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小柴ミラクルマルチバース  作者: 夢骨とみや
第二話 きみとぼくの創世前夜
20/79

②─1 姉弟─あね/おとうと─

〈まえがき・県立丁半高校〉

 今年の春から、未来来が通い始めた高校。ほかに市立鏡ヶ丘中学校からは、日野明保、神郷青鼻、神郷黄喉、神郷赤咳、十二月やよい、衛府恋子の六人が進学した。昔はスパルタ的な教育方針で悪名を轟かせていたが、現在では在校生及び保護者からの人気は高い。

 「ふえぇ、もう鍋から大量のビーフストロガノフをよそえないよ──グエッ」


 十二月二十日、非常に愉快な夢を見ていた私は、弟が開発したロケットパンチでたたき起こされた。

 いつものように、ベッドから転がり落ちる。


「……またか」


 ぼやきながら、私は眠気まなこでパジャマから部屋着に着替えた。少しあたたかくてぶかぶかのカッターシャツに、もこもこのダウンパンツを合わせる。親和性などはまるで気にしてない。

 今日は日曜日。お昼まで寝ていてもいい、一週間に一度だけ訪れる最高の日だ。だというのに、部屋の壁かけ時計は、朝の十時半を指していた。


 ちょっと怒って、部屋を出る。

 目的地はもちろん、わが愛すべき弟の部屋だ。


「こら!」


 と、私はドアの外から叱りつけた。

 少し待つと、「カチャ」という音とともに、部屋のドアが自動で開く。


「やっと起きた。おねえちゃんが悪いんだよ、ぼくお腹すいた」


 聞こえてきたのは、ふてぶてしい声。


 私の弟であり、部屋の全ての設備を独力で自動仕様に改造している引きこもりの天才少年・小柴去見は、部屋のゲーミングチェアに座って、パソコンのゲームをしていた。脚はどこか重心のおぼつかない様子で、椅子の下に垂らされている。


 あんなに可愛かった去見くんも、もう十三歳だ。

 立派なクソガキに育ちやがって。


「私の朝ご飯を楽しみにしてくれてるのはいいけどさ、もうちょっと穏便に起こしてあげようよ。十五のおねえちゃんは高校の環境についていけなくて、大変なんだ」


「高校? ああ、あの『思想七割、勉強三割』で有名な」


「県立丁半高校の悪口はそこまでだよ。私だって、まさかこんなに馴染めないとは思ってなかったんだから」


 リズムよく会話を刻みながら、振り返る。


 ──今年の春。小柴未来来は、晴れて市立鏡ヶ丘中学校を卒業した。気になる進学先は、偏差値が中の上程度のわりには優秀な卒業生を数多く輩出していることで知られる、県立丁半高校だ。


 思い返せば、中学校ではさまざまなドラマがあったなぁと思う。異世界からの影響に左右されつつ、時には校内の事件を解決したりして、淡い失恋も体験しつつ、青春を謳歌した。なんだかんだ最後の文化祭をやり遂げる頃には、あんなにそりが合わなかったクラスメイトたちとも意気投合できた。振り返ると、本当に楽しい中学校生活だったなと思う。


 そこへいくと、高校は本当につまらない。

 日野さんをはじめとする出身の同じ連中が何人かいるおかげで、話し相手には食いっぱぐれていない私だったけれど──。


「おねえちゃん、新しい友達は何人できたんだっけ?」


「……ぜろにん」


 両手で一つずつ丸を作ってみせると、弟は「ぷっ」と噴き出した。

 しょーがねーだろ、いないんだから。


「去見くん、それ以上いうと怖いよ」


「なぁに? 何するつもりなの?」


「いつもの和風朝食に、全部上からヨーグルトをかけて出す。何があっても完食してもらう」


 そこまで言ってようやく去見くんは謝ってくれた。紙面の上では小学校を卒業し、不登校のまま中学一年生になったわが弟だけれど、最近いたずら好きになってきていて困る。


 ただ、友達が云々の話は、耳が痛い。

 中学のときとは、色々比べ物にならない。あの頃は、『異世界からの影響で度々不思議なことが起こる』っていうたしかな理由があって避けられていたけれど、いまはそうじゃないのだ。単純に、こう……こんな表現だと、まるで私の性格が悪いみたいに見えてしまうんだけれども。


 周囲が真っ直ぐな人間ばかりで、そりが合わないのである。


 県立丁半高校は、勉強ができることよりも『人として素晴らしい人間になること』を重んじる校風だ。私のクラスメイトはなんとその堅苦しい教育方針に賛同する者ばかりで、ちっとも、仲よくなれそうな気がしない。


 毎日、宿題をちゃんとやって、学校行事に全力で取り組み、将来就職活動のエントリーシートに書けるような、未来のための研鑽を忘れない。


「『素晴らしき未来』って、そういうことなのかな……」


 去見くんの地雷を踏まないように、小さい声で私はつぶやいた。

 今日は日曜日。うちは定期テストが全部そこまで難しくない代わりに、宿題がたくさん出る。たまに宿題を忘れてくるとありえないくらい悪目立ちするので、今日中にやっておかないといけない。


 そう思っていたとき、私はあることに気がついた。

 学校の机の中に入れておいた数学のワークを、持って帰った記憶がない。

 やべっ。


〈あとがき〉

 あれから二年、高二の冬。未来来もほんの少しだけ背が伸びました。おまたせしました。酸いも甘いも噛み分ける第二話、正式スタートです!

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