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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Talk To [Alias] Messiah
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Dedicate [4] Blooms 3

「年下に大声を上げるものではありませんわよ、レイさん」


 両手に荷物を持っていたせいか、珍しく晶が開けたままにしていた扉。

 そこから掛けられた声に導かれるようにレイは視線をやる。

 黒で統一したジャケット、ニットインナー、細身のデニム、ブーツに身を包み、胸元にチャームと鎖で出来た金の十字架を輝かせる金髪碧眼の女。

 そこに居たのはエリザベータ・アレクサンドロフだった。


「うるせえな。話は終わったのかよ、リザ」

「ええ、レイさんが完治するまでは本格的に動くつもりはないとの事でしたので、世間話をさせていただいてただけですの。それと――」


 レイの悪態を気にもしていないように微笑むエリザベータは、黒檀で出来た扉を閉めて自然な動作でレイの隣へと座る。

 そして瀟洒な金時計を嫌味なく着飾る華奢なエリザベータの手は、レイの手からライターを当然のように取り上げた。


「――わたくし、タバコの匂いが苦手なんですの」

「……アンタらの前じゃ吸わねえ、それでどうだ?」

「アンタではなくリザ、ですわ。それと分かっていただけなかったみたいですので言い換えさせていただきますが、タバコの煙ごときがレイさんの一部になってしまうのが、わたくしは気に入りませんの」


 エリザベータはそう言いながら、雑に結ばれていたレイのネックレスの革紐を解いてもう一度結び直す。

 その手際の良さとは裏腹に他人に首を晒している居心地の悪さを誤魔化すように、レイはシニカルな笑みを浮かべて言う。


「アンタってそんなに面倒くさい女だったか?」

「ところでレイさん、ミザリーという映画をご存知で?」

「……冗談、だよな?」


 レイは告げられた映画の名前に顔を引きつらせながらそう問いかえるも、エリザベータは惚れ惚れするような笑みを浮かべるばかりで何も答えようとはしない。

 その映画はとあるシリーズを終えた小説家が、そのシリーズのファンに監禁されて続きを書かされるというものだったのだ。

 レイが言いようのない恐怖に顔を引きつらせているその間にも、結び終えたはずの革紐はエリザベータの手に握られ続けていた。


 やがてレイは自身の状況を正しく判断し、右手で顔を覆いながら深いため息をついた。


「分かったよ、ライターはリザに預けておく。それでいいか?」

「ええ。わたくしの思いが通じたようで嬉しいですわ、レイさん」


 そう言いながらエリザベータはレイのネックレスの革紐を離して、革のポーチにライターを入れてジャケットの内ポケットにしまう。

 そのライターを2度と見ることも出来ないのではないか。レイがそんな不安に胸中を乱されていると、黒檀の扉が再度開かれた。


お嬢さん(ジェーブシュカ)、あまり"ウチの"をいじめないでくれないか?」


 そう言ってエリザベータを嗜めたのは、赤のインナーに白のジャケット、黒い細身のボトムというラフな格好に身を包んだ、煌めく白髪とピジョンブラッドの瞳を持った美女、イヴァンジェリン・リュミエールだった。

 晶によってカットされた雑然と伸ばされていた白髪は毛先を持ち上げるようにバレッタで纏められ、首筋の十字架の刺青を露わにしていた。


「ミス・コウガミと同じ愛の鞭ですわ、ドクター・リュミエール」

「そうだったか。ろくに話を聞かずに若い子に説教をしてしまうのは、年寄りの悪い癖だね」

「お戯れを」


 この屋敷の持ち主であり、今回の事件の最高の立役者であり、レイとアキラの雇用主でもあるイヴァンジェリンは、エリザベータと軽口を応酬しながら1つだけ置かれているパーソナルソファへと腰を掛ける。

 そしてイヴァンジェリンはローテーブルに置かれていたレイのために用意されたであろう黒いカップを勝手に手に取り、そのすっかりぬるくなっている紅茶を1口で飲み干す。

 口内に広がるダージリンのさわやかな香りに舌鼓を打ちながら、イヴァンジェリンはあまりにも忙しかったこの数ヶ月に思いを馳せる。


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