表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/239

第98話 【攻略対象 水の精霊王と水龍】暫定的大団円


 火龍ファルークが新たなる(つがい)候補を心に決め、落としてやるとの生き甲斐が生まれたところで、火のオーブの力は安定した。新たなる執着が、心の安寧に繋がる性質に、関わった者たちはそら恐ろしさを感じはしたが、神の如く力を有する宝珠(オーブ)の力の化身たる彼らに物言いが出来るはずもない。


「何とかアルルクを護る手段を考えていかなきゃね!」


 拳を握り締めて宣言するレーナに、プチドラがキャラキャラ笑い声を響かせる。


『レーナの蝶に比べれば、可愛いもんよ』


「へ? どーゆー意味よ、プチドラちゃんっ!?」


『そのままの意味だ。虹の君の寵を受けし娘よ』


 さらりと割り込んできたのは、水の精霊王ヴォディムだ。水龍ゾイヤは成人身長の倍程に小型化して、ちゃっかり彼の身体に巻き付いている。


『言わぬが花ってやつだノネ。堂々主張されて平然としているなら、それは受け入れてるも同然だノネ』


『我らもこれ以上、虹の君の御心を騒がせる気は無い。疾く去るつもりだ』


 レーナにとっては重要なはずの1柱と1頭の言葉なのだが、最高神リュザスの呆れるほどあからさまな好意に気付いていない彼女は何のことか意味が分からない。


 自身を平凡(モブ)村娘だと思うあまり、主要登場人物との親密な関わりが出来ることに考えが及ばないのだ。無意識に自己肯定感をとことん下方修正しているレーナの価値観が、残念なほどのすれ違いを作り出している。だが気付いていないのは、リュザスの声を聞くことのできない人間側だけ。彼女に関わった精霊や龍らは既に気付いてしまっている。


 さっさとこの場を去ろうとした水の精霊王ヴォディムと、水龍ゾイヤに、レーナは慌てて声を掛けた。


「ねえ、もしかして貴方達の海底神殿にも、ライラみたいに魔族に堕ちそうな龍が居るんじゃない?」


 ゲームの水の精霊王ルートの試練内容を思い出したのだ。


 アルルクに執着してしまった火龍ファルークを引き離すため、ヒロインには是非ともファルークルートに入ってもらいたいのだが、そうなると他の試練攻略が出来なくなることを玲於奈(れおな)は知っている。


(まだストーリー前だし、ヒロインが居なくても解決できるなら何とかしなきゃだもんね。水が枯れたり、汚染されるのは困るもの)


 水の精霊王ルートの試練は、枯渇と汚染に見舞われる世界の水源を復活させるものだ。その原因は、水の宝珠(オーブ)を祀る水の精霊王ヴォディムの海底神殿に居座った、魔族化した龍――闇龍だ。闇に飲まれた龍が側にいることにより、宝珠(オーブ)は浄化の力を保てなくなっている。だから水の王を助け、闇龍の居座った海底神殿を開放するのだ。


 とは言うものの、現時点のレーナには、ゾイヤ以外の闇堕ちしそうな水龍に心当たりはない。


 彼らが何かを知っていたら――そんな漠然とした希望を持って口にした内容だったが、ゾイヤにはすんなりと思い当たる者が浮かんだらしい。ギラリと瞳を光らせて、何者かの面影に想いを馳せている様だった。


『我が双子龍だからと言って容赦はしないノネ! 最近姿を見ないと思ったら……。力をつけて寄ってきたとて、邪魔者は我が排除するのみだノネ』


 水龍の牙の覗く口から呟かれた物騒な言葉は聞かなかったことにしよう――そうレーナは言葉を飲み込む。どうやらここにも乙女ゲームには描かれなかった裏事情がありそうだった。


 これで、世界存続にかかわる心配事は減った。そう安心した途端、レーナの中に、ゲーム世界に生まれついたなら知っておきたい好奇心が頭をもたげて、ヴォディムにしっかりと巻き付いたゾイヤをじっと見詰めてしまった。


『なんだノネ? 我の流麗なる姿に見惚れたのかノネ』


「ちょっといい?」


 ちょいちょいと手を振り、ゾイヤだけを呼び寄せて声を潜める。彼らが先に試練を片付けてくれたら、この先彼らには2度と会うことは無いはずだ。平凡(モブ)村娘とメイン攻略者なのだから。だから、これっきりだし気になることを聞いておける最後の機会なのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ