろんタイミングもあるから、大鎌での攻撃も二、三回繰り返してみたけれど、どれも実体のない焔を斬っているような手応えのなさ。

 当然巨人のHPゲージに変化は全くない。

 やむなく鎌を杖に戻して魔法での攻撃を続けるけれど、それでも削れるHPは少なく我慢大会に戻る。

 巨人が物理攻撃を使ってこない限りわたしのHPが削れることはないけれど、高い魔法耐性に阻まれてこちらの攻撃もほとんど通らない。

 魔法吸収で還元出来るMPも三分の二だから、時々はポーションを使って回復しないと間に合わなくなってくる。

 そのポーションに余裕がないとか、ヤバくない?

 これはもう仕方がない。

 使っても大丈夫よね?

 だってここはダンジョンだし、わたし一人だから巻き込み被害も出ないし。


「……起動……」

『グレイ、灰燼(かいじん)を使うのはよせ!』


 決心したわたしが詠唱を始めた刹那、インカムから、いつの間にかログインしていたクロウの声が制止してくる。

 続いて気づいたクロエまでが


『グレイさん、初見ダンジョンで一人でしょ?

 灰燼はダメだよ』


 わかってる。

 スザクのスキル 【灰燼】 が無情なのは術者でもあるわたしにとっても同じで、しかもわたしにだけは諸刃の剣。

 使い方を間違えればわたしが落ちる危険がある。

 わかってはいるんだけれど……でも、じゃあこれ、どうしたらいいのよぉ~!

 ちょっとだだっ子みたいになったわたしは、杖の尻で足下に展開していた巨大な灰燼の魔法陣を突くと、魔法陣は木っ端微塵に砕けてスキルは不発に終わる。


『落ち着け。

 少しずつでも削るんだ』


 クロウは堅実よね。

 もちろんそれはわたしにもわかるし、たぶんそれがこの巨人の正しい攻略方法だとも思う。

 でもポーションが足りないんだって……う、うん、もちろん自分のミスだってことは百も承知なんだけれど、常時発動(パッシブ)スキル 【愚者の籠】 を使って地道に気長に、巨人にMPを回復してもらいながら戦うには時間が掛かりすぎる。

 だってこれ、今晩中に攻略出来るの?

 そう思うくらい削れないって、どんだけ高い魔法耐性よ?


『ポストに送る』

『待ってクロウさん、俺のほうから送るよ』


 それまで会話に参加していなかった春雪さんの声が割り込んできた。


『ギルドの調合士はこういう時のためにいるんですから、ご指名ください』

『すまない、頼む』


information クロウ からアイテムが届きました

information 春雪 からアイテムが届きました


 ん? ハルさんからはともかく、クロウがなにを送ってきたの……と思ったら、またHPポーションっ?

 ええ、いつものよね、これは。

 シャチ銅タイムトライアルの景品というか賞品というか……なんでこのタイミングで送ってくるのよ、もう!

 っていうか、そろそろやめてくれない、この罰ゲーム!


『諦めろ』

『例の罰ゲーム、まだ続いてるんだ』


 クロウもクロウだけれど、クロエも呑気なもんよね。

 完全に他人事だと思っちゃって。

 よかったら溜まっているHPポーション、全部上げようか?


『いらないよ。

 それよりさっさと倒したら?』


 言われずともわかってます。

 クロウから送られてきたHPポーションはそのままにして、ハルさんから送られてきたMPポーションをポストからインベントリに移し、必要に応じてMPを回復。

 予想ほどは掛からなかったけれど、それでも一時間近く掛かるとかスザク並み。

 ううん、火力はスザクほどじゃなかったけれど、あの魔法耐性はスザク以上かもね。


information 新しいスキルを取得しました


 あら、予想外の収穫。

 巨人がいなくなった空虚な空間はただただ広いだけ。

 まだ熱気が残るその中でちょっと鼻歌を歌いそうになったんだけれど、慌てて口を押さえたわたしは、出てきたインフォメーションをポチって詳細を表示。

 ざっと内容に目を通してみたんだけれど、これってつまり、さっき巨人が使っていた大きな火の玉を次々に飛ばす術よね?


「サラマンダーってスキルか……でもこれじゃないの!!」


 だってこれ、範囲魔法じゃない。

 今わたしが欲しいのは単体魔法なの。

 欲しいものが欲しい時に手に入るなんて、そんな上手くいくわけないか。

 しかも今回は事故の事故だし、欲張っちゃダメよね。

 骨折り損にならなかっただけよかったとしましょう。

 インフォメーションに従ってダンジョンを出てみれば、転送されたのは落ちる前の崖上。

 この崖を登らずに済んだことにホッとしたら、探しに来ていたらしいクロウの呼ぶ声がする。


「グレイ、動くな」

「クロ、ゥ……?」


 なぜ動いちゃいけないのかと思ったら、次の瞬間、グラリと体が後ろに傾ぎ、クロウが遠ざかる。

 なに……って、これはあれよね?

 わたしが立っていたのは崖っぷちで、動くと落ちるからクロウは動くなっていったわけ。

 駆けつけるクロウが伸ばした腕をつかみかけて、わたしは躊躇った。

 だってその手をつかめばクロウも落ちる。

 慌てて伸ばし掛けた手を引こうとしたのにギリギリのところでクロウにつかまれ、二人揃って崖を落ちる結果に。

 しかもわたしってば、着地にクロウをクッションにしちゃった……ごめん。

 わたしたちの今の体はデータでしかないから大怪我なんかは負わないけれど、衝撃や痛みはある。

 あの高さを落ちた上、わたしに下敷きにされたクロウの呻き声が耳元で聞こえる。


「ちょ、クロウ、大丈夫?」

「無事か?」


 わたしは大丈夫よ、クロウをクッションにしたから。

 わたしの心配じゃなくて自分の心配をしてよ。


「もう、なにやってるのよ!」

「お前こそなにをやってる?

 さっさと手を掴んでいれば落ちずに済んだはずだが……」


 ご、ごめんなさい……。

 でもクロウも一緒に落ちてしまうと思ったから……結局落ちちゃったんだけど、どうするのよ、これ?

 二人とも落ちたら助けを呼べないじゃない。

 そう思ったから一人で落ちるつもりだったのに、クロウは平気そうな顔をして自分の耳元、インカムを指さす。


「俺の位置情報を公開してある」


 いつもはクロウも自動表示を切っているんだけれど、わざわざ表示に切り替えてギルドメンバーたちにわかるようにしたらしい。

 たぶん今だけだと思うけど。


「どこか、上れそうな場所はありそうか?」

『見当たらないね』


 わたしが巨人と戦っているあいだにメンバーが関東エリアに入り、エリア境界にあるこの崖によって造り出されている溝に添って上れそうな場所を探しているらしい。

 その返事がクロエからあったんだけれど、それってつまり、また巨人を倒さなきゃならないってこと?


 んもぉ!


 MPポーションの残りがどれくらいあったか思い出していたら、わたしに下敷きにされていたままだったクロウが、わたしを抱えるようにして上体を起こす。

 うっかりしていたけれど……誰にも見られてないわよね?

 うわぁ顔が熱くなってきた。

 ひぃ~耳まで……どうしよ、誰も見てないけど、恥ずかしいんだけど、ちょっと嬉しいかも。

 もちろん内緒。


「グレイ、立てるか?」

「立てる」


 ちょっと恥ずかしくて顔を上げられない。

 絶対顔どころか耳まで赤いはず。

 わたしってば立てるって答えたくせに結局クロウに立たせてもらったり……ちょっとこれ、どうしたらいい?

 とりあえず顔、上げられないんだけど……。


「ここか」


 結局巨人がいる横穴にクロウをご案内。

 でも巨人に物理攻撃は効かないから倒すのはわたしで、クロウはMPの回復係。

 今回は色々と試したりしないで、ひたすら手持ちの水・氷系スキルで攻撃あるのみ。

 本当は取得したばかりのスキル・サラマンダーを試してみたかったんだけど、反射された場合、もちろんわたしは無傷だけれど、クロウが被弾する可能性があるからダメ。

 それはまたの機会にして、回復役をクロウがしてくれている分さっきより速く攻略。

 今度こそなんとか無事に崖上に上がれますようにって思っていたら、またクロウに呼ばれる。


「グレイ」


 なんだろうと思ったら、いきなり腕を回してきて抱き寄せられるとか……ひぃ~……なに、これっ?

 しかも 「なに、これっ?」 はクロウだけじゃなくて運営もだった。

 運営が何をしたかっていえば、やってくれたのよ!

 クロウに抱きかかえられた状態でわたしたちはダンジョンを出たんだけれど、もちろん転送先は崖上。

 だけれど凄く際どい位置で、崖上に引っ掛かっていたのはクロウの片足だけ。

 わたしなんて宙ぶらりん状態で、クロウが手を放せばまた崖下に垂直落下間違い無しの状態。

 でもこのままでも二人とも十分落ちる位置だったのを、クロウってば転送直後、わたしを抱えたまま瞬時に横っ飛び。

 転がるようにして、なんとか二人とも崖上に留まることが出来た。

 クロウの瞬発力にもビックリだけれど……


「な……な……なんなのよ、これっ?」

「これを運営は故意にしているのか、それとも不具合なのか」


 故意にしろ不具合にしろ、これはなし!

 絶対に無しで!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ