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胸のウズキ  作者: 麻沙綺
1/3

千紗目線

 私には、彼氏がいます。

 その彼氏が、今、私の目の前を相合い傘をしながら楽しそうに帰っていく。


 あっ、別に目の前って言っても、私は生徒会室からその光景を見てるだけ・・・。

 でもね胸の奥が、ズキって疼く。

 最近は、そんな光景を見る度に胸が苦しくなる。


 彼を好きになるなんて、思ってなかった。




 彼が、告白してきたのは、4月の終わり。

 付き合うつもりなんて全然なくて、断り続けていた。

 だけど、彼は懲りずに告白してくる。

 そんな彼を見かねて、オッケーをした。

 その時に一つだけ彼に言ったことは。

「彼女らしいことは、何一つしてあげられないよ」

「それでもいい」

 と、彼は言って付き合うようになった。



 本来なら、今の私はここに居ない存在なのだ。

 三月の終わりに家族でイギリスに移住することを父に言われた。

 だけど、この時には生徒会長と言う役職が私の肩に乗っかっていて、放り出すことができなくて、夏休みまでにかたを着けて、イギリスに向かうことになっていた。



「千紗。どうした?」

 声を掛けてきたのは、幼馴染みの戸田将。

「ううん。何でもないよ。将こそゴメンね。私の後を無理矢理押し付けて・・・」

 私が、請け負ってる生徒会長の役職を今、目の前にいる彼に押し付けて、イギリスに行こうとしてる。

「いいよ。そんなの気にするな千紗。お前が、土台を作ってくれてるから、俺は、それに肉付けしていくだけな簡単な仕事だ」

 将が笑ってる。

「それでも・・・」

「千紗が悪いんじゃないだろ。本当なら、三月にはここから去っていた千紗が、生徒会長に選ばれたために残ったんだから」

 って、苦笑する。

 将は、事情を知ってる。

 だから、こうやって私を助けてくれる。

「お兄ちゃんにも迷惑かけてるんだよね、私」

 私は椅子に座り直しながら言う。

「エッ・・・。千里さんが、そんなこと思うとは、思えないけど・・・」

 まぁね。

 お兄ちゃんは、私に甘々なんだ。

「なぁ、千紗。あいつには言ったのか?」

 将が聞いてきた。

「う・・・。まだ・・・、って言うか、別れるつもりだよ」

 口にして、余計胸が痛くなる。

「そんな顔して、本当に別れられるの?」

 そんな顔って、どんな顔してるんだ、私?

「気付いてないの?寂しそうな顔してるぞ」

 そうかな?

「まぁ、いいけど。この後どうする?よければ送っていくよ」

「ゴメン。この後、部活に顔を出しに行かないといけないんだ」

「そっか」

「じゃあ、鍵、お願いね」

 私はそれだけ告げて、部屋を出た。



 一様、彼のとなりに居た子には、事情を説明してある。

 彼には、何も言わないで欲しいって、口止めもしてある。

 私が居なくなってから、彼を支えてもらうためにも・・・。




「お疲れ」

 私は、そう言って、部室に入った。

 そこには、梨香が一人で頭を悩ませていた。

「どうした?」

 梨香が頭をあげる。

「千紗。いいところに来た」

 顔が、嬉しそうに言う。

 何が?

「これ、見て欲しいんだけど・・・」

 って、梨香が見せてきたのが、トレーニングメニュー。

「いいじゃん。それでいけば」

「そんな、投げやりな」

「いやいや。ちゃんと考えてあって、いいと思うよ」

 そう答えながら、着替える。

「そっかなぁ」

「うん。大丈夫。自信持ちなって、新キャプテン」

「ちょ・・・ちょっと、その言い方やめてよ」

「無理。梨香が、新キャプテンなのに代わりがないのだから・・・」

「そうだけど・・・。でも、まだ千紗居るのに・・・」

 梨香が、暗い顔をする。

「気にしない。今のうちになれなさい。で、副キャプテンなんだけど・・・」

 梨香に相談というかたちで、二年生の子をあげた。

「私は、いいけど。他の三年生メンバーが、納得するか・・・」

「それは、私が言うから、梨香が心配しなくていいよ。・・・で、今日は、皆揃ってる?」

「うん、居るよ」

「じゃあ、挨拶しがてら、キャプテン交代の話もしちゃおう」

 私は、梨香の腕を引っ張って体育館へ向かった。




 体育館には、全員が揃ってた。

「皆、集合」

 私は、そう言って集めた。

「今日は、皆に言うことがあって、集まってもらいました。三年生と二年生は知ってると思うけど、一年生にはまだ話してなかったのですが、私、夏休みには、ここに居ないので、先に言っておきます」

 私の言葉に一年生が、ざわついた。

「今まで、着いてきてくれてありがとう。色々あったけど、楽しい思いでになってます。一年生とは、余り関わること出来なかったけどね。本当、ありがとう」

「ちょっと、千紗。そんなの今、言わなくても・・・」

「そうだよー」

 三年生メンバーが戸惑ってる。

「うん。そう思ったんだけどさ、今日しか出来ないかなぁって思ったんだ。それから、私の後のキャプテンは、梨香にお願いしてあるから。・・・で、副キャプテンなんだけど、二年生のつばさにお願いしようと思うんだ」

「何で?」

「確かにつばさなら、言うことないけど・・・」

「どっちにしても、夏の大会が終わったら、三年生は引退するよね。だったら、二年生から副キャプテンを選んで、そのままキャプテンになってもらおうと思ってね」

「まぁ、そういう理由があるなら・・・」

「・・・っと言うことで、つばさ。前に来て、挨拶して」

 つばさを呼び出した。

 私の横に立つと。

「・・・っと、頑張りますので、よろしくお願いいたします」

 って、堂々と言ってのけた。

 うん。

 つばさにして、正解かな。

「一年生。今、言ったことは、ここだけの話にしておいてね」

「はい!」

「じゃあ、練習に戻って」

 私の言葉に散りじりになって、練習に戻った。

 私は、準備運動をして、梨香にパス練習に付き合ってもらった。


「ねぇ、千紗。最後に試合しない?」

 梨香が聞いてきた。

「いいよ。じゃあ、レギュラー対私と二年生チームでやろうか?」

 ってことで、試合をすることになった。


 久し振りにコートを駆けずり回って、いい汗をかいた。




「千紗。今日は一緒に・・・」

「ゴメン。迎えが来てるみたいだから、行くね」

 門のところに彼が、立ってるのが見えた。

「うん。また、明日ね」

 私は、傘を指して彼の所に向かった。



「嵐。お待たせ」

 彼に声をかけた。

「うん。大丈夫。そんなに待ってないし・・・」

 甘いマスクの持ち主、桐生嵐。

「行こう・・・」

 嵐の言葉に。

「うん」

 と頷いた。


 ゆっくりとした足取りで、家に向かう。

 嵐は、色んな話を私にする。

 本当に、たわいのない話。

 そんな話をしてるうちに家に着く。

「千紗先輩。入らないの?」

 嵐は、不思議そうな顔をして聞いてくる。

「・・・うん。もう少し、嵐と話がしたいから、公園に行こう」

 私は、そう言って、公園の方へ足を向けた。



 雨が降ってるんだから、家にあげた方がいいのはわかってる。

 でも、今、家の中は、引っ越しの荷物が散乱してて、あげることが出来ないのだ。


「珍しいこと言いますね」

 そうかもね。

「千紗先輩、どうかしたんですか?」

 怪訝そうな顔をする。

「ゴメンね。嵐・・・。もう、嵐とは付き合えない」

 私の言葉に。

「何を言って・・・」

 戸惑いを見せる、嵐。

「嵐とは、これ以上、付き合えない。だから、バイバイ」

 私は、嵐に背を向け走った。

 ゴメンね。

 胸の奥が、ズキズキする。

 自分から言っておいて、こんなに辛いなんて・・・。

 嵐の事、好きになってたんだな。

 今さらながら、実感する。

 もう、忘れよう。

 この想いは、蓋をして・・・。





 終業式。

 私は、壇上に上がって、生徒会からの連絡事項を告げる。

 それが終わり、教室に戻ると、クラスの皆から、花束が渡された。

「千紗。ありがとね。また、連絡するね」

 梨香が、泣きながら言う。

「うん。こっちこそ、ゴメンね。梨香や将には、本当に感謝してるよ」

 私は、二人に向かって言う。

「奥田。向こうに行っても元気でやれよ」

 担任がいう。

「はい。先生、ありがとうございました」

 私が、先生に頭を下げてると。

 ガラッ。

 教室の戸が開いた。

「千紗。もういいか。そろそろ時間」

 って・・・。もう、お兄ちゃんったら、何で、中に来るかなぁ・・・。

「千里さん」

 驚いた顔をする将。

「おっ、将。千紗の分まで、頑張れよ」

 お兄ちゃんが、将の頭にポンと手を置いた。

「わかってるよ」

 将が、嫌そうな顔をする。

「と・・・。ほら、千紗行くぞ」

「うん。じゃあ、ありがとうございました」

 私は、もう一度頭を下げて、自分の荷物をもって、教室を出たのだった。

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