Drunk It [Poison] Blood 25
横浜の自宅に帰ったレイは、必要な荷物だけを薄汚れたカーキ色のボストンバッグに詰め込んでいた。
スーツや潜入に使ったいくつかの物は置いていくが、川崎のショッピングモールで買ったクロムハーツのウォレットチェーンは決して安い買い物ではなかったため絶対に忘れていくわけにはいかない。
そして荷物のほとんどを纏め終えた頃。
レイはふと気になってポケットの中に入れていた携帯電話を取り出すと、メールを受信した表示が結晶体のディスプレイに表示されていた。
――通信じゃねえのは初めてだな
いつもなら任務終了をエイリアスが確認したすぐ後に、ネイムレスの無線が直接コールされる。
そのいつもと違う状況にレイは眉をしかめながらメールを開いた。
添付されていたのはアメリカのネバダ州行きのフライトのデータ、そのチケットの受け取る為のナンバリングコード、偽造されたID、そして映像のデータだった。
――どういうことだ
なぜ連絡してこない。
なぜフライトの行き先がネバダなのか。
なぜ黒のデバイスの受け渡し方の指示がないのか。
なぜ映像データなど添付されているのか。
もし連絡がない理由が任期の終了であるのなら、フライトはロサンゼルスがあるカルフォルニア州行きのものになるはず。
そして今までも情報を映像データで送られたことはなく、レイは何かしらの罠である可能性を懸念し始める。
――最悪、携帯を捨てて身を隠すか
アメリカまで辿り着いてしまえば方法はいくらでもある。
そう考えたレイはその映像データを再生した。
決して大きいとは言えない携帯電話のディスプレイにノイズが走る。
その尋常ではないノイズの加減に、携帯の故障かとレイは眉間に皺を寄せるも漏れ出してきた音声にデータ側の問題であると理解する。
『……っておくれよ……えなければ……ないんだ』
やがてノイズが晴れたディスプレイに1人の女が映し出される。
薄暗い画面の向こうでも輝く雑多に伸ばされた白髪、冷ややかな美しさを湛えるピジョンブラッドの瞳、そしてもはや作り物にしか思えないほどに白い肌の顔をした女。
女はレンズを愛しげに、そしてレンズの向こうに居るレイに縋りつくように言った。
『レイ、最後の依頼だ――私を助けて欲しい』
その女はD.R.E.S.S.を生み出して世界を変え、そして人々の前から姿を消した女――イヴァンジェリン・リュミエールだった。




