決闘 4
短め。すみません。
剣術部の試合の規則にあわせるということで、木剣、皮鎧は支給品。鎧の下に着るものも、決まっている。とはいえ、下着の類はさすがに検査はしないそうだ。その気になれば魔刺繍などで強化することはできるのだけれど、さすがにそこまで厳密にやってはいられないし、そのあたりは『常識の範囲で』ということらしい。
というわけで、厳密な検査を受けるのは、『リボン』のみ。
検査内容は、そのリボンに魔力が付与された『時期』と『効果』。効果については、相手を直接的に攻撃するものでなければ良いとされている。
付与者の同席は任意であって、絶対ではないのだけれど、私もリオンさまと一緒に検査場に入る。
「リオン、こっちだ」
レジナルド殿下が手招きをする。
ちょうどマルドーネ公子は検査中のようだった。彼のリボンはマイア・タランチェ子爵令嬢が贈ったものらしく、彼女も一緒だ。
それにしても、マルドーネ公子は、一応は王配候補。そして本人もそれを自任しているようなのに、いちゃついているようにしか見えない距離で女性を伴うのはどうなのだろう。
もちろん、フィーナ殿下はまだ幼い。だから恋愛対象として見ることができないのはわかる。彼が他の女性と恋愛したいのならすればいいけれど、それなら王配になりたいという気持ちは捨てるべきだ。皇女に対してあまりにも不誠実である。
検査室は、一応、剣術競技では必須の施設だが、普段は備品置き場として使っているようで、壁面には防具の棚があった。
「ふむ。付与したのは、昨日。光の護符ですな。ほほう。なかなかに素晴らしい」
聞きおぼえのある声だと思ったら、ザナン伯爵だった。
検査をするのは、学院の魔術の先生であるスーナン氏と聞いていたのに、検査員席に塔の教え長であるザナン伯爵が座っている。
「どうしたの?」
「いえ、検査員も豪華なのですね」
リオンさまに尋ねられて、私は答える。
「リオンがリボンを持ってくるとしたら君のだから、と長がおっしゃったのだよ」
レジナルド殿下が私の疑問に答えた。
「私のだから?」
どういう意味だろう。
「リオン、私も見てもいいか?」
「嫌です」
リボンを覗き込もうとしたレジナルド殿下をリオンさまは拒絶した。
「なんだよ。別に取り上げたりはしないのに」
「嫌なので」
リオンさまはリボンをさっと隠すように胸に押し当てる。
「見せたところで減るもんじゃないのに」
レジナルド殿下は不服そうだ。
「私に縫ってもらったものです。本来なら検査員にだって見せたくありません」
「リオンさま?」
私としては縫い目を見られたくないので助かるけれど、そこまで隠したいのはどうしてなのだろう。
「わかったよ。ほら、お前の番だ」
レジナルド殿下はあきれ顔で、ザナン伯爵の方を指さした。
どうやらマルドーネ公子の検査が終わったらしい。公子は許可の下りたリボンを木剣に結び付け、それを机の上に置いた。剣はここで預かりとなる。検査後のすり替えを防ぐためらしい。リボンに付与できる魔術はたかがしれているから、少々神経質になりすぎのような気もするけれど。
剣を預けると、マルドーネ公子とマイアはこちらにちらりと視線を向け部屋を出て行った。
「やあ、アルマク嬢。お久しぶりですな」
「まさか教え長自ら検査をなさるとは思いませんでした」
驚く私に、ふぉっふぉっと、ザナン伯爵は声をたてて笑った。
「たまたま陛下のお供で見学に来たついでですよ。さあ、殿下、リボンを渡してくだされ」
「……わかりました」
リオンさまは名残惜しそうにリボンをそっと撫でてから、ザナン伯爵にリボンを渡す。
「ふむ。水の護りですか。そしてこれを一晩で刺したと。実に素晴らしい」
ザナン伯爵は感心したようにリボンを観察する。
「しかも、リオンさま本人がお使いになれば、さらに強くなるようですな」
ふむふむとザナン伯爵は頷く。
「へぇ。それはどういうことですか?」
レジナルド殿下がザナン伯爵にたずねた。
「魔刺繍っていうのは、魔力はもちろん『想い』も載ります。ある特定の対象を想って縫った場合は、付与効果がさらに高まるのですよ。まあ、言ってみれば愛ですな」
「ええぇ?」
私は思わず声を上げた。
「あ、あの、そんなことは」
無事を願って縫ったことには間違いないけれど。
「……そんなに思いっきり否定されると、傷つくよ」
リオンさまが苦笑する。
「でも、アルキオーネ嬢が、私のことを想って縫ってくれたのが伝わってくるから、とても嬉しい」
「でしょうねえ。殿下も決闘し甲斐があるというものでしょう」
ザナン伯爵はにやりと笑った。
「私は……ただ、教本の通りにしただけなので」
「普通は教本の通りにしたところで、こんな風に魔力付与はできないものですよ。いやあ、殿下の婚約者候補でなければ、ぜひ魔塔に引っ張りたいところですな。付与師として類まれなる才を持っておられる」
「……針仕事は苦手なのですが」
褒められるのは嬉しいが、そんな風に手放しでほめられると思わず首を傾げたくなる。
「いやいや。さすが龍の加護を持つ方だ。いいものを見せていただいた」
ザナン伯爵はリボンをリオンさまに返し満足げに頷く。
「ただし、このリボン、みだりに人に見せぬ方がよろしいでしょう」
「……わかっている」
ザナン伯爵の忠告にリオンさまは頷く。
「どういう意味でしょうか?」
「たかが一日でこれだけの付与をできるのは、常人ではないということです。そもそも水の護りそのものの防御効果だけみても、その皮鎧よりも高いかもしれません。私が来てよかった。『ナスラン』に係るものに知られるようなことがあってはなりません。秘密を知る人間は少ない方がいいですから」
ザナン伯爵はふうっと小さく息を吐いた。




