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理科の授業を終えて、携帯を見たら、メールが十件近く着ていた。
その全てが、僕がいじめられていたことを冷やかすような内容だった。
また全てのメールに返信したら、他人に合わせるなんて言われてしまうのだろう。
僕はとりあえず、一番最初に着たメールに返信しておいた。
―勘違いだって(笑)
そんなこと誰から聞いたのさ
―いじめられねぇように必死なのは分かるけどさ、さっさと認めろよ。
どうせ最初からバレてたんだからさ。
最初…から…?
なんで、バレてたんだろう。転校初日のあいさつの時に、変な仕草でもしてしまったのだろうか。
喋り方?それとも普段の態度?
何が、いけなかったんだ…?
―どうして、バレてたの?
僕はこのメールを送信してしまった。
これが、僕の敗北を意味していたのだと、僕はまるで気付けなかった。
―バーカ。んなことわかるわけねぇだろ。
自分で認めるようなバカ相手じゃないかぎりな。
まるで意識が遠くなるような感覚がした。
錯覚がしたんだ。
summermusicの質問に対する答えのせいで、いや、ずっと前に、バレていたんだという。
このクラスのみんなが、僕がいじめられていたことを知っているような錯覚がしたんだ。
脱出できやしない牢獄に閉じ込められたような、逃げ道を全て塞がれたような。
また、前の学校みたいにいじめられるんだ。そんなことを、別世界にいる人間のことを思うみたいに、感じたんだ。
「…邪魔なんだけど」
携帯の画面を見て立ち尽くしていた僕に、戸崎が冷たく言った。
「ごめん」
僕は、相手の顔も見れないまま言った。
全ての人にとって、僕が邪魔な存在でないように、必死に願いながら。
―死亡だね。二日目にして早くも敵だらけ。
昼休みに入ってから、メールが送られてきた。さっきのやつとは違うアドレスだった。僕がいじめられていたことを認めたことは、きっとみんなに知れ渡ってしまったんだろう。
僕の前には地獄のような三週間が待っているだけだと、漠然と思った。もう、負けたんだ。
―ねぇ、バカな男子のことなんて気にしなくていいよ?
mellowからだった。まだ、味方がいるんだ。僕は嬉しくなった。
―バカだもん。あいつら。楽しんでるだけだから無視しなきゃね。
―いっそのこともっかい転校しちゃえば?またいじめられるんだからさ(笑)
―いい加減にしてほしいよね。男子達、いつまでもガキなんだから。
summermusicのグループは中傷メールを送ってくるけど、mellowのグループがかばってくれる。
前と同じじゃない。今度は守ってくれる人達がいるんだ。
―のまれちゃだめだよ。男子なんかにさ。
―ニモツまとめて、さっさと引越しの準備したら?
こんな感じで中傷のメールと励ましのメールが代わる代わるに送られてきた。
僕は中傷のメールをそれほど気にしないでいれた。mellowのグループがかばってくれることが、とても頼もしかった。なんだか楽しかったんだ。
いじめられてるのは確かなんだけど、守ってくれる人がいて、それが嬉しくて。
前の学校のことが夢に出てきて汗びっしょりで夜中に起きて、誰にも迷惑かけたくなくて膝を抱えてた。
そんな日々に、かばってくれる仲間ができた感覚が、嬉しくて、生きてるってことが希望に思えた。
生きてるってことが、楽しくなったんだ。
―誰でもいいんだよねー。男子にとって楽しかったら全部OKみたいな、さ。
―もう、返信してこないの?朝みたいにさ(笑)
―たった二日でこのザマってのが凄いよな(笑)
―すこしの辛抱だからさ。がんばってね。
新しいメールが来るたびに、いろいろと思い出した。
テレビで言ってた仲間がいればなんとかなる、なんてこと、キレイゴトだと思ってた。
実際に仲間がいることって、すごく心強い。
自分がいじめなんかに負けないくらい、強くなった気がした。
―ケジメつけろって感じよねー。男子はさー。いつまでもガキなんだから。
―てか、自分からバラすとかマジウケる(笑)
―くだらないよ、男子のやってることなんてさ。気にしちゃだめだめ。
―レベルが低い男子なんかに構ってちゃだめだよ。
―なんかさー、いじめられっこだなーって思ってたんだよねー。
―いつもビクビクしてたの、実はバレバレだったよーん(笑)
学校が終わって、メールが来なくなっていた。
もう、飽きたのだろうか?でも、mellowのグループからも来なくなってしまった。
いじめは、まったく表面化しない。
メールでは中傷が飛び交っても、実際は騒がしい教室内があるだけ。いつも通りの教室があるだけ。
でもそれが、逆に少し怖かった。
僕の知らないところでは、どこまで悪口が飛び交ってるんだろう。
誰が僕をいじめてて、誰が僕の味方なんだろう。
何気なく話してる人が、実は僕をいじめていたり、なんとなく遠めに見てた人が、実は僕の味方だったり。
僕には誰が敵かなんて、わからない。誰が味方かなんてわからない。
僕はいつもよりぎこちなくクラスメートに接して、いつもよりビクビクと辺りを気にした。
―ハッロー!またまたいじめられる気分はどう?
summermusicからメールが届いた。
僕はこのメールを見て少し笑った。嘲笑った。
バーカ。ぜんぜんつらくなんてないんだよ。
―別に。ぜんぜん平気だけど??(笑)
今度は仲間がいるんだ。僕を、守ってくれる。
お前等なんかに、負けない。
―希望で胸がいっぱいの初心者君にいいこと教えてあげるよ。
昼休みから届いたメールの、一番最初の文字、届いた順番に読んでみろよ。
何言ってるんだ?僕はそう思いながらも、メールを開いてみた。
順番に読んでいくにつれて、僕の鼓動は早くなった。
死 ね バ い い の ニ 誰 も た す ケ て く レ な い
仲間なんて、最初からいなかったんだ。
みんな、みんな敵だったんだ。
僕は携帯が嘲りのメールの受信のたびに、それと同じように震えた。




