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私を殺すラスボスは兄の親友  作者: 秋月 忍
高等部編

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決闘 5

 私は決闘の原因となった当事者ということで、一番の特等席に座らないといけない。道場の中央の高い位置。つまり、皇帝陛下のすぐ前の席だ。

 誰も私を見てはいないとは思うものの、まるで物語のヒロインにでもなったかのような場所。席に案内してくれたレイベナ先輩にもう少し目立たない席がいいと頼んでみたのだけれど、「ダメに決まっているでしょ」と言われてしまった。

 リオンさまは私の名誉の為に戦うことになったのだから、私としてもそのことを受け止めなければいけない。

 道場にリオンさまとマルドーネ公子が入ってくると、観客席から歓声が上がった。

 決闘は剣術の試合と同じルールで行われる。

 前世のスポーツに例えるなら、フェンシングより、剣道の方がイメージとしては近い。

 ただ、同じではない。剣道の試合に比べると試合場が倍くらいの広さがある。

 試合は、どちらかが負けを認めるか、意識を失うかすれば終わる。例外的に、剣から手を離したり、場外に出るなどの反則行為を三回以上行うと、負けだ。相手の反則を誘う戦い方は卑怯とする風潮もなくはないらしいけれど、そのほうがケガは少ないらしい。まあ、そうだろうな。

 それにしても。私の知っている原作はどこに行ってしまったのだろう。

 マイア・タランチェ子爵令嬢にプロティアの巫女なる二つ名はなかったし、そもそもあんな性格ではなかったはず。

 それに、彼女と恋に落ちるはずだったのはレジナルド殿下のはずなのに、どう見てもマルドーネ公子と交際しているかのようだ。

 今もマルドーネ公子と一緒に話をしている。

 私が心配することではないのだけれど。

 マルドーネ公子は本当にいいのだろうか。今日はフィーナ皇女こそ来ていないけれど、皇帝陛下もフィーナ皇女の母である皇后陛下も観覧なさっているのに、他の女とベタベタしていては王配候補から外されても文句は言えない。まあ、放棄したのならいいのだけれど。そうでないのであれば、マイアにもフィーナ皇女に対しても失礼だ。

 リオンさまはクラーク先輩と何か話をしている。

 魔術師の印象のあるリオンさまだけれど、皮鎧姿も似合う。腕の筋肉とかも、よく見ればかなりたくましい方だ。

「アルキオーネさん。よろしければ、こちらに来ない?」

 誘いの声をかけて下さったのは、ルシアーナさま。

 ルシアーナさまの席はスーヴェル皇后陛下の隣。指し示しているのは、その隣だ。要するにロイヤルな並びの端の席ということ。

「おひとりで見るのは寂しいでしょう?」

 寂しいことは寂しいのだけれど、だからといって、ルシアーナさまの隣だなんて畏れ多い。

「おお、そうだな。アルマク嬢、こちらに来るとよい」

 ルシアーナさまでも断りにくいのに、陛下にまで呼ばれる。

「あの、ですが、私がそちらに並ぶと、さすがにマルドーネ公爵の反感を買ってしまいますので、ご遠慮いたします」

 もちろん、ルシアーナさまはリオンさまの母親なのだから、皇室としてはリオンさま寄りで間違ってはいないのだけれど。決闘の結論が出る前に私が皇室に支持されているみたいな流れになると、公子はともかくマルドーネ公爵の立場がなくなる。それは国政にとってあまり望ましくない。

「本当に賢いお嬢さんだこと。こんなお嬢さんを侮蔑なさるなんて。どう考えても非がどちらかにあるかなんて考えるまでもないわ」

 ため息をついたのはスーヴェル皇后陛下だ。

「いくら政略結婚でも、アレではフィーナが不憫です。家格はともかく、皇族の前で誠実な青年を装う程度の知恵もないなんて」

 吐き捨てるように言う皇后陛下の視線の先には、マイアといちゃつくマルドーネ公子がいた。かなり憤慨しているようだ。

 それはそうだろう。

 フィーナ皇女以外の女性と親しくしておいて、王配につこうとするのは虫が良すぎる。

 皇帝が側室を囲うのとは話が別なのだ。この国で一夫多妻が認められているのは皇帝陛下だけ。フィーナ皇女が帝位につき、公子がその夫となったとしても、公子には妻を他に持つことは許されない。別の配偶者を持つことができるのは、フィーナ皇女の方だ。

 前世の記憶がある私にとっては、『皇族』だからといって、複数の妻や夫を囲うのもどうかとは思うのだけれども。

「アルマク嬢、ぜひこちらにお座りになって。政治的なことなど気になさらずともよろしいですわ」

「皇子の婚約者に喧嘩を吹っ掛けた地点で、公爵も覚悟はしておろう。ましてアルマク嬢は儂が気に入って、皇子の嫁にと望んだのだ」

「お言葉は嬉しく思いますが、決闘前に白黒をつけるような真似は無粋と考えますので」

 恰好をつけるつもりはないけれど。リオンさまの試合の前に、皇族を味方にするのは、さすがに気が引ける。

「まあ。本当に賢いお嬢さんだこと。リオンが気に入るだけのことはあるわね。よかったわねえ。ルシアーナさん」

「はい。陛下」

 話には聞いていたけれど、スーヴェル皇后陛下とルシアーナさまは仲が良いらしい。特に、椿宮の横領事件の後、リオンさまが皇后陛下を頼ってから関係が大きく改善したとのこと。

 もともと皇后陛下は、きっぱりさっぱりとしたお人柄。少々苛烈ではあるけれど、非常に有能で悪い方ではない。

 なんにしろ、勝敗の行方は別として、マルドーネ公子は王配になる未来のチケットを手放してしまったのかも。壁に耳あり、障子に目ありだ。

 あとでマイアとはただのお友達だなどといっても、おそらく通じないだろう。とはいえ、身から出た錆なのだから仕方がない。

「それではこれより、決闘を始めたいと思います」

 兄の声が道場に響き渡ると、ざわざわしていた会場がシンと静まり返った。

「剣をこれへ」

 レジナルド殿下が中央に立ち、号令をする。

 二本の木剣が運ばれてきた。一方にはブルーのリボン。もう片方には朱赤のリボンが結ばれている。

「規約を守り、お互い結果を恨むことのないように」

 レジナルド殿下に二人は頷いて、それぞれ自分の剣を手に取った。

「勝利を」

 リオンさまは叫び、剣を手にすると、私の方に剣をかかげ、そして結んだリボンの端にそっと口づけをした。

 気障といえば気障なのだけれど、リオンさまがやるとそれはまるで、物語のヒーローのようで。心臓がバクバクと音を立て、顔に熱が集まってきた。

 こういうシチュエーション、物語などではどこか冷めた目で見ていた私だけれど、対象が自分自身、しかも超がつく美形であるリオンさまだと、信じられないほどの破壊力がある。

 それを見ていた観客から悲鳴のような歓声が上がった。

「では、両者開始線に」

 レジナルド殿下の合図で、二人は剣を構えた。

「始め!」

 その声とともに、マルドーネ公子は声を上げて、足を踏み出し、上から剣をふりおろす。

 リオンさまは一歩だけ下がると、公子の剣を力で払いのけた。

 リオンさまの腕の力の方が圧倒的に勝っていたため、公子は思わず剣を手離し、木剣がからからと宙に舞う。

「くそっ」

 マルドーネ公子は悪態をつきながら剣をひろう。マルドーネ公子の腕のあたりが僅かに光る。リボンによる『光の加護』だろう。

「おおっ。プロティアは私に味方している。剣なら私にも勝機がある!」

 マルドーネ公子が叫んで、再びリオンさまに剣をむけるが、ことごとくリオンさまの剣で受け止められている。

「まだまだっ!」

 マルドーネ公子は前へ前へと踏み込んでいるつもりなのだろうが、リオンさまは後退するようにみせかけて、右に左にと公子を振っているから、実際にはそんなに下がってはいないのだけれど。

 きらりと公子のもつ木剣が一瞬、光を反射するように光った。

「──なっ?」

 光に目を焼かれたのか、リオンさまの動きが止まった。

「リオンさま!」

 その隙を見て公子が木剣を振り下ろそうする。その時、リオンさまを無数の水滴が囲み、その剣を弾いた。

「なんなんだ?」

「まったく。アルキオーネ嬢は優秀すぎる──」

 リオンさまは、苦笑して。

「長引かせるとまた何を仕掛けられるかわからない。いっきに行く」

 ずっと守勢だったリオンさまが前に踏み出し、力強く何度も打ち込む。するとマルドーネ公子はずるずると後ろに後退し始めた。

 しかも、全部の打ち込みを受けきれず、何本か体に入っている。

「くっ……はっ」

 マルドーネ公子の顔が苦痛に歪んだ。

「ま」

 リオンさまの剣の軌道が変わり、公子の手を打った。

「痛っ」

 剣を持つ手を打たれ、公子は下がりながら剣を取り落とす。

「落剣、及び場外、マルドーネの反則負け!」

 レジナルド皇子の声が道場中に響き渡り歓声が巻き起こった。



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