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ギルドマスターは今日もギルドを運営します! ~今日のお仕事はなんですか?  作者: 藤瀬京祥


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75 ギルドマスターは巨人と戦います

pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!


またしても遅刻いたしました、申し訳ございません。


 まさかクロウの拳骨でHPが減る現象が不具合だったなんて……思わなかった。

 通常エリアでのHP減少はないっていうのはもちろん知っていたけれど……うん、言われてみれば確かに不具合よね。

 きっとクロウの拳骨の痛みで平常な判断が出来なくなっていたんだと思う、たぶん。


『それクロウさんに言ってみたら?』


 またインカムからクロエが意地悪を言ってきた。

 そんなの絶対に言えるわけないでしょ。

 言えばまた拳骨を落とされるってわかってるじゃない。

 クロエってばわたしのこと、そこまで馬鹿だと思ってるわけ?


 お生憎様


 とりあえずクロウが運営に報告してくれたから、今はその返事待ち。

 修正が入るのは必至だと思うけれど、報告を上げたらプレイヤーのわたしたちに出来ることはない。

 まだクロウもログインしていないし、ちょうどいいから今日は課題に取り組んでみようかな?

 もちろん一人でね。

 今のわたしの課題は単体攻撃スキルが少ないってこと。

 このあいだはトール君のクエスト相談で中断しちゃったし、ついでに目新しい物でもないかと思って、あまり足を向けない関東エリアを散策していた。

 関東エリアの主なダンジョンはトチョウ、エリアダンジョンの富士・樹海、樹海から連なる富士・火口。

 みんながスザクって呼んでいる、実装されているダンジョンの中で最強クラスの重火力ダンジョン、それが富士・火口。

 ほかに東京砂漠にマサカドの首塚。

 マサカドの首塚はノブナガと同じく不定期に出現するエリアキャラで、首塚周辺が出現エリア。

 この首塚近くか東京砂漠を抜けなければトチョウには辿り着けないんだけれど、トチョウはフチョウと同じくエピソードクエストにある。

 つまり誰もが避けて通れない場所と敵。

 わたしはノブナガのほうが遭遇率が高いんだけれど、プレイヤーの中ではマサカドのほうがメジャーみたい。

 そういえば琵琶湖の件もまだ残っていたっけ?


 結構忙しいじゃない


 そんなことを考えながら歩いているうちに……もちろん途中で、何体もの犬と遭遇したし、キャンキャン吠えられながらも溶かしてあげました。

 犬っていうのはわたしが勝手にそう呼んでいるだけで、名前はガルム。

 カニやんの豆知識では冥府の番犬らしいんだけれど、赤い色をした結構大きな犬で、いつもよだれを垂らし、関東エリアの……たぶん砂漠をのぞいたどこにでも出現したはず。

 それをファイアーボール程度のスキルで退治しながら進んでいたら、関東エリアの最西端まで来てしまった。

 次のエリアが実装されればどこかに道が出来るんだろうけれど、今は高い崖になっていて先には進めないようになっている。

 その崖の縁に立って下をのぞき込んでみたら……やっぱり高い。

 別に高所恐怖症ってわけじゃない……と思うんだけれど、ちょっと怖くなる高さがある。

 しかも暗くしてあって、あまりよく見えない。

 わたしがそこに立ったのは偶然だったんだけれど、崖下に何かが見えたような気がした。

 少しでもよく見ようと思って目を眇めてみたり、その場に屈んでみたりしていたらバランスを崩したみたい。

 どうして 「みたい」 なのかといえば、いきなりグラリときて視界の角度が変わったと思ったら、数秒後には全身を衝撃が襲ったから。

 つまり自分ではよくわからなかったから 「みたい」 なの。


「……い……たぁ……」

『なに、グレイさん?』

『どうした、女王』

『グレイさん、またエッチなことでもされたかー?』


 ……最後のはマメね。

 無意識のうちに悲鳴を上げていたみたいで、それを聞いたメンバーたちが気遣ってくれる声がする。

 誰もいないこんな僻地で誰がなにをするっていうのよ、マメってば! ……って思ったんだけれど、結構みっともない姿をしていたっていうね。

 ゴロゴロと転がる大きな岩のような物の隙間にはまっていたわたしは、ゆっくりとその隙間から頭を引き抜いて上体を起こす。

 普通、こういう時ってお尻から落ちたりすると思うんだけれど、わたしは頭から落ちたみたい。

 落ちたというか、頭から岩の隙間に顔を突っ込んじゃって……ズボンを穿いててよかった。

 穿いていなければパンツかお尻を全開にするところ。

 うん、でもこの落ち方は十分に恥ずかしいんだけれどね。

 ほんと、誰も見ていなくてよかった。

 岩の隙間から頭を引き抜いたわたしはその場に座り込み、周囲を見回して状況を確認する。

 わたしのいる場所は両側を切り立った崖に囲まれた溝みたいな状態で、この溝はずいぶん長く続いているみたい。

 緩やかに曲がっていて、百メートルか二百メートルくらいしか先は見えない。

 両側の崖はどちらも高く切り立っていて、境界側は上の地面がせり出すようになっているからたぶん上れない。

 ま、上れても先には行けないんだろうけれど。


『あの、グレイさん?』


 いつものように申し訳なさそうにトール君の声が聞こえてくる。

 周囲を観察していて返事をするのを忘れていたから心配したんだと思う。


「大丈夫みたい」


 うん、とりあえず大丈夫みたいなんだけれど、ここって……自分がさっきまでいたと思える場所を探して見上げてみる。

 上から見た時も結構な高さがあると思ったけれど、下から見上げてもかなりの高さがある。


 これ、上らないとダメ?


 ゆっくりと立ち上がったわたしは無意識のうちに服の埃を払ってしまい、その必要がないことを思い出してちょっと恥ずかしくなる。

 だってここはゲームだしね。

 落ちる途中で手放してしまった杖を見つけると、ゴロゴロと転がる大岩の上をゆっくりと歩いてみる。

 怪我とかは当然無いんだけれど、どうやったら上に戻れるかを考えて、途方に暮れちゃったのよね。

 とりあえずこの溝を道なりに進んでみたら、どこかに上れるような場所でもないかと思ったんだけれど……なに、これ?

 崖下に穴が開いてる。

 さっき上から見た時、何かが見えたような気がしたのはこれだったのかしら?

 位置的に見えなくもない場所に、大きな横穴がぽっかりと口を開けていたの。


「ここ、なに?」

『グレイさん、どこにいるの?』


 心配したカニやんが訊いてくるんだけれど、どこっていわれてもねぇ?

 わたしは自動表示を切っているからログイン情報はもちろん、ギルドメンバーにもフレンド登録をしているプレイヤーにもわたしの居場所はわからない。

 マップ上に位置情報が出ないから。


「んー……エリア境界?」


 ほかに言い様がなくて、それでも一応考えて答えたら、カニやんではなくクロエが返してきた。


『あの崖になってるところ?』

「その崖から落ちちゃったんだけど、これ、どこから上ればいい?」


 あ、横穴のことを先に報告するべきだったかしら?


『なんでそんなところに落ちるの?』

『グレイさんだからね。

 でもそこ、上れたっけ?』


 ちょっとカニやん、凄く不安になるようなことを言わないでくれる?

 まさかわたし、ずっとここにいなきゃいけないの?


『最悪、一度ログアウトすればいいでしょ?』

「うん、わかった。

 でも横穴があるからちょっと入ってみる」

『グレイさん、また?』

『あ! ちょっとグレイさん!』


 クロエとカニやんが言いたかったのは、たぶんあれね?

 ほら、前にわたし、一人でスザクに挑戦してクリアしちゃったでしょ?

 たぶんその時のことを思い出したんだと思う。

 でもこんなところにダンジョンなんてないと思うんだけれど……うん、ないと思って横穴に近づいたら、暗い穴の両側に、まるで松明のように火が灯る。

 誘導灯みたいに、入り口から奥に向かって順々に。

 でもこれって、間違いないわよね。


「新しいダンジョンを見つけたかも」

『やっぱり……』


 クロエとカニやんの声が被る。

 とりあえず探索してみるってことで、カニやんとクロエの止める声を聞こえないふりをして横穴を進んでみる。

 その道中もずっとカニやんやクロエだけでなく、柴さんやムーさんにの~りんやベリンダまでが色々と言ってわたしを止めようとしていたんだけれど、残念ながらわたしはダンジョン入り口に到着。

 今、目の前に立ち塞がっている大きな両開きの扉が入り口だと思う。

 これ、プレイヤーが通るにしては大きすぎる扉よね。

 それこそ怪獣でも通りそうな大きさ。

 慎重に扉を開けようと思ったら、触れるか触れないかの距離で扉が勝手に開かれる。


 入れってこと?


 これはもう間違いないわよね。

 杖を両手に強く握りしめたわたしは招かれるままにゆっくりと扉を入……った瞬間に視界が真っ赤に染まる。

 思わず息を呑んだ次の瞬間、常時発動(パッシブ)スキル 【愚者の籠】 が作動。

 それで何が起こったのかがわかる。

 つまり今、何かしらの魔法スキルがわたしを襲ったってことが。

 視界が真っ赤に染まったことから推測して、たぶん火属性。

 けれどわたしに落ち着いて考える暇を与えまいと、背後で両開きの大扉が勢いよく閉じられ、その音が、天井の高いひらけたこの空間一杯に響き渡る。

 もちろんこれも演出だってわかっているけれど、いきなり魔法で攻撃されたところに大音響と続いてわたしの心臓は早鐘状態。

 お……落ち着け、わたし……。

 両手に握りしめた杖を構え、わたしを手荒く歓迎してくれたものを見る。


「……火の巨人?」


 それ以外に形容しがたい巨人は全身に焔をまとい、黒々とした目をこちらに向けている。

 白目のない真っ黒な目で、間違いなくわたしを見ているの。

 とりあえずさっきのお礼をしてみたんだけれど……


「起動……焔獄」


 同じ後衛職とはいえ銃士(ガンナー)と違い魔法使いは中距離攻撃。

 遠すぎては攻撃が届かないからそこそこの距離まで近づかなくてはならないんだけれど、わたしと巨人のあいだになにもないのが凄く心許ない。

 しかも予感があったとはいえ、案の定、火の巨人はわたしの放った焔獄を、その身にオーラのようにまとった焔で弾き返してきた。

 魔法反射だ。

 すぐさま常時発動(パッシブ)スキル 【愚者の籠】 が発動。

 弾き返された焔獄を吸収し、スキルの発動で消費したMPの三分の二を取り戻す。

 クロウやノギさん、ノーキーさんと違って、さすがにわたしのHPやVITじゃ焔獄の直撃はヤバいのよね。

 それこそランカーの剣士(アタッカー)たちはHPとVITの高さ、それにPS(プレイヤースキル)でたいがいの魔法攻撃を凌ぐけれど、一般的な剣士(アタッカー)は魔法使い対策に反射スキルを所持しているプレイヤーも少なくない。

 吸収ではなく反射を所持しているのは、取得条件の都合。

 吸収型(タイプ)の常時発動(パッシブ)スキルだと、たいがいINTを一定以上持っていることが取得条件だから剣士(アタッカー)には無理なのよ。

 わたしと同じ魔法使いには取得可能だけれど、取得方法が厳しいっていうね。

 そんなわけで対魔法使いに用(もち)いられる多くは魔法反射。

 で、わたしの場合は大技を使うので、反射されれば自分が危なくなる。

 【愚者の籠】 を取得したのはもちろん反射を用心してのことだけれど、スキル発動に使用されたMPの三分の二を自分のMPに還元出来るのは結構な魅力よね。

 それこそファイアーボール程度なら、雀の涙だけれど。


alert 火焔魔人スルト / 種族・幻獣


 うん、物凄い手荒い歓迎を受けて見る暇もなかったけれど、ちゃんとアラートは出ていたのね。

 こんなところにダンジョンがあるなんて聞いたこともなかったけれど、こんな幻獣も初めて見るし、名前も初めて見る。

 まぁそれはいいんだけれど、でもこれ、どうやって攻略したらいいのかしら?

 対魔法戦で魔法反射と魔法吸収とか、これ、永遠に続くんじゃないの?

 冗談じゃないわよ、消耗戦なんて。

 面白くないじゃない。

 戦うんなら勝敗はつけなきゃ面白くないし、やっぱり勝たなきゃね。


 絶対勝つ


 たぶんこの巨人は火属性。

 さっきから仕掛けてくる攻撃はファイアーボールの巨大版っぽいんだけれど、火力は半端ない。

 撃ってくる数も半端ないし、発動の間隔も速い。

 お陰様でMPがすっかり回復しちゃったわよ。


「起動……ウォータースライサー」


 あの湖で取得した水属性スキルウォータースライサー。

 簡単に言えばスパイラルウィンドの水版ね。

 火属性には水属性って思ったんだけれど、少しだけビンゴ。

 でも思ったほどスルトのHPゲージは減らない。

 【幻獣】 はどれもHPの高さにだけは定評があるのよね、腹の立つことに。

 反射されないことがわかっただけでもよしとしましょう。


「起動……スパイラルウィンド」


 う~ん、効果があるのは水属性だけか。

 物は試しとモルゲンステイン、避雷針と試してみたけれど見事に無反応!

 む、無効ってことよね?

 これはちょっとヤバい。

 急いでインベントリからMPポーションを取り出し、瓶を砕く。

 もう一本。

 MP回復用の常時発動(パッシブ)スキル 【水面の夢】 も頑張ってくれているけれど、全然回復が追いつかない。


「起動……氷雪乱舞」


 結局水属性か氷属性ってことになるんだけれど、わたし、カニやんと違って火属性タイプだからあまり持ってないのよ、水とか氷系の魔法って。

 つまりこれ、久々に与ダメと被ダメの我慢大会?

 幸いにして巨人は火属性反射ってだけで、MPの吸収もHPの回復もない。

 もちろん今のところだけれど、これでMPやHPを回復されたら我慢大会どころじゃないわ。


『ねぇグレイさん、さっきから詠唱が聞こえてくるんだけど、ほんとに戦闘中?』

「本当に戦闘中」

『マジかよ』


 疑うようなクロエの声に答えたら、カニやんがうんざりしてる。

 なんでよ、もう。

 今忙しいんだから少し静かにしてて頂戴。


『水属性だよな、その詠唱』

「うん、相手が火属性の巨人で魔法反射。

 水か氷しか効かない」

『グレイさん、そっち系ってそんなに持ってたっけ?』

「ないから苦戦中」

『いや、どうせ火力で押し切るんだろうけれど』

「それが押し切れないから苦戦してるの。

 火属性反射ってだけで、水と氷以外は全く効果ないんだもん」

『それ、面白そう』

「崖から落ちたらいいわよ」


 そうね、この巨人は結構カニやんには合ってる敵かも。

 火力勝負なら絶対負けないんだけれど……うん? 今なにか閃いたかも。

 えーっと……ひょっとしてこの巨人……ひょっとしたらと考えたわたしは、握った杖を大鎌に変化させた。


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