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小柴ミラクルマルチバース  作者: 夢骨とみや
第一話 友愛と夢のクロスオーバー
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①─12 《七月二十六日──ダンス部公演・五~四時間前》

《七月二十六日──ダンス部公演・五時間前》


「……ふえぇ、もう食べられな──グエッ」


 来るダンス部公演の日。

 絶対に遅刻できない予定があるから、絶対に起きられる目覚ましマシンを用意してくれと去見くんに依頼した私は、朝六時、枕元の機械から出てきたロケットパンチに弾き飛ばされて起きた。

 とんでもない威力だった。


「……古典的なボケでウケを取ろうとしてくる根性は、わが弟らしくて好感が持てる」


 一人の部屋で尻もちをつきながらつぶやく。完璧に目を覚ました私は、制服に着替えて、まずは学校に向かった。


 集合時間にはまだ一時間以上余裕がある……どころか、今日の集合場所は学校じゃなく、『タイフーン戦士・風砂』の公演がある市民ホールだ。なのに私がここに来たのは、とある部活に顔を出すため。


 とある部活──そう。

 ()()()だ。




《ダンス部公演・四時間前》


「頼んだもの、できてるかな」


 朝の美術室は日が差し込んでいて、まるで思い出の中みたいな幻想的な雰囲気を伴っていた。私はそこで、二年二組の掃除係仲間にしていまの美術部部長、倉員(くらいん)(ひびき)に話しかける。


 倉員くんは、机の上の『とあるもの』を抱えて、私のところへ歩いてきた。


「この通り」


 倉員くんが運んできた『とあるもの』は、完璧な状態でそこにあった。

 本当に、これ以上ない。

 本物そっくりの迫力だ。


「──すごい! これ、倉員くんが一人で作ったの?」


「そんなに大したものじゃない、素体は以前作ったやつを改造しただけだ。でも、ちょうど立体造形の練習をしたいと思ってたところだったから、勉強になったな」


 ぽっちゃり系の倉員くんは多少ライトノベルの影響を受けやすいところがあって、喋り方がいつも芝居がかっている。そのせいで美術部の部員以外の人にはうっすら避けられている。つまり、私にとっては比較的信頼のおける人物ということだ。


 そして、面識はほとんどなかったけど、幼稚園からずっと一緒の学校に通っている男の子でもある。


「にしても、最初はびっくりしたぞ。お前が頭を下げるなんて」


 倉員くんの言葉で、私がここに来た最初の機会を思い出す。

 第一声で、挨拶をして。

 それと同時に、たしかに頭を下げた。


『──ごめんください、美術部さんに依頼したいことがあります!』


 校内で浮いている私の脈絡のない『依頼』に、唯一歩み寄ってきてくれたのが倉員くんだった。作ってほしいものについて話を聞き、「それなら俺が適任だな」と何度も頷いてくれた。


「私、そんなに意地っ張りなイメージだった?」


「そりゃあな。何があっても絶対に頭を下げない、『ストレートネックの小柴』として有名だったぞ」


 なんだそれ。私、そんなふうに呼ばれてたの?


 不本意な事実も発覚しつつ、私は倉員くんからその『とあるもの』を受け取った。あまりのずっしり感に思わず「重っ」と声が漏れる。なんとか、会場に持っていく途中で心が折れないようにしないといけない。


「ところで小柴。こんなもの何に使うんだ?」


「さあ、私もよくわかんない。知り合いに頼まれてさ、今日の公演に必要なんだって」


「ふうん……」


 適当にはぐらかして、私は美術室の出入り口へ足を向けた。


 本番は今日で、時間はそんなにない。あと四時間後には『タイフーン戦士・風砂』のショーが始まって、スケジュール通りなら五時間後には日野さんの公演がある。その途中に、あの慇懃無礼な敵幹部、『転香』は割り込んでくるだろう。

 鹿島先生の来賓席から、ステージの上へ。


「ありがとね、倉員くん。今度何かお礼する」


 ことわって、私は『とあるもの』を背負いながら、美術室をあとにしようとした。脚を引きずらないよう注意しないといけない。

 寝て起きたら決戦だと思うと、昨夜はよく眠れなかった。多少の眠気や暑さと戦いながら、私は朝早くの部屋を歩く。


 お礼は何がいいかな。倉員くんの好きなラノベ、『犬→ダイビングしました。』の設定資料集を読ませてあげようか。大家の春加瀬さんが本の虫だから、あの人の部屋に行けば大抵の人気書籍は全部そろっている。


 そんなことを考えながら、美術室を出かけたときだった。


「あのさっ!」


 倉員くんに、後ろから呼び止められる。

 重い荷物を背負ったまま、私はゆっくりと振り向いた。


 倉員くんは──何かをこらえるように、肩をすくめている。


「俺、親が画家でさ。才能があるって無理やり丸め込まれて、じつは嫌々美術部入ったんだ。何年か続けてきて、ある程度美術にも真剣になれるようになってきた。でもそんなの全部、自分を納得させるためにやってることでさ。本当は、俺は小説家になりたいんだよ。だから、その……」


「その?」


「これ作った対価にさ、俺の小説を読んでくれないか。今度、賞に出そうと思ってんだ」


 その提案は、思ってもみないようなものだった。


 そんなことでいいならぜひ。と言おうとしたけれど、それは目を細めて、楽しみそうな表情で伝えることにした。代わりに私は、今回の協力者であり功労者である倉員くんに、一つ質問をする。


「なんで私なの?」


「お前は、馬鹿にしないと思ったから」


 ふうん。

 見る目あるじゃん、倉員。

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