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114 ギルドマスターは速さに挑みます

pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!!


特大遅刻ですが、ちょっと理由が・・・(汗

 そういえばバロームさんって、他にもなにか言ってなかったっけ?

 えーっと……確かわたしの周りにいるむっさいオッサンたちだっけ?

 あ、違うわ、むっさいオッサン連中だったわ……うん、まぁ細かいところはどうでもいいんだけれど、あの連中に代わってわたしを守るって……なにか違うと思う。

 別に守ってもらってるわけじゃないし、たまたまわたしの背が低いから囲まれているように見えるのかもしれないけれど……ああ、この人、結局わたしが気にしていることをズケズケと!

 バロームさんって、わたしに憧れてるとか言いながら実は凄くディスってないっ?

 しかもそのむっさいオッサン連中にクロウも含んでる?

 いやいやいや、クロウはむさくないし格好いいです。

 みんなだって……ちょっと脳筋が混じってるけれど 【素敵なお茶会(うち)】 の男性プレイヤーはみんな格好いいです!

 少なくとも他のギルドの人たちに 「面食い」 とか陰口たたかれる程度には、格好いいレベルってことでしょ?

 うん、別にわたし、面食いじゃないけどね。

 今のメンバーだって集まったのは偶然だしね。

 ちょっと女の子が少なくて淋しいんだけれど、ユーザー全体を見ればそもそも女性プレイヤーは少ないからそれは仕方がないんだけれど……あ! じゃあバロームさん…………い、いやいやいや、一瞬悪魔な考えが頭をよぎったんだけれど、絶対ダメ。

 一瞬バロームさんを勧誘しかけたのよ、【素敵なお茶会(うちのギルド)】 に。

 【素敵なお茶会(うちのギルド)】 に入らないかって言い掛けたんだけれど、絶対にダメよ。

 だって魔法使いなのに全身真っ赤な装備で、しかもローブの下にビキニアーマーとか……ありえない……。

 それこそ 【特許庁】 ならあり得るセンスなんだろうけれど、【素敵なお茶会(うちのギルド)】 じゃ絶対にあり得ないから。

 だってどう見たって下着じゃない、それ!

 あの脳筋オッサンコンビが見たら鼻の下を伸ばしそうな感じ。

 前に見たやに下がった顔を思い出して、ちょっと腹が立ってきたわ。

 バロームさんの魔法剣士っていう発想はユニークでいいと思うんだけれど、その着想をわたしから得るのはちょっとおかしくない?

 わたしはそんなの全然目指してないし、実際に素のステータスだけを見ればSTRなんて1ポイントも振ってないんだから。

 雀の涙ほどのSTRやVITは、装備による補正や(スキル)による底上げだし。

 でも魔法剣士……そういえば恭平さんがそんな感じよね。

 ただステータスポイントを振り直してINTを失っちゃったから、せっかく取得した威力のある(スキル)はほとんど使えなくなっちゃったけれど、このあいだの第四回イベントの時、結構いい感じで魔法も使えていたと思う。

 やっぱりINTがないから威力もないけれど、威力がないなりの使い方でベリンダを助けたり、発動でフェイントをとって攻撃タイミングを作ったり。

 本当に頭のいい人よね、恭平さんって。

 わたしじゃ絶対に思いつかないわ。

 恭平さんの場合、剣士(アタッカー)転職(クラスチェンジ)してるから剣が主な攻撃手段になるけれど、バロームさんは魔法を主体(メイン)にするのなら……いやいやいや、ダメ。

 彼女がそれを望んでいるかどうかもわからないし、そもそも 【特許庁(よそのギルド)】 に所属している。

 無所属のプレイヤーならともかく、ギルドに所属しているプレイヤーを勧誘するなんてマナー違反じゃない。

 しかも同じ 【特許庁】 に所属する不破さんの見ている前でなんて、非常識もいいところ。

 主催者(マスター)のわたしがそんなことしていいわけがない。

 でも不破さんのことだから、ちょっとわたしがなにを考えたかを気づいたかも。

 もちろん恭平さんのことは知らないから魔法剣士の発想には気づかないだろうけれど、バロームさんの、わたしを守るって話を聞いて、わたしが 【素敵なお茶会(ギルド)】 に勧誘しかけたってことぐらいは気づいたかもしれない。

 だって守るなら同じギルドじゃないと出来ないもの。

 顔色をうかがうようにチラリと不破さんを見たら、やっぱりニコリと笑うのよ。

 よくないことを考えてる人みたいな、綺麗だけれど、ちょっと怪しい笑み。

 で、でも、バロームさんもクロウを前に 「むっさいオッサン連中」 って言ってるし、失礼はお互い様ってことで、トール君も回復したからトチョウに行きましょう!

 そういえばここにいたってことは不破さんたちもトチョウ?

 それとももう終わって帰るところだったの?


「これからです。

 なぜかバロームのクエストに付き合う羽目になりまして」


 どうやらそこは不破さんも不本意らしい。

 まぁ誰の命令かは想像がつくけどね。


「一応自分が行けばって言い返してみたんですけれど、あの人、あれですから」


 蝶々夫人にまともな火力はないもんね、無理だわ。

 バロームさんのレベルがいくつかは知らないけれど、蝶々夫人だけが生き残ってクエスト失敗ってところかな。

 で、不破さんにお鉢が回ってきたと。


「偶然その場に居合わせてしまって」


 その場っていうのは、バロームさんがクエストのことを蝶々夫人に相談しているところ。

 そこにいたってことは、不破さん、暇だったんでしょ?

 だったらクエストくらい付き合ってあげてもいいじゃない。

 そんな嫌そうな顔しなくても。


「生憎と暇じゃありませんよ。

 明日からうちのクズがお休みになるんで、対戦しようと思っていたのに」


 不破さんはさも残念そうに肩を落としてみせる。

 とりあえずわたしたちは一緒にトチョウに向かって歩き出したんだけれど……そういえばノーキーさんは引っ掛かっちゃったんだっけ、例のアカウント停止処分に。

 ローズも。


「まぁあれだけ斬りまくれば、停止処分も妥当でしょう」


 やっぱりそうなのね、予想通り過ぎてノーキーさんらしいわ。


「【素敵なお茶会(おちゃかい)】 は?」


 幸いにしてうちは誰も引っ掛かってないわ、たぶん。

 ムーさんだけはお休み中だから調べようがないんだけれど、一緒にいたカニやんや恭平さん、JBが対象外っていうから大丈夫だと思う。


「さすがに主催者(マスター)の指導が行き届いていますね」


 全然。

 それどころか普段、わたしの意見は無視されてますけど?


「そうなんですか?」


 そういってちょっと笑う不破さんは、なぜかわたしのすぐ後ろを来るクロウを見る。

 なに? 直通会話でもしてるの、この二人?

 そんな風には見えなかったんだけれど……あ、トチョウが見えてきた。

 夜空にそびえ立つ二本の尖塔はあの東京都庁のシルエット。

 まぁだいぶん壊れていて、尖塔も片方は先端が折れちゃっていてないんだけどね。


「よろしければご一緒しませんか?」


 もちろんパーティ内に二人クエスト受諾者がいても全然問題はない。

 フチョウじゃトール君とぽぽが一緒に受けていたしね。

 だからトチョウも問題はないんだけれど、問題なのはわたしじゃ決められないってこと。


「どうする、トール君?」


 わたしは振り返り、一番後ろから来ていたトール君に尋ねてみる。

 そういえば不破さんってば、バロームさんのクエストなのに勝手に決めちゃっていいの?

 一応不破さんを見て、バロームさんを見るんだけれど、不破さんはクロウと何か話していて……たぶん地下闘技場のことだと思うんだけれど、バロームさんは真剣な顔をして自分のウィンドウを見ている。

 これはわたしの直感みたいなものなんだけれど、不破さんはトチョウくらい余裕だろうけれど、バロームさんが落ちてもそのまま置いていきそうな感じがする。

 調子に乗って全然周囲の様子に気づかないノーキーさんと違って、不破さんは、気づいていても知らん顔をして置いていきそうな……ちょっとSの気配を感じるのよ。

 冷たいっていうか、冷徹っていうか……そんな感じが凄くする。

 実際……わたしたちはトール君の了承を以て一緒にパーティを組むことになったんだけれど、出発前に一つ、アドバイスをしておいたの。

 で、それを見たバロームさんが不破さんに訊いたのよ。


「わたしにもなにか言っておくことはありますか?」

「何かって?」

「例えばアドバイスとか」

「特になにも……強いて言えば、一回でクリアしろ、かな?

 二回も三回もつきあえないからそのつもりで」


 ……だって。

 なかなかに冷たいわね。

 冷たいっていうか、自己中っていうか……そりゃ蝶々夫人に言われて嫌々の付き合いなんだろうけれど、態度が露骨すぎる。

 この感じはちょっとクロエに似ているかも。

 うん、そうね、クロエに似てるわ。

 自分に正直っていえば聞こえもいいけれど、実際は自己中心。

 でもクロエは死亡状態の仲間を放置しないけれど、不破さんはそのへんも徹底していそうな感じ。

 地下闘技場での対戦方法といい、矜持(プライド)も高そうよね。

 とりあえず遅くなるから出発しましょうってことになったんだけれど、トール君、わたしが言ったこと、ちゃんと覚えてるわよね?

 とりあえずそれを覚えていてくれないと、それこそ中に一歩入った瞬間に首が飛んじゃうから。

 主賓となるトール君とバロームさんを先頭に、トチョウに足を踏み入れたわたしたちを早速敵が襲ってくるんだけれど、鋭い剣戟だけを響かせてその姿を一瞬で隠す。

 最初の一撃は日頃の行いがよろしくないのか、不破さん。

 危なげもなく屍鬼で受け、斬り返す隙もなく敵の姿は薄闇の中に消える。

 薄暗いってことももちろんあるんだけれど、昼間に攻略してもこの内部の暗さは変わらない。

 この薄闇はプレイヤーの視界を妨げるとともに、敵の姿をくらませる保護色でもある。

 周囲を警戒しながら進もうとするトール君……の後ろ!

 大きく踏み込んだわたしは、よりによってプレイヤーの首を狙ってくる敵を背後から急襲。

 両手に握った杖を、力一杯その後頭部に打ち下ろす。

 卒塔婆形に掛かる幾つもの金環がぶつかり合って音を立てる中、後頭部を打たれた敵が床に転がり初めてその姿をトール君やバロームさんに見せる。

 顔を隠す頭巾まで黒一色の忍び装束をまとった敵は、床で一回転してすぐさま立ち上がる。

 そして低い姿勢から飛び上がろうとしたところを、クロウに両断される。


「あの、スピードダンジョンって、こういう意味ですかっ?」


 まぁ驚くわよね、わたしも初見は驚いたもの。

 スピードダンジョン、それがわたしがトール君にしたアドバイス。

 このトチョウは数あるダンジョンの中でもスピード重視のダンジョンで、とにかく展開が早い。

 そして敵の動きも速い。

 なにせ忍者なもんで……。


「あいつらって上から来るんですか?」


 いいながらトール君は高い天井を見上げるんだけれど、この薄闇の中でその姿を捉えることは出来ない。

 だから保護色なんだって。

 この薄暗さの中で黒装束なんて、いかにもって感じじゃない。

 さ、行くわよ!

 いつまでも立ち止まっていたら、いい的になる……なんて言っている間に手裏剣が飛んでくる。

 今度はわたしが狙われたんだけれど、クロウが大剣・砂鉄を盾代わりにして庇ってくれる。

 ようやく状況を理解したトール君とバロームさんが走り出すと、そのあとを追うようにわたしたちも走り出す。

 襲ってくる忍者には種類と出現方法がいくつかあって、剣で斬りかかってくる忍者、手裏剣を投げてくる忍者、そして火を噴く忍者。

 忍法火遁の術って感じで、あちらこちらから火を噴いてくる。

 手裏剣を投げてくる忍者と同じく遠距離攻撃だから、この二種類の忍者が増えるとちょっと厄介ね。

 最初、トール君は天井ばかりを気にして走っていたんだけれど、忍者は天井裏にだけいるものじゃない。

 そもそも最初の玄関ホールはだだっ広くて壁が遠すぎただけで、途中からは通路の壁なんかからどんでん返しで現われる。

 だから天井ばかりを気にしていたら、横から突き刺されるわよ。

 わたしの経験では、壁からどんでん返しで出てくる忍者はたいがい火遁の術。

 火を噴くだけ噴いて、そのまままたどんでん返しで消えるの。

 このパターンが多いような気がする。

 普通に通路を走ってくる忍者もいるし、物陰から飛び出してきたり……あ、そろそろ厄介なのが来る。

 この窓のある通路は外からなけなしの明かりが入って、足下に影が落ちる。

 その影から……来た!


「うわぁぁぁ!」


 自分の影からのっそりと抜け出してくる忍者に、そのホラー感に驚いてトール君が悲鳴を上げる。

 わたしはその声に驚いたわ。


「トール君!」

「グレイ、下がれ!」


 トール君のフォローに入ろうとするわたしをクロウが止める。

 直後、わたしの頭上から降ってきた忍者を斬り捨てるクロウ。

 そのクロウの影からも忍者がのっそりと抜け出てくる。


「速い?!」


 なに、この速さっ?

 確かにトチョウは久々だけれど、こんなに速かったっけ?

 それともわたしの感覚が鈍ったの?

 わからないんだけれど、今はそれを考えている余裕はなくて、次々と、それこそ息を吐く間も現われる忍者を斬り捨てる。

 あ、わたしは焼き捨てるんだけれどね。

 でもさすがに、この速さと数はちょっと……クロウや不破さんはもちろん余裕なんだけれど、トール君とバロームさんはヤバい感じ。

 うん、わたしもヤバい。

 じゃちょっとなにか……あ、あれがあるわ。

 この狭い空間なら丁度いい。


「トール君、バロームさん、下がって」


 みんな、一瞬だけ耳を塞いでいて。


「起動……エコー(かい)


 わたしの足下に展開する少し大きめの魔法陣。

 (スキル)が発動してもプレイヤーの視覚的には何も起こらないんだけれど、わたしたちの進行方向に向かって床と言わず壁と言わず無数の亀裂が走り、窓ガラスが割れて砕ける。

 その衝撃に巻き込まれて天井から落ちてくる忍者たち。

 それらを続けざまに業火で焼き捨てる。

 やっとの事で一息吐きついでにMPをポーションで回復し、壊れたどんでん返しから出られず、半分だけ身を乗り出していたり、無理矢理出ようとしたりする忍者を斬り捨てながら通路を進む。

 さすがに影はプレイヤーが通りかからなければ出来ないから、影から抜け出る忍者だけはその都度落としていく。


「さっきの(スキル)、なんだったんですか?

 まだ耳がちょっとおかしくて」


 エコー壊の余波を受けたのか、トール君は耳抜きを試している。

 第四回イベントでフェンリルが岩屋を崩してみせたあの(スキル)に似てるっていうんだけれど、たぶん同じようなものだと思う。

 フェンリルは咆哮を利用していたけれど、エコーは……超音波? それとも怪音波?

 理屈はよくわからないんだけれど、まぁ音を使った(スキル)ね。

 ちなみにこういう屋内じゃないとほぼ使えない(スキル)だけど、プレイヤーにも有効だから気をつけてね。

 第二回イベントにあったバトルロワイヤルを廃墟でやると使えるから。

 でも廃墟だと建物も破壊しちゃうと思うから、使うタイミングと自分の立ち位置は重要よね。

 一緒に潰されたらいい笑い者だわ。


「そんな大きな(スキル)、グレイさん以外に使えるプレイヤーはいないと思いますけど」


 たぶん不破さんも初めて見ると思うんだけれど、驚かないのね。

 さすがっていうか、なんていうか。


「カニやんさんも使えないんですか?」


 カニやん? 取得すれば使えると思うけれど、こういう系統の(スキル)って、使う場所やタイミングを選ぶから好きじゃないんだって。

 カニやんってね、少なくともそういう我が儘を言えるくらいには強い魔法使いなのよ。

 単純に火力だけを追求してるから、凄い重火力だし。

 しかも今日、ルゥにも勝ったわ。

 たぶん、今のところルゥに勝てるのはカニやんだけだと思う。

 飼い主のわたしですら勝てないのに……ちょっと悔しい……。


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