Phase 3-02:重力は最弱である
※この作品は生成AIを使用して作成されたものです
政府の会議室という場所は、いつ来ても空気が重い。
物理的な意味ではない。
空調は適温で、湿度も快適で、椅子はやたら高級だ。
でも、空気が“慎重”でできている。
一言が議事録に残り、
一つの表情が予算に響き、
一つの沈黙が責任者を作る。
そういう場所だ。
私はその“重さ”に、入り口で一度深呼吸した。
(よし……今日は謝る回数を減らす……)
隣を見る。
ザルグは、何の緊張感もなく歩いていた。
まるでコンビニに行くテンポで、国家予算の部屋に入っていく。
そして私の予感は、会議室の扉を開けた瞬間に確信へ変わった。
――これは荒れる。
会議室中央には、誇らしげな“島”がある。
展示台の上に置かれた、白く美しい模型。
プレートにはこう書かれていた。
『次世代大型ロケット H-4(仮)』
政府高官、宇宙開発局、重工メーカー、学者っぽい人、
「説明する役」と「拍手する役」が綺麗に分かれて座っている。
そして、中央に立っている宇宙開発局長が、やけに気持ちよさそうだった。
「……以上が、新型エンジンの概要です」
局長が模型を指差す。
「このエンジンを採用することで、月面輸送コストを従来比で――」
少し間を置いて、
「10%削減できます!」
拍手が起きた。
“10%”という数字に、場が安心している。
派手すぎず、夢見すぎず、予算審査に通りそうな数字。
私は拍手に合わせながら、思った。
(このまま行けば、今日は平和……)
その瞬間。
「10%?」
ザルグが立ち上がった。
会議室の空気が、スン、と冷えた。
「誤差だな」
拍手が止まる。
止まり方が綺麗すぎて怖い。
局長の顔が引きつった。
「……失礼だが、君はどなたかな?」
私が立ち上がるより早く、ザルグが口を開いた。
「銀河開発公社・辺境開発係長のザルグだ」
局長が一瞬固まる。
当然だ。そんな肩書き、地球には存在しない。
私は慌てて割り込んだ。
「す、すみません! えっと……宇宙開発の外部専門家で……! ちょっと、その……特殊な」
特殊どころじゃないのだが、ここで“宇宙人です”と言ったら私が病院送りだ。
局長は咳払いをして、無理に笑顔を作った。
「……では、専門家としてのご意見を」
「いいだろう」
ザルグは模型へ歩いて行った。
――歩いて行ってしまった。
私は追いかけた。
「ザルグさん、触らないでください! それ、たぶん企業秘密で――」
「おい」
ザルグは局長に言った。
「その模型、ちょっと貸せ」
局長が反射的に身を守る。
「これは精密模型で――」
「貸せ」
声が低い。
“議論する声”じゃない。
“現象を起こす声”だ。
局長が「え、いや、その」と言った瞬間。
ザルグは模型を持ち上げた。
「ちょっ……!」
私は手を伸ばしたが、遅かった。
ザルグは――
模型を床に落とした。
ガシャン!!
静寂のあとに、悲鳴が一つ遅れて飛んだ。
「ああっ!!」
局長だ。目が泳いでいる。
重工メーカーの役員が立ち上がる。
「何をするんだ!! それは――」
「重力だ」
ザルグは、壊れた模型を見下ろしながら言った。
「お前らが相手にしてるのは、これだ」
「……は?」
局長が、壊れた模型とザルグを交互に見て、言葉を失っている。
ザルグは会議室を一周見回した。
「お前らは、この惑星が作った“引っ張る力”に逆らうために、
莫大な燃料を燃やしてる」
「だがな」
彼は指を一本立てた。
「重力なんてのは、物理学の四つの力の中で――」
一拍置いて、
「最弱の雑魚だ」
空気が凍った。
私は心の中で崩れ落ちた。
(出た……最悪の単語……)
重工メーカーの役員が怒鳴る。
「馬鹿な! 重力は地球規模の力だぞ!
地球の質量が生む、巨大な――」
「巨大?」
ザルグは笑った。
冷たい笑いだ。
「笑わせるな」
ザルグはホワイトボードの前へ歩く。
ポケットから、小さな磁石を取り出した。
そして――
パチン。
ホワイトボードに貼り付ける。
会議室が「?」の顔で埋まる。
「見ろ」
ザルグは磁石を指差した。
「この小さな磁石は、今、地球丸ごとの重力に勝っている」
「……は?」
局長の口から、さっきと同じ音が出た。
ザルグは淡々と続ける。
「地球の質量は $6 \times 10^{24}$ kg。
確かに巨大だ。だが」
ザルグは磁石を指で軽く叩いた。
磁石は落ちない。
「この“板にくっつく力”は、
地球の引っ張りより強い」
ざわつきが広がる。
「つまり」
ザルグが言う。
「電磁気力は、重力より圧倒的に強い。
桁が違う。10の36乗倍だ」
私は心の中で計算した。
(10の36乗……“ほぼ宇宙”……)
ザルグは会議室を見回し、吐き捨てるように言った。
「お前らは、わざわざ“最弱の力”相手に、
一番効率の悪い化学反応で挑んでる」
「それがどれだけ非合理か、分かるか?」
沈黙。
誰も反論できない。
反論しようとしても、土俵が“文明”じゃなく“物理”になっている。
局長が、やっとのことで声を絞り出した。
「……では、ロケット以外に、どうしろと?」
その質問を待っていたように、ザルグが笑った。
「ロケットは捨てろ」
そして、彼は短く言った。
「テザー(紐)を使え」
「……紐?」
誰かが呟いた。
その瞬間、私は悟った。
(あ、これ……次回、もっと揉めるやつだ……)
ザルグはホワイトボードにペンを取り、
まるで“当然の次の一手”として言った。
「地球の磁場を使う。燃料ゼロで、軌道を変える」
私は、壊れた模型の残骸を見ながら、深く息を吐いた。
(……謝る準備、しとこ)




