決闘 2
短め遅刻すみません。
一般的に、男性が女性の為に決闘するならば、女性はリボンを渡すという慣習がある。
これは、伝説の騎士ヴァンスが、皇女ラスティをめぐって魔騎士ゼルと決闘した際、ラスティが、つけていたリボンをヴァンスに渡したという故事からきているらしい。
現在は戦争や魔物の討伐、狩猟会にいたるまで、お守りとして大切な人に魔刺繍をほどこしたリボンを渡すようになった。魔刺繍というのは、魔力を込めて縫う刺繍で、僅かながらに魔術を施すことができる。つまり単に想いを込めたものというより、本気で防御力アップ出来る。つまり簡易的な魔道具だ。話を聞いたところによれば木剣と防具は共通のものらしいけれど、リボンは禁止ではないらしい。もっとも魔術は新しいもので一点に限るという条件付きだ。リオンさまなら自分で作る方がいいに決まっているのだけど。使う使わないはリオンさまの自由。私だって少しは役に立ちたい。正式な婚約者ではないけれど。
「ミーナ、朱赤のリボンってあったかしら?」
「朱赤のリボンですか?」
屋敷に戻った私は、ミーナに尋ねた。
私はふだん髪を下ろしていることが多く、リボンを使うことがあまりないし、黒髪だから、薄い色をあしらうことがほとんだ。
決闘の時に渡すリボンの色は、渡す相手にちなんだカラーにするのが一般的だ。リオンさまのカラーといえば、やはり朱赤だろう。もちろん、あの夜空色の瞳の色もリオンさまらしいけれど。
「ございますけれど、こちらをどうなさるのですか?」
「明日までに魔刺繍をしたくて」
時間がないからそれほど効果のある魔術はほどこせないけれど、やれることはやるべきだ。なんといってもリオンさまは私の為に戦うことになってしまったのだから。あの時は言えなかったけれど、庇って貰えて嬉しかった。その感謝の気持ちも伝えたい。
「何があったのですか?」
「リオンさまが決闘することになってしまって」
「まあ! お嬢さまの為に殿下が決闘なんて、まるで物語のようですわね」
私の話にミーナは目の色を輝かせた。
「商人を今から呼びつけても用意しなくては」
「ええと」
さすがにそこまでの暴挙をして良いものだろうか?
「すぐにでも魔刺繍のご準備いたしますわ。奥さま、旦那さまにもお話ししなくては」
「ちょっと大事には」
しないでと言いたかったのにミーナはバタバタと部屋を出て行ってしまい、私は魔刺繍の図案の本を開いた。
ちなみに私は、料理は得意な方だけれど、手芸系は『人並み』レベルで、可能であれば『他人へのプレゼント』はしたくない方だ。前世みたいにミシンはないから、チクチク縫うしかないから時間がかかるというのもある。ただ、魔刺繍はそれなりに出来る。なんといっても、魔刺繍は、魔法陣を縫い付けるようなものだから、図案が決まっていて、絵心が不要であるのと、縫い目の美しさを競うというよりは、魔力の付与が大切だからだ。もちろん、縫い目は美しいに越したことはないし、その方が魔力もしっかり載るらしいけれど。
「ちょっとアルキオーネ、ダビーに話は聞いたわ。殿下があなたの為に決闘をするって聞いたのだけれど、私たちも応援に行くわ」
魔刺繍用の道具を持ってきたミーナとともに、母がやって来て興奮した様子で話しだした。
「そんなに大事にして大丈夫なのか、私にはわからないのですけれど」
未成年の決闘は、ほぼスポーツのようなものだ。誓約書の内容は、生徒会に入るか入らないか的なもので、政治的な内容とは違う。そんな家族総出で見守るものなのだろうか。
「お兄さまは何とおっしゃっているのです?」
「ダビーが言うには、皇族と公爵家の決闘だから、それなりに人は来るだろうって話よ」
剣術部の道場には観客席があるらしい。
「場合によっては、入場制限をかけるって言っていたわ。うちは関係者だからチケットはいらないらしいけれど」
「チケット?」
「あら知らなかったの? 高等部の決闘は人気があるのよ。数年に1度くらいしかないらしいけれど。それにしても凄いわ。アルキオーネ。リオンさまがそんなにあなたのことを想ってくださっていたなんて、私はとても感動しているの」
陛下が私とリオンさまとの縁談を打診なさったとき、母はあまり賛成ではなかったらしい。なんといっても私に皇族の妻は無理というのと、とてもではないけれど、私がリオンさまと恋愛関係にあるとは見えなかったかららしい。まあ、事実恋愛関係ではないのだけれども。
「ああ。もう。アルキオーネの為に決闘してくれる殿方だったなんて。ダビーから全部聞いたの。素敵だわ。アルキオーネ、結果がどうなったとしても、あなたは殿下と婚約するべきよ。迷う必要なんてないわ。そんなにも思ってくださる方と他に出会える可能性はないのだから」
母はうっとりと私の手を握る。母は恋愛物語が大好きなのだ。確かに決闘なんてまるで物語の中の話みたいで私も現実感がない。ただ私としてはマイアのことも気がかりで手放しで浮かれるわけにはいかないけれど。
「お母さま、私、魔刺繍をしないとですので」
私は話が長くなりそうな母を追い出して。
できる限りの魔刺繍をすることにした。




