第57話 【閑話】辺境伯令息と勇者、そしてプチ・ドライアド
(なんで辺境伯令息と、修行中のはずの勇者がここに並んでいるのよ! 平穏なモブ生活のために、これ以上近付きたくないんですけどーーー!?)
心の中で盛大に拒絶を叫ぶレーナだが、父母の雇い主の息子と、家族ぐるみでの付き合いの有る元隣家の息子を無下にすることも出来ない。ガックリと項垂れるだけだ。
「レーナ、随分嫌そうな反応だが、私たちは何の用も無しに来たわけではないぞ」
レーナから見れば胡散臭いことこの上ない、人形の様な綺麗な笑みを浮かべたエドヴィンが仕切り直しとばかりに話を振って来る。レーナは「えー、こっちには無いんだけどぉ」などと御座なりな反応を返すが、対するエドヴィンは、ふいに鋭い視線を三日月形の目の中に隠し、猫が獲物を甚振るような笑顔に切り替える。
嫌な予感に、レーナの背筋がザワリと泡立った。
「いつぞやの、興味深い遊戯の話だが」
「わあぁぁぁぁーーー!?」
わざとらしく、低めのトーンで隣のレーナにだけ聞かせるように囁かれた言葉に、思わず搔き消さんばかりの大声を上げる。
(お父さんや、お母さんには、前世の話も、ゲームの話もしたことなんてないのに! なんてこと言い出すの!? うちはただの平民村人なんだから、平凡な路線をこれ以上脅かすことなんて言わないでーーー!!)
ばくばくと跳ねる心臓を、密かに宥めつつ「どうした?」と心配する父に「久々のお母さんの淹れてくれたハーブティーが、あんまり良い香りだったから」と、強引に誤魔化してみせる。
「レーナ? 久しぶりにお友だちが集まって嬉しくったって、はしゃぎすぎはよくないわ」
けれど、母はやはりおかしな反応だと見抜いたのか、怪訝な様子だ。
「そうじゃないわ! ――っと、ううん、そうね! そう。ちょっと、わたしたちだけでお話してきても良いかなぁ」
声を裏返らせながら、あたふたと立ち上がったレーナは身体を反転させて長椅子の座面を飛び越える。そのままエドヴィンの腕を背後から引っ張って、余計なことを口走る前にこの場から連れ出してしまおうとしたのだが、思わぬ伏兵が潜んでいた。
「なぁ、レーナ。こいつの言った遊戯って何だ? それに昨日言ってた、大きい方の精霊姫が池から出て来る『すちる』……だっけ? ホントとちがう話もしてたよな、樹海で言ってたやつ。おきてないことを知ってるって――」
「わぁぁぁ!! アルルクも一緒に、わたしのお部屋でお話ししよっか!」
いきなり記憶力と耳の良さを発揮したアルルクの言葉を遮り、こちらも背後から腕を引いて、両親の前から強制退去を図ったのだった。




