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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Goodbye To [Nameless] Avenger
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Breed [Hollow] Blooms 7

「ではここに2人のD.R.E.S.S.を置いておきます。灰色のバングルがレイ君、薄いピンク色がアネットです」


 そう言いながらジョナサンは、黒い合金の箱をジャケットの内ポケットから取り出して簡素な机に置く。

 レイの目は自然と開かれたそこにあるくすんだ灰色のバングルという、9年間の訓練の末に手に入れた自分だけのD.R.E.S.S.に惹きつけられていた。

 それだけが自身を利用されるだけの人生から救い出してくれる物なのだと、レイはそう考えていた。


「13時から第1施設で私との模擬戦を行いますので、それまでに2人は登録を済ませて置いてください。模擬戦で何かしらの結果が出るまでは、チェレンコフ君を含めた全員に依頼を請けさせませんので頑張ってくださいね」

「マジかよ!?」


 思わず怒鳴り声を上げてしまったレイを無視して、ジョナサンは笑顔で会議室を後にする。

 残されたレイは遠ざかった冷蔵庫に頭を抱え、アネットは簡素なデザインが気に入らないのか不満そうにバングルを眺め、チェレンコフはそんな2人の様子に苛立ちを誤魔化すように方まで伸ばした金髪をガシガシとかき上げる。


 急造の小隊程度で何とか出来るほど、元フルメタル・アサルト所属のジョナサンは優しくはない。


「……おい、クソチビ。お前の指揮官適正は?」

「最低ランク、唯一高かったのは襲撃者(アサシン)の適正だけだった」


 ジョナサンが1番知っているはずの自身の適正に眉間に皺を寄せながら、レイはチェレンコフの質問に答える。

 元々意見が通るとは思ってはいなかったが、レイは自身の適正と性格を省みて個人での任務従事を希望していた。

 しかし結果は下手をすれば冷蔵庫どころか極貧生活を送らなければならないほどに、最悪の状況に立たされるというものだった。


「そっちのお嬢さんは?」

「全部最低だったわ、スナイパーが最低より1つ上だったけど。えっと――」

「ヴィクター、そう呼んでくれお嬢さん。とりあえず俺が指揮をとらせてもらう、どこぞの縁故で隊長なった新入りよりは上手くやってみせるさ」


 アネットへ熱っぽい視線を送りながら、自身を嘲笑うような台詞を言ったチェレンコフにレイは怒るよりも先に感心していた。

 レイなら単独戦闘(シングルコンバット)以外の実力が低い隊員と、ろくな狙撃も行えない狙撃手の隊員を率いて戦えるとは思えない。


「なら指揮はアンタに任せた、正直部隊を率いての作戦なんか分からねえし」


 そう言ってレイは隊長としての責務を放棄して、トラッカージャケットの袖を捲くって左手首に着けた灰色のバングルの表面に触れる。

 バングルの表面にはシアングリーンの文字が走り、その文字達はD.R.E.S.S.に搭載している装備の情報を表示する。


 マシンガン、ブレードユニット、ミサイルポッド。


 ジョナサンに強制され、そして自身の手に馴染んでしまったその装備が搭載されていることをレイが確認していると、シアングリーンの文字がそれに割り込んでくる。


 Please Name Me.(私に名前を付けてください)


 ――たかが道具のくせに面倒くせえな


 そのD.R.E.S.S.の要求にレイは面倒だとばかりに眉間に皺を寄せる。

 ジョナサンと同じ家に住んでいた頃に見せられた映画の主人公は、銃に名前をつけていたがその感覚をレイは理解出来なかった。


 愛着は決して安息を与えることはなく、依存だけを加速させていく。


 何も知らないまま薄っぺらい自身の持論に酔っていたレイは、表示された文章に手を加えてそのD.R.E.S.S.にNAMELESS(ネイムレス)という名前を与えた。


 D.R.E.S.S.は軍用に配備されることが決まった頃、陸海空全てのエリートが集められた部隊によって実験部隊が多く組まれることとなった。そしてその時に空軍出身の男が、自身に与えられたテスト機にノーズアートが描いた事から、エンブレムを愛器にエンブレムを描くのが軍、民間軍事企業、武装テロ組織問わずD.R.E.S.S.を纏う者達の風習となっていた。


 それを知った上で嫌いじゃない灰色を選んだ装甲と、ジョナサンに請われて決めたシアングリーンのマシンアイを選んだそのD.R.E.S.S.にはピッタリだとレイは設定を終えたバングルを隠すようにトラッカージャケットの袖を直す。

 ふと視線をやったアネットとチェレンコフはとても作戦会議には見えない談笑をしており、レイは2人に気付かれないように静かに席を立って会議室を後にした。

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