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小柴ミラクルマルチバース  作者: 夢骨とみや
第一話 友愛と夢のクロスオーバー
13/83

①─11 転香─インプテーション─

〈まえがき・鹿島憲実〉

 未来来の通う市立鏡ヶ丘中学校で二年二組の担任を務める、数学教師。口で理想を語るだけでは生徒と向き合ったことにはならないと考えているためにあまり喋らないことと、生来の目つきの悪さのために、よく誤解される。

 昨年度に未来来から嫌がらせの相談を受けた際は単身で校長室にまで乗り込んだが、問題をもみ消す方針をとられたために教育の世界に失望した。来年は心機一転し、高校教師になるための採用試験を受けてみようかと考えている。どこに配属されても全力を尽くすのみだが、できればかねがね噂を聞いている県立丁半高校に配属されるといいなぁ、と妄想しては男子トイレの個室でタイを直す毎日。

 ちなみに未来来に言った「子どもの戯言」という言葉は、「そんな子どもじみた嫌がらせの言葉なんて真に受けるな」という意味で言っていた。

「結構苦労したんですよぉ──この人になりすますためのメイクとか。こっちの世界に来てからはもう、勉強の毎日でしたね! メンズメイクとかやったことなかったんですけど、やっぱり興味はありましたから。知ってましたか? あなたたちが毎日使っているリップやコンシーラーにも、植物由来の天然色素が使われているんですよぉ」


「……私たちの中学校は、メイク禁止だ」


「でもみんな使ってるんでしょう? その辺の常識や暗黙の了解は、もうインストールしてきたんですよ。興味のあること以外は本当にリサーチできないのが、ボクの悪いところであり、だからこそ人生を楽しむ秘訣にもなっているんですけどねぇ」


 転香はそんなふうに多弁に喋りながら、脇のカーブミラーを覗いて、カメラの画角を作るように自分の指を合わせてみせた。


 なんだこいつ。

 一気に色んな人のことを知りすぎて、そろそろパンクしそうなんだけど。


「本当はうすうす気づいてたんですけど、でも万が一ってこともあるでしょう? 日曜だからって学校を休んで、もし生徒の補習とかがあったら、先生としては始末がつかないじゃないですか」


「私としては、むしろお前を始末したいところだけどね」


「いいですよぉ。お前みたいな小娘にできるものなら、ですけど」


 転香はそこで迫力を出すこともなく、じっと、カーブミラーとにらめっこしている。

 不気味な男だ。

 そして、よく喋る男でもある。


「お前らには勘違いされちゃってますけどね、ボクは被害者なんですよ。だって、あの『()()()()』は、こちらの意志とは全く関係なく開いて──そして、ボクをこの世界に転送してしまったんですから」


「次元の穴?」


「ボクはそう呼んでますよ」


 前髪をセットしながら、転香は言った。


 よほど鹿島先生の顔が好きなのかこいつ、と思っていたら、

「で?」

 と、突然向き直って、尋ねられた。


「どうして、わかったんです? ボクが、もといこの人間が憑依されていると」


 口調はいままでと同じ。特段迫力を出そうとはしていないのに、その視線には、異常なほどの威圧感がある。苦手な鹿島先生の目が重なるから、ってだけでもないだろう。


 これが、かいざの敵。

 これが、私たちの敵。


「……かいざから聞いた話を考えると、あなたはとんでもなく性格が悪いと思った。身体を他人に明け渡すことは選ばないタイプ。あなたが常に鹿島先生に憑依していたと考えると、昨日の交戦に説明がつく」


 昨日、田村と大野は、鹿島先生に呼び出されたと言っていた。鏡ヶ丘中学校に土曜授業の概念はないし、口ぶりからすると補習でもなさそうだった。

 そして、原因不明の『呼び出し』を受けた二人は、その道中で怪人になった。

 となると──犯人は、不自然な行動をした鹿島先生である可能性が最も高い。


「それに、よく思い返してみると、あなたは教室で私とかいざがじゃれあってたときに、かいざのほうを見た。もしかいざの外見が普通の女の子に見えていたなら、つまり角がないふうに見えていたなら──あそこで注目すべきは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()|だったんだよ。その点で、あなたはボロを出した」


「ふぅーっん。なるほどですねぇ」


 転香は甲高いテノールでそう背を伸ばしたあと、


「色々反省点はありそうですが。土曜日にうっかり出勤してしまって暇だったからって、適当な生徒を怪人化させたのが一番の間違いでしたかねぇ」


 と、言った。

 そろそろ本格的に日差しが強くなってくる。着てきた半袖パーカーの裏で、胸元まで汗がつたってきた。


 ──暇だったから。

 そんな理由で、やったのか。


「……あなたがどんな野望を腹の内に抱えてようと、正直私はどうでもいい。私はかいざと違って、この世界を救いたいわけじゃないから。でも」


「でも?」


「あの子たちを傷つけたら、許さない」


 私はきっ、と相手を睨んでそう言った。


 転香は、私なんかよりももっと鋭く、こちらを見下すように、高い背丈から睨みつけてきた。こいつ生意気だな、とでも言いたげな目だ。

 怖い、でも負けてられるか。


 弟の人生と、自分の夢のためにがんばる日野さん。

 小さな体で、世界を守るためにがんばるかいざ。

 お前が狙っている人間は、もうどっちも、私の大切な友達なんだ。


「ふぅーっん。まぁ、いいですけどね。少しムカつきますけど」


 転香はそう言って、急に辺りを見回しだしたかと思えば、学校前の地域掲示板を見つけて、かぶりを振った。


「ムカつきついでに作戦を少し変更してあげましょう。興味のないことにはとことん興味がないボクですけど、あなたが虚勢を張ってくれたおかげで、少し凡人の生活にも興味が出てきました。そのおかげで、こんなポスターが目に入ったわけです」


 転香は地域掲示板から、一枚のポスターを引き剥がす。あとには角っこの紙と画鋲だけが残った。

 見出しを見れば、何のポスターかはすぐに認識できた。




『地域限定・タイフーン戦士ショー!

 鏡ヶ丘中学校ダンス部の公演も披露決定!』




「──あのときは、この身体の主が残していたメモを見て、咄嗟に『日野は公演があるんだから気を抜くな』と言ったのでしたけれど。なるほどいやはや、こういうことだったんですね」


 鹿島先生の身長は、一説では一九十センチを超えるらしい。かなりの長身から見下してくるその姿は、トゲと、掻き上げられた前髪によって、いつもより邪悪な雰囲気になっている。


「ぶっ壊してあげますよ。あなた方の青春なんて」


 転香は、私を、睨みつけながら言った。


「やれるものなら、やってみろ」


 私は、転香を、睨みつけながら言った。


 大丈夫。

 殺す気があるなら、とっくにやりに来てるはずだ。


「ふぅーっん」転香は大きく肩をすくめた。「まぁ、お前の予想通りですよ。ボクとしてはこの世界で好きなことをしつつも、やっぱり元の世界に帰りたいので。この世界の『特異点』であるらしいお前を、無下に殺したりはできません」


「盗み聞きしてたんだ。見た目通り趣味がよくないんだね」


 というか、私、一回殺されてるんだけどな。

 うっかりミスで人を殺すなよ。


「それほどでも。無下に殺したりできない代わりに、惨く生かすつもりですから。あの邪魔ものさえ排除したら、あなたのことは十分可愛がってあげますよ。ほかの人間もね」


「重畳。じゃあ、あなたは公演の日まで私たちに手を出さないし、ほかの人にも危害を加えないってことでいいの?」


「ええ。そう解釈していただいて構いません」


「それを信じるだけの根拠は?」


 私の言葉に、転香はにやりと笑って、二本指を立てた。


「一つは、ザコ怪人を作るためのエキスがもうないということ。もう一つは、ボクだって──たまには平和な世界で植物を愛でるのも悪くないと感じる、ということです」


 その言葉を最後に、転香と私は別れた。正確に言うと、相手が一方的に、さすらうように歩道を歩いて去っていった。出勤日間違えて家に引き返しただけだから、なんにもかっこよくない。


 状況は一見悪くなった。もし鏡ヶ丘中学校の二年生が全員招待される公演の中で暴れられたら、かいざは演舞中の日野さんと入れ替わる羽目になってしまう。そんな状況をかいざは好まないだろうし、日野さんにしても不憫すぎる。世界の平和と友達の平穏、どちらも両取りするなら、こんなに不利な状況はない。


 というわけで。

 私は、とある作戦を立てることにした。

〈あとがき〉

 異世界の敵・転香との邂逅! ……未来来も言ってますが、出勤日間違えて帰っただけなので全然かっこよくありません。それでも強いは強い。これから、マジバトル開幕。

 転香との決着は「7日朝6時」「7日夕方17時」「7日夜22時」、そして「8日夕方17時」にお届けしようと思います。月曜と火曜です。なろうのアカウントを持っている方は、ぜひブクマしてお待ちください!

 第一話のクライマックスにして更新に間を空けてしまいますが、その間にはお知らせも用意しています。見逃さないようブクマがおすすめです!!

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