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第八章 かくして鉄蛇は蒼風に引き裂かれ

下書き中の物をみつけたんで書き上げてみました。これでキリはいいかな…


それにしても、皆様は『マジシャンな~』よりこっちの方が面白かったですか?



 ヴィリアントの指示通り金目のものを物色するため、アストはアイカを引き連れて鉄蛇空賊団のフェルマッド号船内を探索していた。狭く同じような風景が延々と続くこの通路をアストは迷うことなく突き進んでいく…。



「次は右かな」


「分かるんですか?」


「この船の同型鑑には何度か乗り込んだことがあってね。多少の構造は覚えてるよ。」


「乗った?」


「ていうか殴り込んで沈めた」


「そうですか…」



 『マルディウスの黒牙』と呼ばれる彼の実力を噂程度に聞いていた時は半信半疑であったが、先ほどの無双っぷりを見たらすんなり信じることができた…。



「ん?何ですこれ?」



 なんて考えていたら、何かが通路の壁に張り付いていたのが目に入った。それはスペードのエースが描かれた一枚のトランプだった…。


 何故このような場所に?と思いつつ、咄嗟に彼女はそれに触れようとしたその時…。 



「ッ!?」



 伸ばした腕を誰かに掴まれた。いきなりのことに動揺しながらも、慌てて自分の腕を掴んだ人物の方に視線を向ける。すると、自分の腕を掴んだのは苦笑を浮かべたアストだった…。



「下手に触ると爆発するよ?」


「え、これがですか…?」



 自分が触れようとしたものが爆発物だと言われ、改めてよく観察してみる…。すると僅かだがこのトランプから魔力を薄っすらと感じる取ることができた。どうやら魔術式による魔法アイテムのようである。 


「これはリゲル副船長のトランプ…ていうか『術式絵札』だよ。」



 蒼風一味の副船長であるリゲルの武器、『術式絵札』。一見するとただのトランプだが、全てのカードに精密で正確な術式が組み込まれており、その一枚一枚が恐ろしい威力を持った武器なのである。


 蒼風一味が言うとこの『仕込み』とは、用の無くなった敵船を内部から爆発させて沈めることであり、それは大抵リゲルが敵船に潜入し、この絵札を時限爆弾の如く仕掛けてくることになっている。



「というわけで、歩いてる途中に何かみつけても無闇やたらに触れないでね。」


「……あっ…。」



 言うや否や掴んでいたアイカの腕を離したのだが、どういうわけか彼女は残念そうな声を出した。そして、そのままジッと掴まれていた自分の腕を見つめ続けていた…。



「どしたの…?」


「いえ、何でもないです…」



 こちらに一切視線を向けること無く返事を返された…。強く掴みすぎたのか?と思ったが違うようである。彼女はおもむろに顔を上げ、口を開いた。



「……時にフランデレン卿…」


「何かな?」




「妄想彼女…もとい、実体無き彼女が居るって噂があるんですけど、本当ですか?」



---ゴンッ!!



 アイカの発言に思わず足を滑らせ、頭を壁に勢いよくぶつけた…。タンコブが出来てそうな痛みで少し悶えたが、それどころでは無い…!!



「…誰だよそんなこと言ってるのは!?」


「いや、魔導隊全体では結構有名な噂ですよ?」



 アストが縁談や御見合いの話を断り続けるのは、彼に想い人がいるからという噂は軍内部でもそこそこ有名である。しかし、その噂が広がる以前から誰もアストの彼女や恋人らしき人物を目撃したことが無いのだ…。


 当然ながら敵国の精鋭である恋人と国内で会えるわけも無い。かと言って見知らぬ御嬢様方と仲良くなるつもりも無い。だったら現状を維持するしかない…。


 そんなことを続けていたら、いつの間にか『フランデレン卿は自分に恋人が居ると思い込んでいる…もしくは幻覚を見ている』という噂ができてしまったのだ…。



「で、実際どうなんですか?」


「居るよ、妄想じゃなくて現実の恋人が!!」


「目撃者が1人も居ないのですが…?」


「…ちょっと訳ありでね、滅多に会えないんだ。」


「夢と現実の境界は中々越えれませんからね」


「違うって!!」


「ふむ、これは重症ですね…」



 このままでは本当に残念な人になってしまいそうである…。しかも、何故かアイカは何かを決心をしたかのような表情をしており、そして…。




「御安心ください、フランデレン卿。必ず私があなたを妄想の世界から連れ戻して見せます…!!」




---もう、泣くしかなかった…
















 アストが同僚からの言葉に打ちひしがれていた頃、フェルマッド号の船上では引き続き激闘が繰り広げられていた…。


 

「ほらほらどうした鉄蛇の!?」


「くっ…調子に乗るなよ蒼風!!」



 フェルマッド号の一番高い場所である艦橋の天井部分で二人は対峙していた。鉄蛇の頭は次々と骸骨兵を作り出してヴィリアントにけしかけるが、彼はそれをものともせず葬り続けた。


 近寄ってきた敵を片っ端からサーベルで斬り捨て、時には殴り飛ばし、蹴り飛ばし、目の前に居た骸骨兵を粉砕しながら鉄蛇の頭に向かって一直線に突き進む。



「オラァ!!」


「クッ!?」



 一気に距離を詰め、相手目掛けてサーベルを振り下ろす。だが、鉄蛇の頭はそれを杖で辛うじて防ぐ。斬撃を受け止めた頭は笑みを浮かべた…。



「掛かったな馬鹿め!!」



 言うや否や、無事だった残りの骸骨兵を全てヴィリアントに向かわせる。骸骨兵と自分自身による挟撃により、鉄蛇の頭は勝ちを確信した…。



---しかし、勝ちを確信していたのは彼も同じだった…。



「そりゃお前の方だ…!!」



 言うや否やヴィリアントは空いた左手を懐に突っ込み、何かを取り出した。そしてそれを背後に目をやらぬまま向けた。そして…



「なっ!?」


「残念だったな…」



---突如、彼の背後に迫りつつあった骸骨兵が全て、何かの炸裂音と共に粉砕されたのである…



「な、何をした貴様!?」



 動揺を隠せない鉄蛇の頭に対して憎たらしい笑みを浮かべながら、ヴィリアントは背後に向けていた左腕を鉄蛇の頭にも見えるようにゆっくりと前に戻した。


 彼が左手に握っていたものが視界に入ってきた時、鉄蛇の頭の顔から血の気が引いていった。ヴィリアントの左手には黒々として細長い、レバーアクション式のショットガンが握られていたのだ…。



「さて、準備運動はここまでだ…」


「ッ!?」



 言葉と共にヴィリアントは再度右手のサーベルを振り上げ、叩きつけた。鉄蛇の頭は咄嗟にそれを杖で防いだが…。



「横がガラ空きだぁ!!」


「ぐふぅっ!?」



 突如わき腹に激痛が走る。視線を向けると、ヴィリアントの左手に握られていたショットガンが自分の横っ腹を抉るように叩きつけられていた…。激痛と吐き気で一瞬だけ後ろに後ずさったが、目の前の男はそれさえ許してくれなかった…。


 魔法を放つために距離を取ろうとしても身体能力はヴィリアントの方が上らしく、中々離れることができない…。それどころか彼の猛攻から逃れることさえ叶わなかった…。


---振り下ろされる斬撃


---叩きつけられる打撃


---放たれる銃撃


---蹴り込まれる衝撃


 破壊の烈風により、鉄蛇の頭は見る見るうちにボロボロになっていった…。



「オラオラ腰が引けてんぞぉ!!そんなもんか!?」


「くっ…そがああああああああああああああああ!!」



 せめて一矢報いんと大振りの一撃を振り下ろすが、それさえ当たることはなかった…。ヴィリアントの頭を狙った一撃は少し伏せるだけで避けられ、そのままカウンターの要領で逆にショットガンにより顔面を殴られて吹っ飛ばされてしまった…。



「う…ぐお……!!」


「終わりだ…」


「ぬおっ…!?」

 


 鉄蛇の頭は呻きながらも立ち上がろうとしたが、ヴィリアントは彼の胸部を踏みつけることによりそれをさせなかった。そしてショットガンの銃口を頭の眉間へと突きつける…。


 鉄蛇の頭は忌々しげにヴィリアントを睨みつけ、そのまま口を開いた…。



「…何が蒼風一味、何が『戦嵐計画』だ!!くだらねぇ『空賊の心得』を未だに守り続ける時代遅れどもが、俺らもお前らも大した違いは無いだろうが!!」


「亜人の集落しか襲わない腰抜けと一緒にすんな。あと、『空賊の心得』を守らない奴の方が圧倒的に少ないって知ってるか?……このモグリ野郎が…」


「黙れ!!あの亜人風情のクサレ雌狐・・が作ったルールなんざモガッ!?」


 

 そこから先を口にすることは出来なかった…。喚き続ける鉄蛇の頭の口にヴィリアントがショットガンを突っ込んだのである。それでも尚喚こうとする鉄蛇の頭を、ヴィリアントは先程と変わらない表情で見下ろしていた


---ただ、彼の瞳はゾッとするほど冷たくなっていたが…



「今、なんつった…?……いや、やっぱり言わなくていい。どの道殺す…」


「むぐっ…!?」


 

 言葉と同時に銃身をさらに喉の奥へと捻り込む。苦しむような呻き声が耳に入ったかもしれないが、頭にまでは届かなかった。彼は表情を変えず、冷たい瞳のまま淡々と言葉を続ける…。



「俺の目の前で『あの人』を侮辱する真似は許さねぇ…。例えそれが同業者だろうが王族であろうが…」


「ッ!?」


「吐いた言葉は、鉛弾に変えてその薄汚い口に戻してやる…」



---フェルマッド号の船上に、ひと際響く銃声が轟いた…。

















「終わったのか?」


「あぁ、リゲルか。ちょうど今、な…」



 首から上が無くなった鉄蛇の頭"だった"骸が転がるその場所から離れようとしたその時、背後から声を掛けられた。声のした方を向くと、敵船に対する『仕込み』を終えたリゲルが立っていた。



「アストたちは?」


「さっきすれ違ってな、『すぐに戻るから先に行ってろ』と言ってたぞ?カザキリと紅葉にも伝えた。この船に残っているのは私とお前だけだ。」


「分かった。ならとっとと帰るとしよう…。」



 そう言って二人はその場から立ち去り、リリアンヌ号へと歩を進めた。途中、自分の仲間達に屠られたのであろう鉄蛇一味の骸の山が目に入った。



---バラバラに切り裂かれた者…


---何かに押しつぶされた者…


---眉間に絵札が突き刺さった者…



 普通ではありえない死に方の数々であったが、彼らは微塵も気にかけない…。この光景は蒼風一味の戦場において普通の光景なのだ…。


 そんな時、リゲルがおもむろに口を開いた。



「で、やはりコイツらは駄目だったのか?」


「あぁ。所詮、軍人崩れの無法集団だった。勧誘する価値も無かった…」


「この航海が始まって一回目の相手が同士・・じゃなかったのは幸いだったな」


「まったくだ。これで"今後出会う空賊が軒並み逃げても"言い訳できる…」



 最初に出会った空賊が奴らでよかったと今は素直に思えた…。もしも自分の予想が正しければ、今後遭遇する空賊は出会いがしらにことごとく逃亡する筈である。そんな状況が続いたら御目付け役に怪しまれ、計画に支障が出かねない…。



「おっと、言ってる間に着いたな…」



 気づいたらフェルマッド号に船首をぶち込んだリリアンヌ号の甲板が目の前にあった。二人はフェルマッド号から飛び移り、難なく着地した。




---ヒュオッ!!……ズゴオオオオオオオオオン!!




「ウオオオオオオッ!?」


「なんだ!?」



---どこからとも無く飛んできたと共に…




「あ、あの野郎…俺を殺す気か…?」


「無事か?」

 


 甲板に着地したヴィリアントの鼻先数センチの距離に突き刺さった見覚えのある一本の槍…。その槍は突然青白く輝き始め、その光の中から黄金の輝きが溢れ出して来た。


 

「おぉう、金銀財宝ザックッザク!!」


「雑魚の割にはそこそこ持っていたようだな…」



 槍からあふれ出してきたのは鉄蛇空賊団が所持していた財宝の数々であった。槍からとめどなく溢れる財宝の数々は瞬く間にリリアンヌ号の甲板を埋めて……いかなかった…。



「…ありゃ?」


「もう終わりか…?いや、相手の実力を考慮すればこんなものか…」



 財宝が勢いよく出たのは最初だけで、ものの十秒でお宝フィーバーは終了した。それでもそれなりの数と質だったので、良しとしよう…。


 その時、財宝を出し終えた後もしばらく輝き続けていた槍が一層強く輝き始めた。そして…




---カッ!!




「ふぅ、ただいま~」


「よ、お疲れさん」



 光が収まると其処には、アイカを抱えた状態のアストが立っていた。実はアストの槍には転移魔術の術式が仕込まれており、槍がある場所なら自由になんでも転移させることができるのだ。


 そのため戦闘中でも槍を投擲し、その場所へと一瞬で転移しながら間合いを詰めたり攻撃を回避したりすることに使用する。あとはこの様に物資の転移などが主な利用法である。



「…ところでアイカ、この体勢はいつまで続ければいいのかな?」


「もう少し続けてください」 



 さっきは軽く流したが今のアイカはアストに抱えられた状態である。しかも、御姫様だっこ…。転移魔法を行使する際、アイカは『不安なので抱きかかえて下さい』という無茶振りを行使してきたのだった…。曰く『現実の女性のぬくもりを教えるため』とか…。


 この際、アイカにはフィノーラの存在を打ち明けようか本気で迷ってしまった…。



「では此方も譲歩しましょう。疲れたので医務室まで連れて行ってください」


「譲歩してるの、それ?」


「ではずっとこのままで…」


「分かったよ、行くよ…。じゃ…ヴァン、先に行ってるよ?」



 ヴィリアントの返事も待たず、アストはさっさとリリアンヌ号の船内への扉をくぐって中へと入っていった。残された二人は互いに目を合わせ、微妙な表情を見せた…。



「…どう思う?」


「アイカ…って、言ったか?……言葉の割には彼女の顔、真っ赤だったぞ?」


「……頑張れ、ミレイナ…」


「我らの給仕係りに幸あれ…」



 本人は自覚しているのかしていないのか微妙なところだが、アストはハーレム体質である。フィノーラを恋人にしてからもその体質は変わってないようで、どうやら彼女やミレイナも…。



「まぁ、この話はここまでにして……リリアンヌ!!」


「は~い」



 ヴィリアントの呼びかけに応えるように彼らの隣で無数の黒い影が集まり、亡霊リリアンヌがその姿を現した。それを確認したヴィリアントは即座に支持を出す…。



「敵船を爆破する。船を動かせ」


「りょ~かい」



 その言葉と同時にブリッジに誰も居ないはずのリリアンヌ号が動き出した…。フェルマッド号の横っ腹に突き刺した船首をメキメキいわせながら引き抜き、そのまま距離をとる。


 そしてある程度距離を取ったのを確認し、リゲルが右手を掲げて何かを呟き始めた…。



「【数と紋章 赤と黒 表と裏 破壊と再生 光と闇 この世の理は表裏一体…】準備できたぞ?」



 唱えたのは『魔導式』の詠唱。今頃フェルマッド号の船内に仕掛けられた全ての術式絵札が光輝いている頃だろう……それを確認できる者は誰一人残って居ないが…。


 リゲルの言葉を聞いたヴィリアントは一度だけ頷き、口を開いた。




「よし、爆破!!」



「承知、【連鎖火炎瀑札】!!」



 

 その瞬間、フェルマッド号のいたる所から爆発と火柱が生まれ、巨大な船体を中から食い散らかしていった…。まるで悲鳴を上げるように船体を軋ませるフェルマッド号…しかし、永遠に続くかと思われた爆発の連鎖は突然に終わりを告げた。


 爆発の負担に耐え切れず、フェルマッド号がその巨体をボロボロと崩れさせ始めたのだ。パーツが減るごとに高度を下げ、徐々に重力に引かれて落ちていった……そして…。


 断末魔の様な轟音を響かせながら、鉄蛇の船は大地へと叩きつけられた…。





「……怨み言は地獄で聞いてやる。だから、今は…」




---燃え盛る巨大な鉄蛇の棺に背を向け、蒼風は自身の棺の中へと戻っていった…。


どうしようかな…『マジシャンな~』のネタバレは『黒猫は~』のネタバレでもあるんだよなぁ……どうしよう…?

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