112 ギルドマスターはモフ中毒です
pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!!
さて、関東エリアに行くのはいいんだけれど……チラリと足下にルゥを見る。
また撫でてもらえるんじゃないかって思ったルゥは、期待に満ちた目でわたしを見上げるんだけれど……ごめんね。
可愛すぎて凄く胸が痛むんだけれど、ちょっとだけ腕輪に戻ってくれる?
あ、ルゥは腕輪に格納出来ます。
んーっと休眠状態になるらしくて、腕輪の中でおとなしく寝ていてくれるの。
関東エリアにはガルムが沢山いるから、喧嘩になりそうだからね。
それにチビフェンリルのままじゃ、ガルムのほうが強そうだし……いや、まぁ向こうは 【魔獣】 で 【幻獣】 のルゥのほうが格上だけれど、数が多いしルゥはちっこいからやられちゃったら困るもの……っていうか、やられちゃったらルゥはどうなるの?
プレイヤーは復活出来るし、敵も何度も出現する。
でもラスボスの 【幻獣】 は基本的には特定条件でしか再現せず、ルゥはダンジョンなどの固定した出現場所を持たない。
つまり一度やられちゃったらもう復活しないってこと?
ダメだ、考えただけで泣きそうになる。
ルゥがいなくなるなんてもう考えられなくて……だから、ね、危なそうな時は腕輪に戻っていて。
そう思って持ち上げたルゥをきゅっと抱きしめて念じる。
直前に気づいたルゥが悲しそうにきゅーって泣いたんだけれど、そのまま腕輪に吸い込まれるように消える。
大丈夫……今のは腕輪に吸い込まれただけで、死んじゃったわけじゃない。
トチョウが終わったらナゴヤドームに戻って出してあげればいいんだから、大丈夫。
「あの、グレイさん、ルゥは?」
詳しいことは説明しないけれど、とりあえずお休みしてることだけは伝えておく。
トール君のことだから、理由を説明したら気を遣うに決まってるもの。
「グレイ、泣くならお前ももうログアウトして寝ろ」
トール君のトチョウ攻略には自分一人が付き合うからってクロウは言うんだけれど……泣いてません!
どうしてそんなこと言うのよ、クロウは!
行くって約束したんだからちゃんと行きます。
わたしがムキになって言い返したら、クロウに撫でられた……だ、だからこういうフェイントはやめて欲しい。
さっきも言ったけれど、心の準備が必要なの。
火照りを通り越して熱くなる顔を慌てて両手で隠したら、頭の上でクロウが溜息を吐く。
なによ、そのため息は。
文句があるのなら言って。
「いや、トールが困っている。
行こう」
あ……そ、そうね、ごめん。
「いえ、なんか俺、すいません」
なぜかトール君まで顔を赤くして、歩き出すわたしとクロウのあとを、身を小さくするように猫背気味についてくる。
うん? トール君のクエストに行くんだから、もっと堂々としてくれていいんだけれど、どうしたの?
『相変わらず悪魔だね』
カニやんがログアウトして小姑がいなくなったと思ったら、今度は小悪魔がしゃべり出した。
クロエね。
『トチョウだって?』
うん、一緒に行く?
『当てられたくないからお断り』
当てる? なにを?
『一生言ってれば?
グレイさん、トチョウは久々じゃない?』
うん、そうなの。
しかもクエストだから、久々に越後屋が見られるわ。
『ああ、あれね。
越前屋じゃなかったっけ?』
え? 越後屋じゃなかったっけ?
前と後ろの違いだけれど、でも全然違ぁ~う。
もちろんクロウは知っていて、たぶんどっちが正解かもわかっているんだけれど教えてくれないのがクロウで、わからないトール君が不思議そうな顔をしている。
「何かあるんですか?」
うん、あるの。
詳しくはトチョウで、自分の目で見て欲しいっていうか、体験してくれればいいんだけれど……ほら、フチョウも通常とクエストとでは敵の数や出現場所が若干違ったりするでしょ?
あれと同じように、トチョウでは、クエストの時にしか見られない敵がいるのよ。
それの名前が越後屋……だったと思うんだけれど、クロエはしつこく越前屋だっていうの。
まぁ前か後ろの違うどちらかがそれで、あとはトチョウでね。
とりあえずそろそろ関東エリアに入るから、気をつけましょう……っていっているそばから、誰かが釣ってきたとおぼしきガルムと遭遇する。
もう! こんな唐突に現われる場所に放置して、初心者が噛まれたらどうするつもりよ?
ここは経験値を稼ぎたいっていうトール君にお任せ。
あつらえたばかりのトール君の剣は少し長めの片手剣で、屍鬼ほどの長さはないけれど刀身も細め。
見る限り、いい感じに使えてるんじゃない?
「はい、そうなんです。
軽くも重くもなくて、短いとも感じません」
続けざまにガルムを三頭斬り捨てたトール君は少しはにかむ。
剣はこのまま使い込むとして、次は防具ね。
すでに素材の採取は始めているけれど、まだ具体的なイメージがなく、どこに依頼するかも決まっていないらしい。
りりか様はスキルやレベルの都合で、今はまだ整備が主体で、作るのは武器だけ。
手の掛かる防具までは手が付けられない。
だから防具を作るなら他の鍛冶屋に依頼しなければならないのだが、まだその宛が見つからないのだとか。
うーん、それについてはちょっと心当たりがなくもないんだけれど、まだちょっとわからないのよね。
わたしやクロウは課金装備だから鍛冶士に伝手がないんだけれど、他のメンバーはどうしてるのかしら?
ちょっと訊いてみるのもいいわね。
「課金装備ですか」
うん? 興味ある?
「グレイさんのその服とか、クロウさんの防具もそうなんですよね?」
うん、そう。
でもこれは……クロウの防具も含めて全部非売品だから今は入手出来ない。
大剣・砂鉄はドロップアイテムだけれど、これがなかなか性能がいいの。
しかも自己修復機能付きで……わたしは知らなかったんだけど、装備しているあいだに勝手に耐久値を修復してくれるらしい。
ちなみに砂鉄は稀少アイテムで、他に持っている人を、聞いたことも見たこともないから、たぶんクロウの持っている一本しかないんじゃないかな?
課金装備に興味があるのなら、自分で課金をしなくても、さっきの無人バザーでも探せるからマメに相談してみるといいわよ。
ただ課金者が課金装備を売りに出すのは通貨が欲しい時が多いから、稀少装備や高性能装備はそれなりの価格を覚悟してね。
生産職に作ってもらうにしても課金装備を探すにしても、それなりに通貨は必要になると思うから、【蛇の道】 に通って塊の採取を続けるのもいいし、エピソードクエストを進めるのもいいし。
あと普通にナゴヤジョーとかに潜って、レベルを上げつつドロップを集めるのもいいし。
「そういえば無人バザーで思い出したんですが、このあいだのイベントの時、春雪さんがキンキーとラウラに手伝ってもらっていましたよね?」
うん、そうね。
さっきも言ったけれど、人気のあるバザーで何店も出店したら吊されるから、たぶんあの時はキンキーとラウラにも出店してもらったんだと思う。
だから商品の追加に行ったりして、二人も忙しかったのよ。
もちろん売り上げは自動的に二人のお財布に入るから、お小遣いを引いた分をハルさんに渡していたんだと思う。
あのハルさんのことだもの、いくら暇をしているからといってタダで扱き使ったりはしないと思うわ。
イベント報酬としてもらうギルドボーナスは二人も恩恵を受けられるけれど、賞金は入らないからね。
そういうお小遣い稼ぎもありじゃない?
うん、でも、前にもいったけれど、誰かになにかをお願いする時は信用出来る相手をちゃんと選んでね。
「はい、大丈夫です」
トール君はそういうけれど、トール君だからね、心配だわ。
『グレイさんに心配されるとか、トール君もまだまだだね。
トチョウ、行ってらっしゃい』
はーい! ……って、それ、どういう意味よ、クロエ。
『言葉どおりだけど?』
暇ならあんたも来る?
『いまノブナガ狩り中。
標的、僕だから忙しいんだけど?』
あら、ごめん。
でもクロエのことだから、全然余裕なんだろうけれど。
『そんなわけないでしょ、くるくるとぽぽと来てるんだから。
もうすぐ落ちそうだよ』
あ、あら……それはまたご愁傷様。
でもあんた経験値カウンター止まってるんだから、いいじゃない。
二人のために、ちょっとくらい骨折ってあげなさいよ。
『言われるまでもないんだけど?』
うん、ごめんなさい。
もう黙ってます。
あ、クロエと遊んでる時でもなかったわ。
「どうかしたんですか?」
うん、コースを決めて欲しいの。
中部東海エリアからトチョウに行くには、樹海をかすめるコースは無しで、マサカドコースか東京砂漠コースのどちらか。
マサカドっていうのはノブナガみたいな感じのエリアボス。
東京砂漠はエリアダンジョンで、地下にあるダンジョンに必ず落ちるとは限らないんだけれど、落ちたら一時間くらいは出られない。
同じエリアダンジョンの 【蛇の道】 と違って、トチョウに行くには最奥にいるダンジョンボスの吸血サソリを倒さなきゃならなんだけれど、大蛇やノブナガみたいな確率遭遇と違って、サソリの巣にプレイヤーが入ると必ず出現するから。
しかもこれが結構手こずるのよね。
「マサカドっていうのは?」
平将門の首塚。
知らない?
「えっと、歴史って得意じゃなくて」
そう?
結構有名な武将じゃないの?
クロウは知ってる?
「そうだな、織田信長のような戦国武将とは違うから、あまり有名ではないかもしれん」
そうなの?
てっきり将門も戦国武将かと思ってたんだけれど、違うの?
「武将は武将だが、平将門は平安中期か後期の武将だ。
日本はまだ貴族社会の時代だったんじゃないか」
へ、平安時代ってどの辺だっけ?
えっと……うん、自慢じゃないけれどわたしも全然歴史には詳しくないの。
歴女とか、全くの無縁!
平安、平安…………戦国って安土桃山……江戸時代の前よね?
……あ~わかんない!
「平安時代は800年頃から1200年頃か。
信長公は1500年代の……」
待って、待って、クロウ!
無理! そんな数字を並べられたって全然わかんない!
それ、頭に年表が出てこないと照合出来ないから……トール君も、とっくに諦めちゃって苦笑いを浮かべてるだけじゃない。
カニやんがいないと思ったら珍しくクロウが饒舌になっちゃって、頭がいい人だってことは知っていたけれど、まさか学生時代の知識までまだ持っていたなんて……どんな記憶力?
わたしとは許容量が全然違う……違いすぎる……もうほんと、色々器が違いすぎて…………落ち込む……。
「あの、どうしてここでグレイさんが落ち込むのか、俺にはよくわからないんですけど?」
うん、だってトール君はまだ学生じゃない。
わたしだってまだ社会人二年目だけれど……だけれど、やっぱりああいう出来る人が身近にいるとちょっと落ち込むというか、へこむというか………………ルゥをモフりたい。
よし、ちゃっちゃとトチョウを終わらせて、ナゴヤドームに戻ってルゥをモフるわ!
トール君はルゥにちょっとぐらい噛まれても大丈夫だっていうんだけれど、問題はそこじゃないのよ。
そう、ルゥが噛むのは問題じゃないの。
だったら出してあげればいいんじゃないかってトール君は言うんだけれど、甘いわよ。
もちろんルゥが倒されちゃう可能性もあるんだけれど、シャチ銅で試した時みたいにルゥが怒ってトチョウを壊しちゃう可能性もあるのよね。
トール君のクエストを台無しにしちゃう可能性がね。
だからルゥは出してあげられない。
でもわたしは今、猛烈にルゥをモフりたいからちゃっちゃと終わらせます。
当然クリアするわよ。
「なんにせよ、グレイがやる気になってくれてよかったじゃないか」
「そう、ですね……」
うん? トール君、どうかした?
「いえ、別になにも……」
ということでわたしたちはマサカドの首塚経由でトチョウを目指したんだけれど……
alert 怨霊マサカドの首 / 種族・幻獣
やっぱり出ちゃうのね。
しかも珍しい先客がいるわ。




