第58話 【閑話】攻略対象にゲームを語り、自分はモブだと念を押す
レーナにより、強制的に移動させられた面々は、広くない彼女の部屋に敷かれた大人1人が辛うじて寝転がれるサイズの、円形敷物に固まって座った。
円形敷物が置かれたフリースペースと、ベッド、それに窓際の小振りな書き物机しかない小さな部屋だから、必然的にこの場所になってしまうのは仕方がない。
狭い場所にひっそりと寄り集まっている様子は悪巧みをしているようだ。
「いい? さっきの話だけど、あれはこの世界の大勢には影響のない、ただの夢かもしれない、細やかなものなのよ。絶対に、取り立てて大袈裟に言うべきものではないわ。どこにでもいる傍観者の、平凡な視点を通した内容でしかないんだから。だから、それを知ってたとしても、わたしはただの平民村娘なのよ」
いや、レーナをモブだと信じ込ませる明らかな悪巧み真っ最中だ。
洗脳じみた大層な前置きのあとで、ようやくレーナは秘密としたい内容を語りだした。中途半端に知られているよりも、共通の常識として開示し、事実と異なること――例えば精霊姫との邂逅状況や、彼女の性格の相違などを知ってもらえば、自分が未来を予言するような、凄い存在でないことが伝わるだろうと云う判断だ。
それからレーナは改めて前世の記憶があることと、その知識の中身について話した。
曰く、この世界が乙女ゲーム『虹の彼方のダンテフォール ~堕ちる神と滅びる世界で、真実の愛が繋げる奇跡~』と類似した世界であること。
彼らが攻略対象と呼ばれる存在のうちの2人であること。
2年後にはヒロインとなる聖女が現れること。
そして自分は、ゲームストーリーの主軸には関係のない平民村娘の立ち位置でしかないこと。
「そっか! レーナは村の物知り爺さんみたいなものなんだな!」
ルビー色の目をキラキラさせて闊達に告げるアルルクに、レーナは微妙に引っ掛かりながらも「そうね」と相槌を打つ。聖女でもヒロインでもないレーナは、凄くなさを理解させるためには、物知り爺さん呼ばわりも享受するべきなんだろうと堪えたまでだ。とは言え、乙女を爺さんに例えるデリカシーの無さは、ヒロインに会うまでに是非直して欲しいとも思う。攻略対象として、2年後までにもう少し精神的成長を助けなければならないと、密かに心に誓うレーナだ。
「以前の話では、聖女と恋物語を繰り広げる攻略対象とやらが6人居るのだったな? それが、私と、そのアルルクだと言うんだな。そしてレーナは、恋物語には関係のない立ち位置であり、ただ最高神を探す旅に出たい――その理解で間違いないな?」
『もぉ既に破綻してるわよね』
真剣に重要事項を確認するように、レーナをじっと見詰めながらゆっくりと話すエドヴィンの肩の上で、小さな精霊姫がキャラキャラ笑った。




