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MT  作者: あだぞら
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一週間が過ぎた。

大量の中傷メールが来ることは無いけれど、断続的には来る。

そして、それは、怖いくらい表面化しない。

教室に入ったときに感じる空気は、怖いくらいに変わらない。

僕が転校してきた時も、MTが始まった次の日も、そして、僕がMT内でいじめられるようになってからも。

暗黙のルール、MTの世界でのことを現実世界に持ち込まない。ということがはたらいているのだろう。

でも、僕にはMTの世界でのことを現実世界に持ち込む、という考え方の基準が分からない。

これから先、僕が『前にいじめられていた』という事実のもと現実でいじめられたとしたら、それは違反になるのだろうか?

MTの世界でのこと、という定義がMTの世界で罵られた、裏切られたなどのものだったとしたら、明らかに違反になる。

でも、僕の『前にいじめられていた』という事実は現実のものであって、MT内で起きたことじゃない。

それが理由でいじめられたとしても、なんら不思議は無いんじゃないか?

そう思うと、体が震えた。



「尾上はさぁ!いつもいつもビクビクビクビクしてさぁ!俺らがそんなに信じられねぇか!?」

金子君はそう言って僕を突き飛ばした。少し、悔しそうに。

「べ、別に、そういうわけじゃなくて…」

僕は自信なく言って、視線を泳がせた。

「まただよ!そうやって俺らのこともまともに見れないじゃねぇか!ほんとはバカにしてんじゃねぇの!?俺らのことをよ!」

「ち、ちがうよ!僕は…」

嫌われるのが、怖くて。


また、いじめられている頃の夢を見た。

結局、僕は前の学校で、本当のことなんて言えなかった。

本当の僕は人に嫌われるのが怖くて、いつも人の顔色を窺おうとするいやらしい人間だ。

でも、それを言ったら嫌われるんじゃないか。そう思ったら、何も言えなくなった。

自分でなんとかしなきゃ。無力なくせにそう思って、効果も無い悪あがきをして、何も変わらなかった。

迷惑をかけたくない。そんな無駄な正義感だけが先走った。

僕は嘘が上手くないから、両親にもいじめられていることがすぐバレたし、先生達にも広がって、それでチクったと思われて、更にいじめられたりもした。

変わろうと決意したのに、ここでも他人の行動を気にしてしまう。

それが、MTが原因だとかって言い訳にできないから、僕は多分、全く変われていないんだろう。


教室内は、今日も怖いくらいに正常だ。

楽しそうに雑談したり、携帯をつついたりするいつもの光景。

なのに、僕の目にはなんでこんなに恐ろしく映ってしまうのだろう。

あの楽しそうな雑談が、何気なくつついている携帯の中が、僕の悪口だったら。

疑心暗鬼が止まらない。実際に体が傷つくわけじゃないのに、恐怖が体を支配する。

そして、解放されることもない。

家に帰った後も、いつ携帯がメールを受信するのかと怯えて何事も無いことを祈る日々だから。

僕は机に突っ伏して、顔を腕にうずめた。

みんな、いなくなってしまえばいい。

必死で、念じた。


「尾上、移動教室」

平城が起こしてくれた。

「あ、ごめん」

僕は慌てて準備をした。

「現実逃避も、いい加減にしとけよ」

「ごめん…」

バレてたんだ。僕はまた少し落ち込んだ。

「お前、何もやらないで逃げるの、得意そうだもんな」

平城は小さく言って、先に行ってしまった。


『お前、何もやらないで逃げるの、得意そうだもんな』

家に帰ってからも、その言葉が、頭から離れない。

僕には、その言葉が、それを言った声が、どうしても僕を貶しているように聞こえなかった。

僕には、まだやるべきことがあるんじゃないのか?

そんな気にさせた。

僕はメモ帳を取り出した。

まず自分を除く三十三人分のメールアドレスをメモ帳に書き出して、いじめに参加しているアドレスを消していった。

結果、メールをしたことがあって、いじめに参加していないアドレスが二個、メールさえしたことのないアドレスが二個となった。

この四個のアドレスのどれかにコンタクトを取らないと。

この四個のアドレスが同じグループという可能性も高い。

メールをしたことのあるアドレスから届いたメールは三通。


―また一からのスタートですね。

 みなさんどんまいです(笑)

―あなたとはメールしてないねぇ。転校生君?(笑)

―ゆっくり慣れていこーね(笑)


あまり攻撃的ではないけれど、僕の正体はバレていると考えてもいい。

慣れていこう、とメールをくれた人が多分一番接しやすいだろう。僕の正体もバレているし。

僕はメールを打ってみた。


―summermusicとか、mellowのグループとは違う人?


なんて打っていいか分からなくて、あまりにもストレートになってしまった。

普通は、遠回しな話から入って、話の内容から判断するのが妥当なんだろうけど、僕はそんなに器用じゃない。


―違うよ?ってか、いじめられてたからってそんなストレートに聞いちゃだめだよ(笑)


僕はこのメールが真実なのかどうかも分からない。

だけど、僕は信じるしかない。


―ごめん。そのいじめられてるってことのメールって出回ってるの?


―いや、『転校生君って前の学校でいじめられてたんだとさ!』っていうメールが届いただけだけど?


じゃあ、今は僕がいじめられていることがみんなに回されているっていうことは無いのか。

真実かどうかは分からないけれど、少しずつ分かってきた。


―じゃあ、今ってどんなメールが届く?


―うちのグループの人のがほとんどだよ。もしかして、ターゲットにされてるの?うちのリーダー紹介しようか?


僕の中で、再び希望が出てきた。

疑心はあるけれど、それを、確かに感じた。



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