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第90話 【攻略対象 水の精霊王と水龍】花じゃない!


 あの大雑把な性格のファルークだ。何人居たかは分からないが、先に監禁されていた(つがい)の書き置きが残るのを気にせず、家具だけ綺麗なものを入れたのだろう。ならば、ライラが脱出に成功した当時の仕掛けもそのままに違いない。


 アルルクは家具という家具をひっくり返し、エドヴィンは注意深く部屋を隅々まで見て行く。レーナは過去の痕跡を中心に、不自然に残る家具の動いた跡を追おうとするが、破壊魔と化したアルルクに阻まれて繊細な観察はすぐに限界がきた。


「どうして、避ければ良いだけのものを、わざわざ壊すんだ! 君はっ」


 家具と、家具だったものが散らばり、積み上がった床に視線を落とし、エドヴィンは呆れを隠すことなくアルルクに詰め寄る。


「こーりつだよ、こーりつ! それに、こんなトコ キレイなまま残ってたら、また使われちまうだろ? オレたちが逃げた後でも」


 悪びれもせず言ったアルルクは、ニヤリと笑って見せる。この赤髪の少年は、何も考えていないようで、意外に頭が回るところがあるのだ。油断ならない、とエドヴィンは改めてアルルクに鋭い視線を向けるのだった。



 アルルクの効率的な破壊活動のお陰で、必然的に全員は、床・壁・天井と云った動かない部屋そのものを探すことになった。


 だが、目的のものは(よう)として見付からない。


『もぉーーお! あの火龍、ずぇったい細工の得意なドワーフ族に、この監禁部屋の仕掛けを考えさせたのよ! あの単細胞が、こんなに探しても何にもヒントを見付けられない凝った仕掛けを作れるワケないんだもの!!』


 手掛かりが何も見つからず、全員の間に疲れと落胆の空気が漂い始めた頃、プチドラが癇癪を起して大声を上げる。両腕を振り上げ、乗っているエドヴィンの頭を両手でぺしぺしと叩く様は、完全な幼女だ。


「ご先祖様っ!? お静まりくださいっ!! そのように暴れられては、私も……っわ!」


『きゃ』


 騎士としての訓練も受けて鍛えているエドヴィンだが、重量の増えたプチドラが頭の上で暴れては堪ったものではない。ふらりとよろけた弾みで、プチドラが床に尻からぽよんと落っこちる。ぽむぽむと跳ねた彼女は、そのまま扉の前に辿り着いた。


『もぉぉーーやだぁぁぁ! べっつにいいんじゃないのぉ? しばらくここに居たって。扉なんか植物模様で趣味良いし?』


 ブチブチと文句を垂れ流しながら、目の前にある開かない大扉に手を掛けて立ち上がる。豪華な部屋に相応しく、扉には植物の葉や花、蔓を意匠化した華やかな文様が施されているのだ。


『けど、この壁の花だけはへったくそよねー。こんな歪な花なんてないわよ』


 ふんっと、粗い鼻息をついたプチドラがふわりと浮かんで叩いた壁は、扉の真横――人の目線よりやや下。そこに、角ばった花弁がひとつながりに表された小さなレリーフが、ポツンと刻まれている。


「え? そんなところに模様があるの?」


 レーナが顔を近付ければ、プチドラが得意げに模様をツンツンと指先でつついて見せる。


『弟子の手習いにしても下手くそよね。親方に内緒で2つも彫ったのかしら。植物の優雅さの欠片も表現できていないじゃない』


「ふたつ?」


 思わず聞き返したレーナだ。目の前の平らな壁には、中央に素っ気ない小さな孔の空いた歪な花がひとつだけしかない。首を傾げるレーナに、反対側の扉の向こうの壁をプチドラが指し示す。


『あっちよ、あっち。反対側にあるじゃない』


 言われるまま視線を向けたレーナは、ひゅうっと息を飲んだ。


「花じゃない!」


 急に大声を上げたレーナに、調査に疲れていた一同はぎょっとして視線を向けた。

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