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私を殺すラスボスは兄の親友  作者: 秋月 忍
中等部編

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鬼饅頭

 その後。

 部のみんなが来るまで、私と兄は、ジムさんと世間話をした。椿宮の置かれた状況を探るためだ。

 ジムさんの話では、食材の購入については、昨年あたりから抑えるように命じられているらしいけれど、最終的な会計の処理はニック・ドロワ男爵がしているらしい。

 それから思った以上にポルダ夫妻の権力が強い。椿宮の主であるルシアーナ妃が病気であり、リオン殿下が未成年ということもあるだろうけれど。

 なんだろう。

 リオン殿下本人に闇を感じたことは今までなかったのだけれど、この椿宮には何かどんよりとしたものがある。それが即、不正とかではないのかもしれないけれど。

 それに。やっぱりロイヤルファミリーって、普通の家族とは違うのだろう。リオン殿下は思っていたよりも孤独なのかもしれない。

「お、アルキオーネ、みんな来たみたいだぞ」

 兄に言われて厨房の入り口に目をやると、殿下とエミリアさま、クラーク先輩にフィリップ兄さまが入ってきた。

「ごきげんよう、アルマクさん。さすが、椿宮の厨房ですわね。素晴らしいですわ。まあ、大魔導士グラドの保冷箱ではありませんか!」

 エミリアさまが感嘆の声を上げる。エミリアさまも大魔導士グラドをご存知だとは少し驚いたけれど、上級貴族の一般教養ではあるから不思議でもないか。

「ぼ、僕、お役に立てましょうか?」

 クラーク先輩はかなり緊張しているようだ。先輩は宮廷そのものに来たことが数えるほどしかないらしい。

「アル、それで何を作るの?」

 すっと私の横に来たフィリップ兄さまが腕をまくって、手を丁寧に洗いながら微笑む。

 フィリップ兄さまはうちの屋敷に来た時に手伝ってくれたこともあるから、当然、即戦力扱いだ。

「はい。今日は『鬼饅頭』を作ります」

 私は用意してもらっていた赤イモをまな板に置いた。

 とりあえず、エミリアさま優先で、あとの男性陣は少しずつ参加してもらうスタイル。

「まずは、赤イモをさいの目に切って、水に晒します。皮をむいてもいいのですが、今回は皮が綺麗なのでそのまま残しますね」

 ほんの少しだけやってみせて、私は包丁をエミリアさまに譲る。

「お芋は硬いので、切るときは気を付けてくださいね。ご無理はなさらなくてもいいですから」

「やりますわ。(わたくし)家でも練習しておりますの」

 エミリアさまは包丁を握り、丁寧に切っていく。包丁を持つ手はまだぎこちないけれど、とても真剣だ。真面目で勤勉な人柄がよくわかる。

 一本切り終えたところで、クラーク先輩に代わってもらった。騎士になる予定の先輩は、軍事演習の野営に備えて、料理も修行しているらしく実に手際がいい。

「こいつ、刃物を持つと別人だろう?」

 兄は笑うけれど。

 確かにいつものおどおどした姿からは考えられない美しい包丁さばきだ。

「ダビーさまも上手いですよ」

 クラーク先輩はすかさず、兄を立てる。

「それはそうです。兄は私が仕込みましたから」

「まあ、そうだな。剣の達人なら絶対に上手いはずって言われてやらされちゃってさあ」

 兄は頭を掻いた。

「同じ刃物じゃないですか」

「その論理だと、料理人は、全員、超一流の剣士だろ?」

 まあ、そうなのだけれど。前世で読んだ剣豪もので、強い剣士は魚をさばくのも上手だった印象がどうしても強いのだ。

「ダビーはアルマク嬢に弱いんだな」

 くすりとリオン殿下が笑う。

「リオン殿下もやってみませんか?」

「おいアルキオーネ」

 さすがに不敬だろうと言いかけた兄だけど。

「ああ。やってみるよ」

 リオン殿下はクラーク先輩から包丁を受け取ると、ゆっくりと切り始めた。

「殿下は何をやられても、お上手なのですね」

 エミリアさまが感嘆の声を上げる。

「私が最後だからね。みんながやるのを見ていたから」

 リオン殿下はそう言うけれど。実際、器用なのだろう。包丁を持つ手に迷いがない。

「次はどうすればよろしいの?」

「水を切りますね」

 芋をざるにあけ、軽く振って水気を切った。

「お砂糖と塩をまぶして混ぜ、しばらく置きます。その間に、お湯を沸かしますね」

 最後に水、小麦粉を加えて、小さな器に注いで、あとは蒸すだけだ。

「シンプルですわね」

 エミリアさまは拍子抜けしたようだ。

「うちにはせいろという鍋は、たぶんないのですけれど」

「大きなお鍋を使って、浅いお湯の中に器を入れても大丈夫です。あとで、図を描いてお渡ししますね」

 そういえば、どんな鍋でも蒸し器に出来るなんて商品も日本にはあった。作ったら売れるかなあ? 

 でも結局のところ、調理器具って、庶民の富裕層がどれだけ必要とするかだなって思う。貴族は、便利な道具を買って人の手間を減らすより、人を雇えるということに甲斐性を求めるようなところがあるから。

 とはいえ、メルダナ公爵家ならせいろも購入できるだろうし、何ならせいろじゃなくても、金属製の蒸し器くらい簡単に用意できそうだ。

「アル、湯気が」

「ありがとうございますフィリップ兄さま。そろそろよさそうですね」

 蒸気が上がってきたのを確認して、火傷をしないように気を付けながら器を並べ、ふたをする。あとは火が通るのを待つだけである。

「どんな味なのでしょう、わくわくしますわ」

 エミリアさまは目をキラキラさせながら、湯気を吹くせいろを眺めている。

「な……シンプルな味わいですよ」

 懐かしい味……と言おうとして、言い換える。

 バターと牛乳と卵を使用するケーキが普通のこの帝国では、蒸しまんじゅうも蒸しパンも懐かしくはない。あえて言うなら、素朴な味だろう。

「蒸すと素材の甘さが引き立つのです。油脂控えめにできるので、健康にもいいですから、おすすめですよ」

 人参やカボチャなども、蒸すととても甘くなる。

 とはいえ、蒸し料理の王さまは、やっぱり茶わん蒸しかなあ。点心系も捨てがたいけれど。

「お嬢さまは変わった料理をご存じなのですね」

「ええと。はい。本で読んだりして」

 ジムさんに言われて、慌てて頭を掻く。

「へぇ。どんな本なの?」

 リオン殿下に突っ込まれて、私は焦った。もちろん、料理の本は各種取り寄せ、読んだりしているのだけれど。

 鬼饅頭については、完全に『前世』の知識だ。ただ、スイートポテトとかある時点で、この世界のどこかには、きっとあるはず。

「えっと、たぶん、海の向こうの東の国の本だったように思います。はっきりと覚えていないですけれど」

 私はへらへらと笑ってみせる。

 読んでみたいとか言われたら、めちゃくちゃまずい。

「研究熱心なんだね」

「そんなことは……そろそろ大丈夫かも?」

 リオン殿下の追及をなんとかかわして、私はふたをとった。小麦粉がしっかり固まって、芋の色も黄色が濃くなっている。

「エミリアさま、火傷をなさらないように気を付けながら、芋にその金串をさしてみてください」

「こ、こうかしら?」

 おっかなびっくり刺した金串は、すうっと芋に刺さった。

「あ、穴が」

「大丈夫です。火が通った証拠ですよ」

 鍋を火からおろし、鍋つかみをはめてから、そっと器をとりだした。

「完成です!」

 ほんの少し甘い香りがする。お芋の赤い皮がアクセントだ。

「とりあえず、まずは出来立てを少しずつ食べてみませんか?」

 お行儀は悪いけれど、作りたてを食べられるのは料理人の特権だ。

 私は器から二つほど取り出して、ジムさんを含めてみんなに少しずつ渡した。

「ど、ドキドキしますわ」

 厨房で立ちながら食べるなんて、お行儀が悪いことこの上ない。

「皆さんは一応、私が食べた後にお願いしますね。特に殿下は」

「……毒を入れる隙なんて、どこにもなかったと思うんだけれど」

「こういうのって、形式が大事なのですよ」

 私はにっこり笑って、真っ先に口をつけた。まだ温かいお芋が甘くて柔らかい。

「うん。美味しいです。みなさまもどうぞ」

 私の合図を待って、みんなも口にほおばる。

「まあ、甘くて、柔らかいのね」

 エミリアさまは嬉しそうだ。

「確かに温かくて、素朴な味わいだ。とても美味しい」

「なあ、アルキオーネ、もうここで全部食べたらダメなのか?」

 一口で食べてしまった兄は、残りもこのままここで立ち食いしたいらしい。気持ちはわからなくもないけれど。

「いいんじゃないか? 別に」

「で、殿下?」

 私は驚いたけれど。殿下はいたずらっぽくウインクした。

「どう思う? メルダナ嬢?」

(わたくし)も賛成ですわ。冷めてしまったらもったいないではありませんか」

 ふふふと、エミリアさまは嬉しそうに微笑む。

「アル、殿下がいいっておっしゃるんだから、いいよね?」

 早速フィリップ兄さまが一人に一つずつ器を配っていく。相変わらず仕事が速い。

 結局、作った分は厨房で全部立ち食いしてしまうことになった。高貴な人に何をさせているんだろう、私。

「お嬢さま、私も同じものを作ってもよろしいでしょうか? ルシアーナさまがお好きそうなので……」

 ジムさんはおそるおそる私の方を見る。

「全然かまわないです。ちなみに、重曹をいれて生地をふんわりさせたりする方法もありますし、芋じゃなくて、カボチャとかでも美味しいですよ」

「アルキオーネさんは本当に博識なのね」

 エミリアさまはすかさずメモをとっている。勤勉な人だ。

「こいつは、食いしん坊なだけだと思うぞ──って、いてぇ!」

 思いっきり私に足を踏まれて、兄が悲鳴を上げる。

「君たちは本当に仲がいいね」

 くすりと、リオン殿下は微笑んだ。

 ひたすら鬼まんじゅうをつくっていただけ(;^_^A すみません。



 東海地方ではメジャーな『鬼まんじゅう』全国区ではないので蛇足までに。要するに芋いりの蒸しパンのようなものです。


 作中では器に入れておりますが、クッキングシートにのせて蒸すだけでもいけます。(本式? のレシピだと割と平たく、小麦粉控えめな場合が多いので)アルミカップ、おかずカップなどに入れて蒸す方法もあります。


ちなみに私は、ホットケーキミックスで作ることが多いです。(そうするとほぼ芋入り蒸しパン)電子レンジでも作れますので、レシピ検索などをしてお試しを♪

私のお勧めのサツマイモの銘柄はシルクスイートです。

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