地名
レジナルド殿下が捜索隊の指揮の為に席を外したのと交代で、ロイスナートさんが、大きな地図を持ってきた。
軍の保有しているこのあたり一帯の地図だ。
「他の者にも確認しましたが、やはり遺跡というものがあるとは聞いたことがありません」
ロイスナートさんは、殿下の護衛騎士になる前、三年ほどナルンに駐在していたことがあるらしいが、このあたりで遺跡があるという話は聞いたことがないらしい。
「鉱山が多いので、あちこち穴はあいておりますけれど。少なくとも軍の資料にはありません」
「龍石がなければ入れないのであれば、一般の人間にはわからない入り口なのだろうな」
リオンさまは地図を見ながら呟く。
「ナルンは広い。しらみつぶしに探すとなるとかなり大変じゃないか?」
兄が大きくため息をついた。
「地名とかはどうでしょう?」
前世の日本では、地名に土地の記憶が残っていることがあった。山の中でも潮見とかついていると、昔は海が見えたんだよとか、水にまつわる地名だと、水害が多かったとか。
新しく切り開いたりして地名が変わってしまうと、そうした記憶は消えてしまうのだけれど。
「このあたりは、帝国ができてからずっと帝国領ですから、それほど大きく地名が変わったりはしていないと思うのですが」
国境の町ではあるけれど、昔から栄えている場所でもある。
「地名ですか?」
ロイスナートさんは地図をじっと見つめた。
「単純に龍が入っているとなると、こちらの山に古龍の谷というのがございます。あとは、龍の寝床というとても固い岩が廃坑になったこちらの奥にあるとか」
「廃坑のほうはともかく、その谷はナルンの街中から遠いな。逆に言えば、ナルンの町の検問を通らずにたどり着けるかもしれない」
リオンさまはロイスナートさんが示した場所を見て呟く。
「アルキオーネ嬢はどう思う?」
「龍石の必要な人工物って考えると、とても固い岩って気になります」
普通に掘り進めたりできない固い岩を恐れから龍の寝床と呼んだのかもしれなけれど、私たちの知らない物質で出来た人工物という可能性もある。
「赤い月は、魔術王国に隠れて様々なことを実験していました。彼が作ったものかどうかはわかりませんけれど。人に出入りすることを隠しておきたいのであれば、鉱山も良い隠し場所かもしれません」
まして、ずいぶん昔に廃坑になっているのであれば、余計に誰も気づかないかもしれない。
「そうだな……ではそちらへ行ってみるか」
リオンさまも頷く。
「しかし殿下。既に廃坑になってからかなり古いものでございます。崩落の危険がないとはいえません」
ロイスナートさんは苦い顔をする。
「ちなみに古龍の谷というのはどういう場所なのですか?」
「深山幽谷という感じでしょうか。かなり険しい山奥ですね」
「それはそれで、龍を呼べそうな雰囲気がありそうだな」
リオンさまは顎に手を当て、首を傾げた。
「どうせ、あてずっぽうなのだから、とりあえず、近い方から行けばいいんじゃないか?」
「近い方……」
身もふたもない選び方だ。まあ、兄らしいと言えば兄らしい。
「では、まずは龍の寝床へ行くことにしよう。何があるかわからないから、装備はしっかり用意しよう。その間に兄上が奴らを確保してくれれば、話は早いけど──」
「しかし殿下、流石に廃坑は危ないのでは?」
ロイスナートさんの表情は険しい。
「危ないのはどこでも一緒だ。私に何かあったとしても、その時は兄上が何とかしてくれるから大丈夫。もちろん、何もないように全身全霊で皆を守る覚悟はある」
「殿下はご自身の安全を一番にお考えいただいた方が……」
思わず口をはさんでしまう。
もちろんリオンさまは魔力も武力も優れているから、実力的には守られる側というより、守る側に立っても不思議はないけれど、やはり皇子様なのだから、自ら楯になるようなことはやめてほしい。
「今回一番、自身の安全を考えるのはアルキオーネ嬢、君だよ」
リオンさまは呆れたような眼で私を見る。
「狙われているのは私ではなく君だ。そこのところを間違えないように」
「まあ、そうだな。今回はリオンさまの言う通りだ」
リオンさまと兄に言われて、私は渋々「はい」と頷く。
そして、数時間後、私たちは廃坑の『龍の寝床』へと向かった。




