47 ギルドマスターは森の中で戦います
pv&ブクマ&評価、ありがとうございます。
第二回公式イベント、プレイヤー同士によるバトルロワイヤルのルールは簡単。
MP及び弾丸は無制限。
装備の損耗は無し。
ここまでは前回イベントと一緒なんだけど、今回は敵キャラの存在しない百%の対人戦。
一人プレイヤーを倒せば1P + 生存時間(分) ÷ 5(端数切り捨て) がそのプレイヤーの最終ポイント。
つまり早く落ちてもそれまでに多くポイントを稼いでいれば、生存時間が長くてもポイントを稼げていないプレイヤーよりも順位が上になる可能性は多いにある。
んーっと……これは10位以内に入ろうと思ったら、生存点を狙うよりプレイヤーを狙うほうが確実よね?
運営の音声インフォメーションによるカウントダウン後、プレイヤーたちが転送されたイベントエリアは森の中。
ウィンドウで見られるマップはずいぶんな広さがあり、湖や山、岩場、それらに混じって朽ちた文明の廃墟が埋もれている……そんな感じ。
てっきり第一回イベントみたいな都市部の廃墟を予想してたから、これはちょっと想定外。
転送直後、挙動不審なくらい慌ただしく周囲を見回して状況を確認したのは、もちろん廃ビルの屋上から銃士に狙われちゃたまらないって思ったからなんだけど……うーん、この状況だとそれはないかな?
わたしが転送されたのは森の中だったんだけど、茂る木々を使って上手く射線を切れば銃士の長距離射撃は防げそう。
クロエやセブン君みたいにピンポイントで狙ってくる銃士は、気にしても仕方ないわ。
遭遇しないことを祈るのみ……って感じ?
だって防ぎようがないんだもの。
剣士は……と思っているあいだに一人、正面から挑みかかってきた。
「覚悟!」
しません。
正々堂々の掛け声はいいんだけれど、そんないきなり覚悟を決めろといわれてもねぇ……っていうか、わたし、上位10位を目指してるんでここで落ちるつもりはないの。
だってまだ始まって五分も経ってないのよ。
ここで落ちるとか……あり得ないでしょ?
もちろん挑まれれば受けて立つけれど、容赦だってしないわよ。
そっちも覚悟を決めてね。
「起動……焔獄」
横から薙いでくる片手剣を杖で受け止めながら、金属同士がぶつかり合う甲高い音に紛れて詠唱をする。
装備を見れば職がわかるように、だいたいのレベルもわかる。
今回のイベントは参加規定がレベル20以上だから、この剣士も20以上だとは思うけれど、トール君と同じギリギリ20って感じかな?
装備にも、まだまだ初心者感が残っている感じ。
ひょっとしたらギルドに所属していないソロプレイヤーって可能性もある。
ノギさんのように徹底したソリストならともかく、ギルドに所属し損ねているだけのソロプレイヤーたちは圧倒的に情報が少ないから、イベントだけでなく装備などの点でも出遅れちゃうのよね。
今、焔獄であっさりと落ちた剣士もそうだとは限らないけれど、レベル三〇台が中堅層となりつつある現状と二極化が見える気がする。
「アールグレイ、覚悟!」
「呼び捨てにしないでよ。
起動……焔獄」
次に遭遇したのも剣士だったんだけれど、装備を見た感じ初心者……ってことはないか。
今回のイベントには参加にレベル制限があるからね。
片手剣を装備した結構厳つい体格の剣士が斬りかかってきたんだけど、わたしのことを知ってるってことは、そこそこプレイしてると思う。
初心者っぽい装備は、相手を油断させるためのブラフかなんか?
でも焔獄の一撃で溶けちゃうとか、ちょっと柔らかくない?
わざと初心者っぽい装備にして相手を油断させようっていうのなら、せめて装備に細工くらいしなきゃ。
『グレイさん、モテモテだね』
インカムからクロエの声がする。
ウィンドウで見られるマップには自分の位置情報しか表示されないから、クロエがどこにいるかはさっぱりわからないんだけど、いつものように声が笑ってる。
インカムが通じてるってことは間違いなくイベントエリアにいるから、まだ落ちてないわね。
『なんか、剣士多いよな。
起動………………』
わたしもカニやんに同意。
たまたま連続して剣士にばかり当たったのかと思ったけれど、カニやんもそうだっていうから、やっぱり剣士が多いのかな。
一番無双感もあるし、育成しやすいもんね。
ただ人数の多い人気職となると、強くならないとなかなか無双は出来ないんだけどね。
とりあえずカニやん、詠唱に忙しいならそっちに集中してくれる?
まだまだ始まって三〇分も経っていないし、落ちるには早すぎるからね。
それでもようやく三〇分が経とうかっていう頃、わたしが三人ほど……たぶん剣士二人と魔法使い一人をまとめて業火で溶かしたところで、煩いのに見つかっちゃった。
まぁ参加してるとは思ったけれど……
「死ね、アールグレイ!」
「嫌よ」
少なくともあんたには落とさせてあげない。
カスタマイズされたビキニアーマーに、少し持て余し気味の両手剣を振り上げて木の枝から飛び降りてくるローズ。
装備の損耗はないから、わたしも破損を気にすることなく杖で受け流す。
さすがにね、ここは対人戦エリアだからまともには受けないの。
だってわたしにはSTRがないんだもの、力負けするのは目に見えてるじゃない。
そんでもってローズの一撃目をかわしたら、次はわたしのターンよね?
「起動……焔獄」
「貴様、卑怯だぞ!
正々堂々とぉぉぉぉ……!」
文句の雄叫びを残しながら、焔獄の焔の中にローズが落ちる。
なにを言いたいかはわかるけれど、最後まで言わせるわけないでしょう。
馬鹿じゃないのよ、この脳筋!
だいたいわたしは魔法使いなんだから、魔法スキルでお相手するのが正々堂々の勝負でしょうが。
どこが卑怯?
意味分かんないこと言わないでくれる?
『グレイさん、焔獄連発だね』
『居場所わかんねーのが却って怖いわー』
うん、場所がわかったら即行溶かしに行ってあげるんだけどね、ムーさん。
複数で来られたら業火を使うけど、単体相手なら焔獄。
しばらくはこれで凌ぎましょう。
ちょっと攻撃リズムを掴めたかなって思っていたら、次々に上がるインフォメーションの中にギルドメンバーの名前が出た。
information の~りん が撃破されました
……う、ん? これは思ったより早かったんだけれど、予想外でもあったかな。
ココちゃんより先にの~りんが落ちちゃうなんて。
ちょうど手が空いたから、ウィンドウでイベントの残り時間を確認してみる。
残り時間 102分
あら? 体感で三〇分くらい経ったと思ってたんだけど、実際には二〇分程度とか。
そのわりにインフォメーションの上がるペースが速いのは、まだまだ生存プレイヤーの人数が多くて遭遇率が高いからってことか。
生存人数が減ればそれだけ遭遇率が減って、たぶんペースも落ちると思う。
つまりインフォメーションの上がる間隔は、生存プレイヤー数の目安ってことね。
インフォメーションが上がって数秒後に、生存点を加算されたポイントで暫定順位が出る。
の~りんは数人のプレイヤーを落として、生存時間は18分くらい?
18分くらいを5で割って、端数を切り捨てたら3点。
合計で一桁ってことは……うん、かなり厳しい暫定順位が出た。
前に聞いたの~りんのレベルは25だったから、今はもう少し上がっているはず。
だとしたら……やっぱり厳しいよね。
『の~りん、落ちたな』
カニやんがなにを思って呟いたのかはわからない。
わたしも気のない声で 「そうね」 とだけ返しておいたんだけど、クロエってば……
『別にいいんじゃない?
個人戦だし』
……そうね。
妙にすとんと心に落ちたの、クロエの言葉が。
だからわたしは納得出来たんだけれど、カニやんも少し笑うような声で 『そうだな』 だって。
なんだか二人とも余裕ねぇ。
特にクロエなんて。
『余裕なわけないでしょ。
魔法使いより忙しく逃げ回ってるよ』
『撃つたびに移動だからな、そりゃ忙しいわ。
起動………………』
言ってるほどカニやんも暇じゃなさそうね。
でももっと忙しい人がいたみたい。
information ベリンダ が撃破されました
剣士に比べて剣が軽い短剣使いは不利だと思っていたから、これは結構な健闘じゃない?
彼女がイベントに参加を決めたって聞いた時、ちょっと短剣使いについて話したの。
その時ベリンダは、やっぱり立ち位置や役割に迷っていた感じだったんだけど、前のイベントでちょっと何かが掴めたみたいって楽しそうに話してた。
試してみたいことがあるって今回のイベント参加に意気込んでたんだけど、こんなに早く落ちちゃって、その試してみたいことっていうのは試せたのかしら?
イベントが終わったらベリンダの話を聞いてみよっと。
なんとなく面白い話が聞けそうな気がするのよね。
気が強い彼女は、この不利な状況でも積極的な攻めだったみたいで一〇人以上のプレイヤーを落とし、そこそこの暫定順位。
ベリンダらしいじゃない。
わたしも負けてられないわね……って意気込んだところで、今にも死にそうな声でココちゃんが呼びかけてきた。
『グレイさん、助けてください』
ココちゃん、どうしたの? ……いや、ま、なんとなく状況は想像がつくんだけどね。
想像はついてもどうしようもないのがこのイベントなんだけど、かなり状況は切羽詰まってる感じ。
『銃士に狙われてて……あの、すぐに来て下さい』
『行けるわけないでしょ』
わたしが何かを言う前にクロエが、かなり強い口調で割って入ってくる。
う~ん、この声の感じはちょっと怒ってるかな?
『これ、個人戦なんだから。
グレイさんだって戦闘中だよ』
『でもの~りんさんが落ちちゃって、わたし一人じゃ……』
の~りんとココちゃんの二人が、パーティーチャットや直通会話が使えないから仕方なかったんだろうけれど、ギルドチャットの隅っこでコソコソ会話していたのは知っていた。
たぶんみんなも気づいていたと思う……っていうか、気づかれていないと思っていたのは本人たちだけだったんじゃない?
他の人たちの会話の影で、本当にコソコソだったから聞こえない部分もあったし、別に聞く必要もないと思って気にもしていなかったんだけど、の~りんとマップで待ち合わせていたみたい。
それぞれのウィンドウには自分の位置情報しか出ないけれど、表示されるマップは同じだから場所を決めて。
の~りんがココちゃんを迎えに行くってことになっていたらしいんだけれど……合流するまでのあいだココちゃんは隠れて待っていたらしいんだけれど、の~りんが落ちちゃったからね。
そのあともココちゃんは隠れていたらしいんだけれど……元々の~りんとそう打ち合わせていたみたい。
プレイヤーを一人も落とせなくても、ゲーム終了時間まで生き延びれば生存点が入るからって。
なに、それ?
ちょっとモヤッとくる戦略なんだけど、今回のイベントが個人戦である以上、戦略も個々の判断ってこと?
うん、まぁそれもありなんだろうけれど、どうしてもわたしはモヤッとくるのよね。
えーっとゲームは二時間だから 120分 ÷ 5 = 24p。
あら、一桁で落ちたの~りんより上ね。
余計モヤる……
ちょっと、なによこの図式?
なんかおかしくない?
迎えに行ったの~りんが、その途中で先に落ちちゃってポイント一桁なのに、なにもせずに待っていたココちゃんがギリギリポイント二桁取得とかって……なに、これ?
ちょっと不条理じゃない?
の~りんと相談して決めたこと……っていうか、の~りん自身が納得した作戦だったとしても、これを素直に受け入れちゃうココちゃんってどうなのよ?
モヤモヤにやるせない思いのわたしが会話に参加しないのは、ちょっと戦闘中だったから。
即席なのか、それともギルドメンバーなのか、初見のわたしにはわからないんだけど、魔法使い五人組の団体様と遭遇しちゃって。
固まっててくれたら業火一撃で落とせるんだけど、わたしの顔って結構知られてるの?
人の顔を見た瞬間 「灰色の魔女!」 とか叫んじゃって、散開されちゃったからまとめて溶かせなくなっちゃったのよ。
やってくれるじゃない
魔法使い対策としては初歩中の初歩だけど、でも、ちょっと甘いかな?
散開するなら各個撃破するまで。
結局魔法使いは近寄られちゃ負けなのよ。
そんでもってわたしも魔法使いなんだから、初歩的な魔法使い対策はしてあるんだから。
「ちょっと待って。
起動……業火」
『うわ、また大技ぶちかましてる』
ちょっとカニやん暇なの?
せっかく合いの手を入れてもらって悪いけど、今は詠唱に忙しいのよ。
相手は後回しにさせてもらうわ。
せっかく散開して範囲魔法対策を練ったところ悪いけれど、広がりが甘くて業火の一撃で二人を溶かす。
もう少し離れなきゃ。
残り三人
もちろん反撃もあるんだけれど、わたしは魔力吸収。
通常の魔法スキルは一切通じない。
軽減対策はしてあるとはいえ、神経系と毒系は無効に出来ないけどね。
『の~りんのことなんて関係ないよ。
それともの~りんが、自分が落ちたら別の誰かに助けてもらえって言ったの?』
『でも、わたし一人じゃ……』
『わかってたことじゃん。
対人戦に出るなら、それなりに火力がなきゃ無理だって』
「スパーク」
威力はたいしたことないっていうか、魔力吸収のわたしに通常スキルは通じないんだけど、視覚効果が視界の邪魔になる。
だから、たぶんわざとやっているんだと思う。
一人がわたしの注意を引いて、残りの二人が物理攻撃に、つまり背後に回り込んで杖で殴りかかろうとしてきたの。
だから小うるさいおとり役の前に大きく踏み込んでノックバックさせると、振り返ってもう一人を同じくノックバックさせる。
本当にノックバックさせるくらいしか威力のないスキル「スパーク」は、再起動準備がないから連発出来るのが唯一の利点。
こういう時は最大限に活用しなくちゃね。
「起動……焔獄」
わたしにSTRはないけれど相手も同じ魔法使い、STRがないのも同じ。
残った一人が振り下ろす杖を、杖で受けつつ詠唱する。
焔の中で完全に溶けるのを待たずに振り返ると、ノックバックした二人が体勢を立て直してわたしを見ている。
次の作戦でも相談するつもりだったの?
並んで立ってわたしを見ているから、まとめて溶かしてあげる。
ダメじゃない、範囲魔法の効果範囲に揃ったりしちゃ……
「起動……業火」
『グレイさんにも言われてたでしょ?
個人戦なんだから、自力で何とかしなよ』
「お待たせ、なんだっけ?」
information ココちゃん が撃破されました
あ~……間に合わなかったか。