嵐目線
オレ、桐生嵐。
入学式の在校生挨拶の時に先輩に一目惚れした。
あんなに燐とした女性が居るとは思わなかった。
凛々しい立ち振舞い。
そんな先輩を目で追っ手いるうちに、どんどん引かれていった。
そして、先輩に告白した。
最初のうちは、断られてぱなし。
諦めずに何度も告白して、やっとの思いでオッケーをもらったが。
「彼女らしいことは、何一つしてあげられない」
って、先輩が言ってきた。
オレは、それでもよかった。
先輩の横に居られれば、本当にそれで・・・。
なのに。
ある雨の日。
幼馴染みである菜央と一旦帰ってから、もう一度先輩のために学校に迎えに来た時だった。
「嵐。お待たせ」
先輩が、笑顔でオレのところに来た。
「うん。大丈夫。そんなに待ってないし・・・」
何が、大丈夫なんだ。
オレの言葉がおかしかったのか、先輩がクスクス笑ってた。
「行こう・・・」
「うん」
そんな先輩を促して、先輩の家に向かった。
何度となく通った道。
オレは、先輩が退屈しないように色んな話をする。
先輩といると、楽しくて、気がつけば、先輩の家の前。
「千紗先輩。入らないの?」
何となくだけど、この時から、嫌な予感がしてた。
「・・・うん。もう少しだけ、嵐と話がしたいから、公園に行こう」
先輩に言われて、そっちに向かう。
雨の中。
公園でって・・・。
普通は、家の中じゃ・・・。
「珍しいこと言いますね」
オレは、思った事を口にする。
この時から、気付いていたのかもしれない。
胸の鼓動が、早くなる。
「千紗先輩。どうかしたんですか?」
オレは、少し屈んで、先輩を見た。
何かが、オレの中で警笛を鳴らす。
先輩が、真剣な眼差しでオレを見る。
「ゴメンね、嵐・・・。もう、嵐とは付き合えない」
エッ・・・。
何?
「何を言って・・・」
オレは、動揺を隠しきれなかった。
「嵐とは、これ以上、付き合えない。だから、バイバイ」
先輩が、切な気な笑顔浮かべたかと思ったら、走っていってしまった。
オレは、暫くそこを動けなかった。
オレは、先輩に何かしでかしたのか・・・。
オレの知らないところで、先輩を傷付けていたのか・・・。
そんなことばかり考えて、気付けば、夏休みも終わってた。
始業式。
先輩の顔が、久し振りに見えるって、胸を踊らせていた。
・・・が、壇上に上がってるのは、戸田将と名乗った。
後任の生徒会長だった。
前生徒会長の事には触れられず、要点だけを坦々と喋っていた。
先輩は?
オレが、好きな千紗先輩は、一体何処に・・・。
教室に戻った後、担任の話が終わるや否や、先輩のクラスに向かった。
先輩のクラスの入り口は、開いていて、オレはそこから中を覗いた。
・・・が、先輩の姿は何処にもない。
一体、どうして・・・。
「あっ、千紗の元カレ」
って、声が聞こえてきた。
その方を見ると、先輩と仲のよかった友達がオレのとこに来た。
オレは、軽く頭を下げた。
「もしかして、千紗を探しに来たの?」
「はい」
オレの返事を聞いて、憐れむような顔をしてる。
そこに居た全員が、そんな顔をしてた。
「・・・そっか。千紗、何も言わなかったんだな」
先輩を馴れ馴れしく呼び捨てにする、生徒会長。
何?
一体、何を言わなかったんだ?
「悪いな。俺から言うことになるとはな。千紗、夏休みに入って直ぐにイギリスに行ったんだ」
って、またオレが知らないことが・・・。
エッ・・・。
イギリス?
何で?
「何も知らされてなかったんだね」
って・・・。
「たぶん、一年の中でも極僅かな子しか知らないのかもね」
「千紗も、罪作りな事をしていく」
二人は、先輩ととても仲がよかったらしい。
「千紗ね。元々、三月からイギリスに行くことが決まってたんだよ。でも、生徒会長という役職をね賜ったからって、土台だけを夏休み前までに作ってから行くことになってたの」
「・・・で、会長職を任せられる奴を探してたんだけどな、結局見つけられずにいて、俺が、千紗に申し出て、千紗の後任になったんだよ。千紗の相談役もしてたしな」
相談役って・・・。
そんなに親しいのか?
「千紗と俺は、幼馴染みなんだよ。お前のことも聞いてる。お前には、可愛い彼女が居ることも、千紗は気付いていたよ」
可愛い彼女?
「その彼女には、自分の事を話して、お前の事、よろしくって言ってあるって言っていたが・・・」
生徒会長が言う。
だから、彼女とは?
誰を指してるんだ?
オレには、先輩だけだった。
先輩以外で、オレの側に居たのって・・・。
菜央の事か・・・。
やっとの思いで、菜央に行き着いた。
「菜央とは、ただの幼馴染みですが・・・。先輩が、何を見て菜央が彼女だと・・・」
「お前、自覚無かったんだな。千紗、よく生徒会室の窓際に立って、お前が帰ってくのを見てたんだよ。その時、一緒に帰ってた子が彼女だって、思ってたみたいだ。そして、よく呟いてたのが“こんな私を好きになってくれて、ありがとう“って言葉だった」
「・・・・・・」
先輩、オレ・・・。
先輩に辛い思いさせてたんですね。
「エッ・・・と。桐生くん。千紗の事、忘れてあげて・・・」
何?
忘れてあげて?
どういう意味なんだ?
普通は、覚えててあげてでは?
「千紗ね。何時こっちに戻ってくるかわからないの。だから、桐生くんには、“私の事は、忘れて新しい恋を見つけて欲しい“って言ってたの。あたしの口から言うのは違うと思ったんだけどね。でも、千紗が言えなかった言葉だから、汲んであげて欲しい」
あの時の想いは、これだったのか・・・。
あの時、先輩は笑っていたが、哀しそうな顔をしていた。
それが、何の意味があったのか、オレは分からなかった。
「オレ・・・。先輩の事待ちます」
「!!!」
周りが、驚いてる。
そんなに驚くことなのか?
「何時帰ってくるか、わからないんだぞ。それに、向こうで彼氏作るかもしれないだろ」
戸田会長が言う。
「そうかもしれません。だけど、オレは、先輩を待ちます。先輩が、オレに何も言わずに行ってしまったのは、オレが頼りなかったからだって、思ってます。だから、何時までも待ちます」
オレは、自分に言い聞かせるように言う。
「・・・そう。だったら、俺と連絡先交換しとくか?千紗との連絡取るの俺だし、千紗から着たメールを直ぐに転送できるからな」
会長が言う。
「いいんですか?大事な事柄だったりしないんですか?」
「まぁ、生徒会のその後とか、近況報告だったり。だから、直接じゃなくても、千紗の事知れるのはいいだろ?」
「ありがとうございます」
オレは、勢いよく頭を下げた。
「ほら、携帯出せ」
会長と赤外線通信で交換した。
「それと、お前、今日から生徒会の一員な」
って・・・。
ハ?
何故?
「俺が、副会長をやってたの覚えてるか?」
「はい」
「そこ、今、欠員なんだよ。で、俺の片腕として、働け」
はいー。
それって、千紗先輩の情報をやるから、役員をやれってことでいいのだろうか?
「そう。今、お前が思った通りだ」
って、会長は、エスパー?
「イヤイヤ。顔に出てるぞ」
って、笑ってる。
「わかりました。それ受けます」
「おお。じゃあ、これから行くぞ」
会長が、オレの首根っこを掴んで、生徒会室に向かっていった。




