Phase 3-03:紐で泳ぐな
※この作品は生成AIを使用して作成されたものです
会議室は、まだザルグの言葉の余韻でざわついていた。
「テザー……?」
「紐、って言ったか?」
「冗談だろ……?」
誰もが“比喩”だと思いたがっている。
私は知っている。
ザルグは比喩で話さない。
局長が咳払いをして、場を立て直そうとした。
「……仮に、だ」
「仮にその“テザー”とやらが存在するとしても」
彼は理性的な声を装って言った。
「宇宙エレベーターの話なら、何度も検討されている。
素材強度、振動、コスト、リスク……どれも未解決だ」
周囲がうなずく。
この辺りは“安全な反論”だ。
「宇宙エレベーターじゃない」
ザルグは即答した。
「え?」
「だから違うと言っている」
ザルグはホワイトボードに、縦線を一本引いた。
「お前らは“吊る”発想から離れられていない」
彼は線の横に、大きく×を書いた。
「重力に逆らって、下から上へ。
支える、耐える、引っ張る」
そして、線を横に倒した。
「それがダメなんだ」
私は嫌な予感がして、口を挟んだ。
「えっと……ザルグさん、“泳ぐ”って言ってましたよね」
「そうだ」
ザルグはうなずいた。
「泳ぐ」
彼はホワイトボードに、新しい図を描き始めた。
地球。
その周囲を取り巻く、ゆるやかな曲線。
「地球は巨大な磁石だ」
「地磁気が、空間に張り巡らされている」
彼は磁力線を描きながら言う。
「その中に、長い導電性の紐を垂らす」
誰かが思わず言った。
「……垂らす?」
「そうだ」
ザルグは平然としている。
「衛星から、数キロから数十キロの電線をな」
会議室がざわついた。
「ちょっと待て!」
重工メーカーの役員が立ち上がった。
「宇宙でそんなものを振り回したら――」
「振り回さない」
ザルグは首を振る。
「横切るんだ」
彼はペンで、磁力線を横切る矢印を書いた。
「フレミングの左手の法則」
「電流、磁場、力」
ザルグは三本の指を立てる。
「導電性テザーに電流を流す」
「すると、磁場との相互作用で――」
ペン先を強く押しつけた。
「ローレンツ力が発生する」
会議室が静かになった。
理屈は、分かる。
悔しいほど正しい。
「つまり」
ザルグは淡々と続ける。
「地球の磁場を固定子として使う」
「テザー付き衛星が回転子だ」
「巨大なモーターを、惑星サイズで使う」
誰かが小さく息を呑んだ。
「燃料は?」
局長が聞いた。
「要らん」
「……は?」
「要らんと言った」
ザルグはきっぱり言った。
「電気があればいい」
私は思わず呟いた。
「……電気なら、ありますね」
「月と砂丘からな」
ザルグは当然のように返す。
「推進にも使えるし、逆に発電もできる」
「エネルギーは循環する」
「重力に逆らう必要がない」
役員が額を押さえた。
「……理論は分かる」
「だが、それは制御できるのか?」
「そんな長い紐が、他の衛星や――」
「デブリだろ」
ザルグが遮った。
「金属デブリは磁場で弾く」
「プラスチックは?」
「計算で避ける」
即答だった。
「……計算で?」
「俺のセンサーなら可能だ」
私は思わずツッコんだ。
「それ、一般化できないですよね?」
「だから俺がやる」
ザルグは胸を張った。
会議室がざわめく。
「成功率は?」
誰かが聞いた。
「99%」
「ロケットは?」
「90%台」
「……」
「比べるまでもない」
局長は、もう疲れた顔をしていた。
「……では」
「試験的に、だ」
「一機だけでも――」
「もうある」
ザルグが言った。
会議室が止まった。
「……え?」
「昨日の夜に打ち上げた」
ザルグは何でもないことのように言う。
「今、軌道上で展開中だ」
私は心の中で叫んだ。
(聞いてない!!)
(というか、止めてない!!)
局長の声が裏返る。
「き、昨日!? 承認は!?」
「物理法則は承認を待たない」
ザルグは真顔だった。
「結果はもう出る」
彼は静かに言った。
「お前らは、見届ける側だ」
私は、会議室の天井を見上げた。
(……ああ、これ)
(次、絶対ニュースになる……)
窓の外には、青い地球が広がっている。
その周囲で今まさに、
一本の“紐”が、泳ぎ始めていることを。
誰も、まだ知らなかった。




