龍の寝床
龍の寝床のある廃坑は、かなり古いものらしい。
いつ廃坑になったのか、はっきりとした記録がなく、いつの頃からかわからないが全く鉱石が出ないということで立ち入り禁止になっている。
ほかの鉄鉱山の場所と異なる山だそうだ。今では立ち寄る人もいない。山はかなり険しい。坑道の入り口は街道に近く、もしここダリン司祭たちの目指す場所であったなら、人目を避けて侵入することはまず無理だろう。
そう言った意味では、ここを捜す意味はあまりない気はするが、近い方から調べるほうが話が速い。
リオンさまと兄、そして私とロイスナートさんは、一週間ほどできる装備を用意した。龍の寝床そのものは、日帰りできる距離だそうだけれど、万が一奥に何かあった時のためだ。それを越える期間が過ぎても私たちが戻らなければ、捜索隊が組まれることになっている。捜索隊の捜索隊ってことになるから、そうなったらかなり格好悪いけれど。
「崩落の危険があると聞いていたが、とりあえずは大丈夫そうだな」
坑道の入り口の前は、かなり草が生い茂っていて侵入が大変だったけれど、一歩坑道に入ってみれば、コケも生えていなかった。ひんやりとした空気。四方は固い岩壁で、天井が低い。私はギリギリ大丈夫だけれど、男性陣は全員、体をかがめた状態で歩く必要があった。横幅はかなりあって、人が一人歩けるだけの幅の隣に、トロッコがあったと思われるレールが敷かれていた。
「坑道って、もっといろいろ、ごつごつしていると思っていました」
ランプの明りに照らし出された坑道は、最初こそごつごつしていたけれど、先に進むにつれて、つるりとした壁になっている。床も起伏がなくて、天井が低いことを除けば、非常に歩きやすい。
放棄されてから百年以上たっているはずなのに、岩盤を支える坑木は腐っていない。しっかりと坑道の地盤を支えている。トロッコ用のレールも錆びていない。
「魔術が使ってあるのですね」
もちろん魔術で加工すれば長持ちするだろうけれど、あまりこういう場所に魔術を使うことはないと聞いていた。鉱物の位置を探索する魔術の邪魔になるからだ。
「坑木やレールだけでなく、天井も壁も魔術で強化している。一時的にすることはあるかもしれないけれど、鉱物の探索には邪魔なはずだが……そちらに魔術は使っていなかったのだろうか?」
リオンさまは首を傾げる。
「レールは多少使用感があるから、ものを運んでいたのは間違いないとは思いますが」
ロスナートさんが屈んでレールに傷があることを指摘した。
つまりこのレールはフェイクで敷かれたものではないようだ。
「アルキオーネ嬢の言う通り、天井も壁も床も均一で綺麗すぎる。坑道というより、計画的に掘り進められた地下道と言われた方がしっくりくる。天井は低すぎるけれど」
背の高いリオンさまは普通に立って歩くことは不可能で、頭一つ分屈んで歩いているから歩きにくそうだ。
「ただ、地下道だとすると、ここを作った奴らの背が低かったってことか?」
「どうでしょう。ワザと歩きにくくしたとかもあるかもですね」
身長的にぶつからない私でも、つい体をかがめてしまう高さだ。少なくとも大人なら、ここで全力疾走する気にはならないだろう。
「あー、腰がいてぇ」
しばらく歩いていると、兄が呟いた。音が反響して、思ったより響く。
「ダビー、声が大きい。とりあえず、他に人の気配はなさそうだけれど」
リオンさまに諭されて、兄は「すまん」と頭を下げる。
もしここが『遺跡』であるなら、ローバー・ダリン司祭と鉢合わせする可能性もゼロではない。用心は必要だ。もっとも、入り口からここまでほぼ一本道で、迷いようがない。枝分かれしている部分もないわけではないが、主要な道以外は、長く伸びていなくて、それこそ『フェイク』で掘られているかのようだ。
「この先です」
ロイスナートさんを先頭に私たちは龍の寝床にたどり着いた。
そこは広場のようになっていて、天井も他よりは高くなっており、男性陣はようやく背を伸ばすことができた。
龍の寝床と呼ばれている岩は、そこだけ他の岩より色が白っぽくて、壁沿いに棚のように一段高くなっている。
トロッコのレールはまだ奥へと延びていたが、話によればこの先は池になっているらしい。
「これが、龍の寝床」
惹かれるようにその棚に近づき、その白い岩に手を当てる──すると、白い岩に魔力線が走り魔法陣が描かれ、ゆっくりと音もなく壁が開いた。




