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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Goodbye To [Nameless] Avenger
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Breed [Hollow] Blooms 5

「ジョナサン、俺は傭兵になる。面倒を掛けるけどアンタに保証人になって欲しい」

「面倒だなんてとんでもない、私はこの日を待っていました。喜んで引き受けさせていただきますよ、レイ君」


 2年の月日が経ち15歳の誕生日。

 レイはH.E.A.T.に所属して傭兵となることをジョナサンに申し出て、元よりそのつもりだったジョナサンは2つ返事それを了承し、自身が保証人となると申し出た。


 この2年間を2人を利用するため、自分の意思をも悟られないようにしていたレイは、自身の導き出した結果に満足げな笑みを浮かべる。

 この2年間レイはジョナサンの言うことを疑いながらも素直に従い、アネットの求める物を全て与えてきた。その日々は決して気分の良い物とは言えず、レイが浮かべる笑顔は取り繕っているものへと変わっていた。

 そしてこれからの自分のためだけの人生に心躍らせながら、レイは口角を歪めてこの関係の終わりを告げる。


「それでだけど、働き始める以上アンタらにこれ以上迷惑を掛けたくはねえ。明日この家を出て行く」

「何言ってるの!? 迷惑だなんてそんなこと――」

「社会人として働き始めるってのに誰かの厄介になるってのが俺には心苦しいんだよ。それに俺とジョナサンはどうせ職場で顔を合わせる事になるんだ、今までと何も変わりゃしねえよ」


 レイはアネットの引止めにもっともそうな言葉を並べる。

 傭兵として働くことが出来る年齢に達したとはいえ、法では後見であるジョナサンに反対されると面倒ごとは避けられない。だからこそレイは2人が混乱している間に、これを押し通さなければならない。

 そして篭絡は成功したと確信していたアネットは、焦燥する胸中を隠すことも出来ないまま爪を噛み始める。


 ジョナサンに命令されたとおり恋人のような逢瀬を続け、レイが護衛としての立ち振る舞いなどを身につけるための講義に共に参加し、幾度となくレイと体を重ねた。


 しかし結果としてレイの篭絡は失敗し、アネットは傭兵となって更なる接近を強いられる事となってしまった。

 そしてジョナサンもアネットの篭絡が失敗した事を理解し、この先に起こりうる事態を思考し始める。

 考えられるのは他からの引き抜きではあるが、両親の遺産の全てを失ったレイに価値を感じているのはジョナサンだけでありその可能性は低いとジョナサンは考えた。

 何より保証人が必要である18歳までの間に、同じく傭兵としてデビューさせるアネットに再度篭絡させれば問題はないだろう。

 決して頭が良いとは言えなかった親友のことを思い出したジョナサンは、サイドバックに流した金髪を撫でつけながらそう結論付けた。

 どちらにせよ強い反対はレイのような若者には効果的ではないと知っている以上、ジョナサンは強く何かを言うことはない。

 しかしこの思惑が外れてレイが自身の手札でなくなるのであれば、自身は親友の息子を殺さなくてはならない。

 ジョナサンがあの日軍部に見つかる前にレイと接触したのは、かつて部下だった上司の代替となるように育てたその息子を従えることで傷ついた自尊心を癒そうとしただけなのだから。


「……いいでしょう、そちらの住居の保証人も私がなります。その代わり週末には出来るだけこちらに帰ってくるように」

「ああ、約束するぜ。出来る限りな」


 生まれて初めてついた嘘を笑顔で隠しながら、レイは何も気付かないまま2人に勝った気になっていた。

 ジョナサンは傷ついた自尊心を癒すため、アネットは最低だった自身の人生を変えるためにレイと共に暮らしていた。

 しかしレイは苦痛から逃れるためだけにこの選択をし、過去から何も学ぼうとすらしていなかった。


 勝手な思い込みからの劣等感、一方的に突き放して生まれた両親との溝、そして利用価値を見出していたとはいえ金を掛けて育ててくれた後見であるジョナサンとの別離。


 その裏側にあるのはレイの幼稚で自分勝手な願望だけ。


 それに欠片も気付かないままレイは翌日の早朝、ジョナサンが選んで与えてきた趣味の合わない衣服以外を鞄に詰めてジョナサンの家から出て行った。

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